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愛妾
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若き国王アルベルト、二十五歳。
愛する王妃シルビアと結ばれ、自分にそっくりな息子も授かり充実した日々を送っていた…のは四年前まで。
積まれていた書類を片付け、軽く湯浴みを済ませたアルベルトが訪れたのは愛するシルビアではない女が待つ部屋。
子を作る為だけに用意されている【伽部屋】と呼ばれるその部屋は、大国の王宮内に設けられたとは思えない質素なもので、広い部屋にひとつの寝台だけが堂々鎮座している。
いかにもな雰囲気を漂わせる部屋の中、艶かしい夜着を纏った若い女が訪れた主君に礼の姿勢をとっている。
腰を折って頭を垂れている女の顎に手を添え顔をあげさせれば、なるほどアルベルトの好み。
新しく召し上げられる女の絵姿を確認しなくなったのはいつからか、そんな事をしなくとも好みを熟知している側近が厳選してくれている。
「……っ…ん……」
「…悪くない」
少し深く口付けただけで頬を染め、腰を砕けさせた様子に口角は自然と上がった。
子を儲ける為とは言え、肌を合わせるなら生娘らしい反応をする方がいい。そんな事をポツリと漏らしてから、用意される女は揃って初心な反応を示す者ばかりが召し上げられている。
口付けひとつで立てなくなった女を横抱きにして部屋の中心にある寝台へと歩を進め、柔らかなそこへ女をおろすと用意されている小瓶の中身を口に含んで女へと与えた。
「ん……っ、ん…んんっ……」
全てを口移して、仕上げとばかりに咥内を舌でぐるりと撫でれば女は体をピクリと跳ねさせる。
「いい子だ」
初心な反応は好むが、あまりにも儀式的な行為は好まない為、初めての伽から数回はこうして媚薬を用いている。
即効性の強力なもので、生娘であってもひとたび男を受け入れれば貪欲に精を求め乱れ狂う。
平均より大きく太い滾りを持つ男にとって、肉欲を思う存分発散する事と子を成す事を叶えられる一石二鳥な必需品。
「ぁ…ぁん……っ」
サワ…と手を這わせれば、それだけでも達しそうなほどに鋭い快感が女の体を震わせ、期待と不安に潤む瞳を見つめながら秘所に触れれば、そこは既に沢山の蜜を溢れさせていた。
腕のいい薬師に心の中で称賛を送り、充分に濡れそぼるそこに「まずは一本…」と指を入れれば抵抗なく飲み込まれていく。
「……キツいな」
生娘らしく生意気にも侵入を阻もうとする狭さに漏らした声は、ひどく甘い。
咎められたのかと不安に瞳を揺らした女を安心させるように、優しく唇を重ね、埋めた指をゆっくりと動かしながら口内に舌を差し込み心と体の緊張を解いていく。
側近から得た情報によれば女は十六歳。
まだデビューを迎えたばかりの深窓の令嬢で、家族以外に親しい異性もおらず、手を繋いだこともない生粋の生娘とのこと。
「……お前の中はなかなか聞き分けがいい」
「はっ…ん……っ…」
優しい口付けと指使いに早くも受け入れ体勢をとり始めた事を察し、二本…三本と指を増やせばそれらを嬉しそうに包み込んできた。
華奢な体に見合う可愛らしい膨らみも、最近では目にしていなかったこともあって新鮮味がある。
指から伝わる質感は…生娘らしい事以外に突出したものは感じないが、この狭さと抵抗感は初めての女でしか味わえない。
唇から始まり首筋、鎖骨、乳房、腹部と口付けを下げていき、しとどに潤む場所にぷっくりと主張している粒を舐めてから軽く噛めば、こぽりと更に蜜を溢れさせた。
上体を起こし、充分に昂っている滾りの先端を宛がい少しだけ埋めると押し出される感覚に笑みが溢れてしまう。
初物で味わえるのは、締め付けだけではない。
何度が先端だけの抽挿を繰り返し、ゆっくりと腰を押し進めていけばやがて行き着いた最後の砦。
