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本館へ ※騎士side
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伯爵家に数台の馬車が並び、女主人として生活していた者の荷物が運び出されていく。その全ては隣国の側妃から渡されていた資金で購入されたもので、伯爵家が負担したものはひとつもない。
正妻として娶り、一度も顔を合わせることなく五年以上の月日が流れた。
『五年でいい…五年経って少しの情さえ沸かなければ離縁してくれて構わない』
隣国の王家からの言葉を正式な誓約書面にしてもらい、この日を迎えることを待っていた。
元王女が生んだ子供は母親に瓜二つの娘だと聞いたが俺が会うことはなく、母親としての関心も薄いと聞いてミレーヌ妃からされた養子の提案に迷うことなく頷いた。子供がいなくなった事に少しも気付かないとは、母性愛に溢れるトリシアとの違いに呆れたものだ。
それも漸く終わる。
自分の過ちから起こした事とは言え、いつまでも現実を見ようとせずに妄想ばかりに取り憑かれていた元王女はここを去る。
改修工事が済めば、俺達はあるべき場所に戻れて本来の生活を本物の家族と過ごすことが出来る。
「…行かなくていいの?」
庭園から少しだけ覗ける様子を見ていたことに気付いたトリシアが、心配そうに声をかけてきた。ずっと申し訳ないと思って、二度と傷付けないようにとしてきた愛しい人。
「行かないよ」
五歳になる息子は俺に瓜二つで、体を動かすことが好きな三歳の娘と走り回っている。生まれて間もない双子の女の子は一卵性で、トリシアによく似ていて可愛らしい。
「もうひとりくらい男の子が欲しいな」
「もし次も女の子だったら?」
「また作ればいいさ」
四人子を生んだとは思えないほどに美しいトリシアは、医師によればまだ子を成せるという。トリシアが健康でいられる上でなら、何人でも俺の子を生んで欲しいと思っている。
「本館に移れば子供達も今より過ごしやすくなるし、夫婦の寝室は完全防音だ…思う存分に愛し合える」
愛を囁いて誘えば、何年経っても頬を染める姿が可愛らしいトリシア。家族のせいで苦労し、俺と生きる為なら平民になることも厭わないと躊躇なく言い切った愛しいトリシア。
「君がいるから頑張れる」
俺の真実の愛はここにある───
******
元王女が去って三ヶ月、本館の改修工事が終わったと報告を受けて引っ越しを迎えた。壁紙から調度品まで元王女が過ごしていた時に使われていたものは全て取り替え、使われていた夫婦の寝室がある階は大規模な修繕を施した。
「凄い…違うお屋敷みたい」
以前の状態を知っているトリシアが感嘆の声を漏らすが、たとえ家具や寝具を取り替えたとしても元王女が暮らした部屋で過ごしたくはなかったから、配置や部屋数まで変えさせたのだ。
「夫婦の寝室はここ」
「──素敵っ!」
幼い頃から一緒にいたトリシアの好みなら知り尽くしているから、気に入ってもらえるような内装と色合いにしたのだが喜んでもらえて何より。
「子供達の部屋もそれぞれ趣向を変えてるんだけど、成長に合わせて本人の好きにさせればいい」
「また増えるかもしれないし?」
「なんなら子供用の屋敷でも建てるか」
楽しそうに笑うトリシアを見ているだけで心が温かくなって、別館で見ていた笑顔がどこか緊張していたのだとよく分かる。
何度か寝言で『行かないで』と言い涙していたことがあって、俺が元王女のところへ行ってしまうと不安に思っていることも知っていた。
今でも思い出すのは、元王女を娶ることになったと伝えた時のトリシアの絶望に染まった顔。失うのが怖くて、強く手を握ったまま伝えた。
『私はもう傍にいられないの…?』
ポロポロと涙を流していたあの顔を、もう二度と見たくはないしさせるつもりもない。
「ずっと俺の傍にいてくれ」
最期を迎えるその時まで───
正妻として娶り、一度も顔を合わせることなく五年以上の月日が流れた。
『五年でいい…五年経って少しの情さえ沸かなければ離縁してくれて構わない』
隣国の王家からの言葉を正式な誓約書面にしてもらい、この日を迎えることを待っていた。
元王女が生んだ子供は母親に瓜二つの娘だと聞いたが俺が会うことはなく、母親としての関心も薄いと聞いてミレーヌ妃からされた養子の提案に迷うことなく頷いた。子供がいなくなった事に少しも気付かないとは、母性愛に溢れるトリシアとの違いに呆れたものだ。
それも漸く終わる。
自分の過ちから起こした事とは言え、いつまでも現実を見ようとせずに妄想ばかりに取り憑かれていた元王女はここを去る。
改修工事が済めば、俺達はあるべき場所に戻れて本来の生活を本物の家族と過ごすことが出来る。
「…行かなくていいの?」
庭園から少しだけ覗ける様子を見ていたことに気付いたトリシアが、心配そうに声をかけてきた。ずっと申し訳ないと思って、二度と傷付けないようにとしてきた愛しい人。
「行かないよ」
五歳になる息子は俺に瓜二つで、体を動かすことが好きな三歳の娘と走り回っている。生まれて間もない双子の女の子は一卵性で、トリシアによく似ていて可愛らしい。
「もうひとりくらい男の子が欲しいな」
「もし次も女の子だったら?」
「また作ればいいさ」
四人子を生んだとは思えないほどに美しいトリシアは、医師によればまだ子を成せるという。トリシアが健康でいられる上でなら、何人でも俺の子を生んで欲しいと思っている。
「本館に移れば子供達も今より過ごしやすくなるし、夫婦の寝室は完全防音だ…思う存分に愛し合える」
愛を囁いて誘えば、何年経っても頬を染める姿が可愛らしいトリシア。家族のせいで苦労し、俺と生きる為なら平民になることも厭わないと躊躇なく言い切った愛しいトリシア。
「君がいるから頑張れる」
俺の真実の愛はここにある───
******
元王女が去って三ヶ月、本館の改修工事が終わったと報告を受けて引っ越しを迎えた。壁紙から調度品まで元王女が過ごしていた時に使われていたものは全て取り替え、使われていた夫婦の寝室がある階は大規模な修繕を施した。
「凄い…違うお屋敷みたい」
以前の状態を知っているトリシアが感嘆の声を漏らすが、たとえ家具や寝具を取り替えたとしても元王女が暮らした部屋で過ごしたくはなかったから、配置や部屋数まで変えさせたのだ。
「夫婦の寝室はここ」
「──素敵っ!」
幼い頃から一緒にいたトリシアの好みなら知り尽くしているから、気に入ってもらえるような内装と色合いにしたのだが喜んでもらえて何より。
「子供達の部屋もそれぞれ趣向を変えてるんだけど、成長に合わせて本人の好きにさせればいい」
「また増えるかもしれないし?」
「なんなら子供用の屋敷でも建てるか」
楽しそうに笑うトリシアを見ているだけで心が温かくなって、別館で見ていた笑顔がどこか緊張していたのだとよく分かる。
何度か寝言で『行かないで』と言い涙していたことがあって、俺が元王女のところへ行ってしまうと不安に思っていることも知っていた。
今でも思い出すのは、元王女を娶ることになったと伝えた時のトリシアの絶望に染まった顔。失うのが怖くて、強く手を握ったまま伝えた。
『私はもう傍にいられないの…?』
ポロポロと涙を流していたあの顔を、もう二度と見たくはないしさせるつもりもない。
「ずっと俺の傍にいてくれ」
最期を迎えるその時まで───
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