「……覚悟はいいか?」
薬の影響で痛みは感じないはず。それでもあえて聞いてしまうのは、その瞬間に見せる女の恐怖に歪む顔を見たいから。
女は男の期待通りの反応を見せた。
「さっさと孕むといいな」
「……っ、あぁぁぁっ…あっ、あんっ!!」
一気に貫いた衝撃に女は叫びにも似た声をあげたが、すぐに痛みを快感に変えて腰を強く押し付け締め付けてきた。
「…くっ……この狭さ……っ…いい……っ」
薄い膜を打ち破る征服感と直後に訪れる強烈な締め付けに、埋めた滾りが悦びを伝えてくる。
殆どの女が子を孕むまで半年足らずだが、大きすぎるがために孕む頃には少しばかり緩みを感じるようになってしまう。
この行為が肉欲の解消も目的のひとつとされていることは、召し上げられる際に交わされる誓約書にもしっかりと明記されている。
「はっ、あっ、へい…かっ……っ…」
そしてもうひとつ、愛妾となった女が守らなければならない誓約に【国王陛下の名を呼ばぬこと】と記されており、違えば即刻追放となる。
女を悦ばせるような抱き方をするのは肉欲解消と子を成す為のものであり、王としての責務。そこに愛情は含まれない。
時折、自分こそは真に愛されていると思い込む者も出るが、それを表に出した時点で追放。もしも確固たる地位を望んで行動しようものなら処刑される可能性もあり…実際に数名が命を散らした。
『陛下の名を呼ぶことが出来るのは唯おひとり』
『陛下の寵愛を独占されるのは唯おひとり』
多くの愛妾を迎え、多くの伽を行うことで誤った情報が広がっているが、これこそ今も昔も変わらぬ男の本心である。
「あぁっ、いい……っ…あっ、ん……っ!」
媚薬に冒され喘ぐ女を相手に、ただ快楽の追及を目的として腰を穿つ男。
久し振りの強い締め付けに、込み上げる吐精感に抗う事なく勢いよく吐き出した。
「……っ、ん…いいぞ…もっと締め付けろ」
「あ、あ、、いま……っ、ま…っ……」
同時に達した女を構う事なく、まだ衰えない滾りを襞に擦り付けながら次の吐精に向けて緩い律動を開始する。
初めての伽で激しく穿たれた女は息も絶え絶えとなり意識も朦朧としているが、揺さぶる男には関係ない。
「気をやろうと俺は構わないぞ」
既に思考を溶かしている女にその言葉は届かず、いつの間にか気をやり朝になって目覚めれば、隣に眠る男の美しさに心を踊らせた。
激しくも甘い時間を過ごし、朝を迎えるまで褥を共にしたのだから…と抱いてはならない思いを芽生えさせ、愛妾となる為に与えられた知識を総動員して眠る男のものを口に咥える。
徐々に力を持ち始めたと同時に男が目を覚まし、再度深く交わった事でその日一日を寝台の上で過ごすはめになったが、それすらも胸を焦がす女には幸せでしかない。
美しく、大国と呼ばれる国の頂点に立つ男…その男に愛される未来に胸は高鳴り、『また今夜』と残した言葉通り姿を見せた事に想いを深め、三日続けて甘い夜を過ごし、迎えた四日目の朝には自分こそが寵妃であると確信したが、それ以来パタリと途切れた訪れ。
「……どうしてっ…!!」
伽の部屋への声かけがなかった四日目の夜、別の愛妾を相手に伽を迎えていると聞き、自分こそが寵妃と思い込んでいる女は憤怒した。
「それが愛妾様のお務めでございます」
孕みやすい時期に呼ばれて子種を受けるだけ。
改めて自分の立場を認識させられた女は、追い討ちをかけるように告げられた次のお渡りについての説明に言葉をなくす。
「次回は月のものが確認された場合にのみ、同じく子を成しやすい時期に三日間となります」
つまり、子を成せば二度と抱いてもらえない。
絶望した女は秘密裏に入手した堕胎薬を服用し、処刑の道を歩むことになった。
万が一にでも子を宿していれば、堕胎薬を飲むのは王族殺しと同意である。
「愛してるの!あなたに愛されたかっただけなの!ただそれだけなの!!」
泣き叫ぶ女を高見から冷ややかに見下ろすのは愛を告げられた国王陛下…と、王妃。
泣いて慈悲を乞う女を興味なさげに見やり、隣立つ妻の腰を抱いて何事か耳元で囁けば、王妃は呆れたような目を国王に向けた。
「…なによ……なんなのよ!私は何度も愛されたわ!何度も子種を注いでもらったの!!ひとりしか生めないあなたなん───」
国王の手がサッとあげられた事を合図に女の首は呆気なく刎ねられ、ゴロリと転がった先に待っていた獣が一口で飲み込んだ。
愛妾の処刑には、他の愛妾も同席させられる。
『愚行を働けば刑に処す』
そう知らしめる為に。
その日、数人の愛妾が隠し持っていた避妊薬や堕胎薬を廃棄した。
* * * * * *
「また避妊薬か」
「先月からはお飲みになっていないようですが」
側近から報告されたのは、召し上げられてから間もなく半年を迎える愛妾について。
出来るだけ長く伽を迎えたいとの思いから、避妊薬を飲んでいた事が判明した。
「……懲りないな」
世界屈指の国土と人口を持つ大国であり、次から次へと送られてくる女を幾人か捌いたところで影響はない。
「暫くはシルビアと過ごす」
愛妾が続けざまに違反した事で、その席が埋まるまで多少の時間が空く。
「畏まりました」
「明後日まで休むから、調整しておいてくれ」
「御意」
国王の愛妾を務めれば解放される時に相応の謝礼金が支払われ、子を成せばより多くの賃金が用意されることから、名乗り出る者は後を断たない。
利口な者は誓約を守り、契約通りに賃金を手にして新しい人生を迎えているが、どうしても定期的に現れてしまう愚かな女。
それもひとえに美を追及したような容姿を持ち、鍛え上げられた体躯で貪欲に女の体を味わう男にも責任があるように思えるが、それらを進言する者はいない。
元は複数の国の集まりだった大国。
大きすぎる国の多すぎる貴族の均衡を保つ為に、手っ取り早いのが国王からの寵愛と金銭授与。
我が娘なら…と画策する貴族達によって、年頃の娘が次々と召し上げられてくる。
伽部屋に向かう時とは違い軽い足取りで執務室を出ていく主君の背を見送った側近は、小さく息を吐いて命じられた二日間の執務の調整に入った。
愛する王妃シルビアと結ばれ、自分にそっくりな息子も授かり充実した日々を送っていた…のは四年前まで。
積まれていた書類を片付け、軽く湯浴みを済ませたアルベルトが訪れたのは愛するシルビアではない女が待つ部屋。
子を作る為だけに用意されている【伽部屋】と呼ばれるその部屋は、大国の王宮内に設けられたとは思えない質素なもので、広い部屋にひとつの寝台だけが堂々鎮座している。
いかにもな雰囲気を漂わせる部屋の中、艶かしい夜着を纏った若い女が訪れた主君に礼の姿勢をとっている。
腰を折って頭を垂れている女の顎に手を添え顔をあげさせれば、なるほどアルベルトの好み。
新しく召し上げられる女の絵姿を確認しなくなったのはいつからか、そんな事をしなくとも好みを熟知している側近が厳選してくれている。
「……っ…ん……」
「…悪くない」
少し深く口付けただけで頬を染め、腰を砕けさせた様子に口角は自然と上がった。
子を儲ける為とは言え、肌を合わせるなら生娘らしい反応をする方がいい。そんな事をポツリと漏らしてから、用意される女は揃って初心な反応を示す者ばかりが召し上げられている。
口付けひとつで立てなくなった女を横抱きにして部屋の中心にある寝台へと歩を進め、柔らかなそこへ女をおろすと用意されている小瓶の中身を口に含んで女へと与えた。
「ん……っ、ん…んんっ……」
全てを口移して、仕上げとばかりに咥内を舌でぐるりと撫でれば女は体をピクリと跳ねさせる。
「いい子だ」
初心な反応は好むが、あまりにも儀式的な行為は好まない為、初めての伽から数回はこうして媚薬を用いている。
即効性の強力なもので、生娘であってもひとたび男を受け入れれば貪欲に精を求め乱れ狂う。
平均より大きく太い滾りを持つ男にとって、肉欲を思う存分発散する事と子を成す事を叶えられる一石二鳥な必需品。
「ぁ…ぁん……っ」
サワ…と手を這わせれば、それだけでも達しそうなほどに鋭い快感が女の体を震わせ、期待と不安に潤む瞳を見つめながら秘所に触れれば、そこは既に沢山の蜜を溢れさせていた。
腕のいい薬師に心の中で称賛を送り、充分に濡れそぼるそこに「まずは一本…」と指を入れれば抵抗なく飲み込まれていく。
「……キツいな」
生娘らしく生意気にも侵入を阻もうとする狭さに漏らした声は、ひどく甘い。
咎められたのかと不安に瞳を揺らした女を安心させるように、優しく唇を重ね、埋めた指をゆっくりと動かしながら口内に舌を差し込み心と体の緊張を解いていく。
側近から得た情報によれば女は十六歳。
まだデビューを迎えたばかりの深窓の令嬢で、家族以外に親しい異性もおらず、手を繋いだこともない生粋の生娘とのこと。
「……お前の中はなかなか聞き分けがいい」
「はっ…ん……っ…」
優しい口付けと指使いに早くも受け入れ体勢をとり始めた事を察し、二本…三本と指を増やせばそれらを嬉しそうに包み込んできた。
華奢な体に見合う可愛らしい膨らみも、最近では目にしていなかったこともあって新鮮味がある。
指から伝わる質感は…生娘らしい事以外に突出したものは感じないが、この狭さと抵抗感は初めての女でしか味わえない。
唇から始まり首筋、鎖骨、乳房、腹部と口付けを下げていき、しとどに潤む場所にぷっくりと主張している粒を舐めてから軽く噛めば、こぽりと更に蜜を溢れさせた。
上体を起こし、充分に昂っている滾りの先端を宛がい少しだけ埋めると押し出される感覚に笑みが溢れてしまう。
初物で味わえるのは、締め付けだけではない。
何度が先端だけの抽挿を繰り返し、ゆっくりと腰を押し進めていけばやがて行き着いた最後の砦。
「……覚悟はいいか?」
薬の影響で痛みは感じないはず。それでもあえて聞いてしまうのは、その瞬間に見せる女の恐怖に歪む顔を見たいから。
女は男の期待通りの反応を見せた。
「さっさと孕むといいな」
「……っ、あぁぁぁっ…あっ、あんっ!!」
一気に貫いた衝撃に女は叫びにも似た声をあげたが、すぐに痛みを快感に変えて腰を強く押し付け締め付けてきた。
「…くっ……この狭さ……っ…いい……っ」
薄い膜を打ち破る征服感と直後に訪れる強烈な締め付けに、埋めた滾りが悦びを伝えてくる。
殆どの女が子を孕むまで半年足らずだが、大きすぎるがために孕む頃には少しばかり緩みを感じるようになってしまう。
この行為が肉欲の解消も目的のひとつとされていることは、召し上げられる際に交わされる誓約書にもしっかりと明記されている。
「はっ、あっ、へい…かっ……っ…」
そしてもうひとつ、愛妾となった女が守らなければならない誓約に【国王陛下の名を呼ばぬこと】と記されており、違えば即刻追放となる。
女を悦ばせるような抱き方をするのは肉欲解消と子を成す為のものであり、王としての責務。そこに愛情は含まれない。
時折、自分こそは真に愛されていると思い込む者も出るが、それを表に出した時点で追放。もしも確固たる地位を望んで行動しようものなら処刑される可能性もあり…実際に数名が命を散らした。
『陛下の名を呼ぶことが出来るのは唯おひとり』
『陛下の寵愛を独占されるのは唯おひとり』
多くの愛妾を迎え、多くの伽を行うことで誤った情報が広がっているが、これこそ今も昔も変わらぬ男の本心である。
「あぁっ、いい……っ…あっ、ん……っ!」
媚薬に冒され喘ぐ女を相手に、ただ快楽の追及を目的として腰を穿つ男。
久し振りの強い締め付けに、込み上げる吐精感に抗う事なく勢いよく吐き出した。
「……っ、ん…いいぞ…もっと締め付けろ」
「あ、あ、、いま……っ、ま…っ……」
同時に達した女を構う事なく、まだ衰えない滾りを襞に擦り付けながら次の吐精に向けて緩い律動を開始する。
初めての伽で激しく穿たれた女は息も絶え絶えとなり意識も朦朧としているが、揺さぶる男には関係ない。
「気をやろうと俺は構わないぞ」
既に思考を溶かしている女にその言葉は届かず、いつの間にか気をやり朝になって目覚めれば、隣に眠る男の美しさに心を踊らせた。
激しくも甘い時間を過ごし、朝を迎えるまで褥を共にしたのだから…と抱いてはならない思いを芽生えさせ、愛妾となる為に与えられた知識を総動員して眠る男のものを口に咥える。
徐々に力を持ち始めたと同時に男が目を覚まし、再度深く交わった事でその日一日を寝台の上で過ごすはめになったが、それすらも胸を焦がす女には幸せでしかない。
美しく、大国と呼ばれる国の頂点に立つ男…その男に愛される未来に胸は高鳴り、『また今夜』と残した言葉通り姿を見せた事に想いを深め、三日続けて甘い夜を過ごし、迎えた四日目の朝には自分こそが寵妃であると確信したが、それ以来パタリと途切れた訪れ。
「……どうしてっ…!!」
伽の部屋への声かけがなかった四日目の夜、別の愛妾を相手に伽を迎えていると聞き、自分こそが寵妃と思い込んでいる女は憤怒した。
「それが愛妾様のお務めでございます」
孕みやすい時期に呼ばれて子種を受けるだけ。
改めて自分の立場を認識させられた女は、追い討ちをかけるように告げられた次のお渡りについての説明に言葉をなくす。
「次回は月のものが確認された場合にのみ、同じく子を成しやすい時期に三日間となります」
つまり、子を成せば二度と抱いてもらえない。
絶望した女は秘密裏に入手した堕胎薬を服用し、処刑の道を歩むことになった。
万が一にでも子を宿していれば、堕胎薬を飲むのは王族殺しと同意である。
「愛してるの!あなたに愛されたかっただけなの!ただそれだけなの!!」
泣き叫ぶ女を高見から冷ややかに見下ろすのは愛を告げられた国王陛下…と、王妃。
泣いて慈悲を乞う女を興味なさげに見やり、隣立つ妻の腰を抱いて何事か耳元で囁けば、王妃は呆れたような目を国王に向けた。
「…なによ……なんなのよ!私は何度も愛されたわ!何度も子種を注いでもらったの!!ひとりしか生めないあなたなん───」
国王の手がサッとあげられた事を合図に女の首は呆気なく刎ねられ、ゴロリと転がった先に待っていた獣が一口で飲み込んだ。
愛妾の処刑には、他の愛妾も同席させられる。
『愚行を働けば刑に処す』
そう知らしめる為に。
その日、数人の愛妾が隠し持っていた避妊薬や堕胎薬を廃棄した。
* * * * * *
「また避妊薬か」
「先月からはお飲みになっていないようですが」
側近から報告されたのは、召し上げられてから間もなく半年を迎える愛妾について。
出来るだけ長く伽を迎えたいとの思いから、避妊薬を飲んでいた事が判明した。
「……懲りないな」
世界屈指の国土と人口を持つ大国であり、次から次へと送られてくる女を幾人か捌いたところで影響はない。
「暫くはシルビアと過ごす」
愛妾が続けざまに違反した事で、その席が埋まるまで多少の時間が空く。
「畏まりました」
「明後日まで休むから、調整しておいてくれ」
「御意」
国王の愛妾を務めれば解放される時に相応の謝礼金が支払われ、子を成せばより多くの賃金が用意されることから、名乗り出る者は後を断たない。
利口な者は誓約を守り、契約通りに賃金を手にして新しい人生を迎えているが、どうしても定期的に現れてしまう愚かな女。
それもひとえに美を追及したような容姿を持ち、鍛え上げられた体躯で貪欲に女の体を味わう男にも責任があるように思えるが、それらを進言する者はいない。
元は複数の国の集まりだった大国。
大きすぎる国の多すぎる貴族の均衡を保つ為に、手っ取り早いのが国王からの寵愛と金銭授与。
我が娘なら…と画策する貴族達によって、年頃の娘が次々と召し上げられてくる。
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