【完結】初恋を実らせたい

Ringo

文字の大きさ
3 / 5

天使の本音

しおりを挟む
「ごめんね、もうすぐ着くらしいから」

「いいえ、大丈夫です」


カルダン家の居室にあるローテーブルを挟んで向かい合うのは、この屋敷の女主人であるキャサリンと友人のマリーベル。

次期侯爵のポーレスは、本日も息子の鍛練に朝から付き合っており不在。

いつもならダニエルの到着を今か今かと待ち構えるアレクシスも、可愛い婚約者のお誘いを受けて出掛けている。

ふたりが待っているダニエルと言えば、緊急的な案件があると王城から呼び出しを受けたらしく、到着が遅れるとの連絡があった。


「今日も気合いバッチリね」


マリーベルの装いを改めて見たキャサリンがそう言えば、天使のように可愛らしい顔をほんのりと赤く染め、恥ずかしそうに微笑んだ。


「…ダニエル様のお好みに合うかしら……」

「大丈夫よ」


むしろ大歓迎だろうし、そのまま押し倒されてもおかしくないだろうな…とキャサリンは思う。

前回の装いはそれなりに露出を控えつつ、しかし体のラインは惜しみ無くみせつけるデザインだったのだが、今回はそれに加えて露出も少しばかり足してみた。

よって、本日のマリーベルは天使のような可愛らしさと妖艶な体つきが絶妙なバランスで表現されており、ダニエルでなくともイチコロのはず。

あまりダニエルの煩悩を刺激するのは危険だとも助言したが、


『バッチコイですわ!!』


と本人が乗り気なので放置することにした。


「結婚…出来るといいな……」


キャサリンにとって妹のように可愛がってきたマリーベルから、ダニエルを紹介してほしいと相談された時にはどうなることかと思っていた。

容姿としてはダニエルの食指に引っ掛かるかもしれないが、ポーレスから聞く限りかなりの絶倫だと言うし心配にもなったから。

マリーベルは、同性から見ても華奢である。

さりげなく騎士の営みについて話題を振ってみたところ、頬を染めて


『わたし、鍛えてるんです』


と言って触らせてもらったお腹は、薄いながらも確かに筋肉が確認できた。


『あの…ダニエル様の事を勝手にお調べしたんですけど…その…かなり豪快な伽をされるとのお話をお伺いして……』


きゃっ!と顔を覆って恥ずかしがっているが、来るかも分からないダニエルとの営みの為に体を鍛えるとは…と、キャサリンは感心した。

しかし、その準備は間違いなく実を結ぶ。

気付いていないのは本人達だけ。

マリーベルは隣国で売られていたダニエルの絵姿に一目惚れして追いかけてくるほどだし、そのダニエルは前回の初顔合わせですっかり恋に落ちている。

とは言えその自覚がなかなか芽生えず娼館通いに走っていたことを、キャサリンは知らない。

男同士の結束の賜物である。


「奥様、間もなくご到着です」


執事がダニエルの来訪が近いことを告げ、マリーベルは白い肌を桃色に染めた。






******






広い居室にふたりきり。

ダニエルとマリーベルである。

ふたりきり…と言っても未婚、ましてや婚約者でもないふたりなので勿論使用人はいる。

しかしなぜふたりなのかと言えば、


『ポーレスの執務を手伝ってくるわ』


と言ってキャサリンが席を外してしまった為。

再会して間もなくふたりきりとなってしまったせいで、何を話せばいいのか悩むふたりはキャサリンの退席以降、ただ無言の時を過ごしている。

そして、


『ダニエルはマリーの隣ね』


と言われて着席していた為、キャサリンがいなくなってもふたりは隣り合って座っている。

くっつきそうでくっつかない…そんな距離で、それとなく互いの体温と緊張感を感じながら、会話のきっかけを探すも見つからない。

と言うより話したいこと、聞きたいことが互いにありすぎてどれから始めればいいのか分からないのが実情でもある。

そんななか、緊張から乾いた喉を潤そうとマリーベルが茶器に手を伸ばした瞬間、サラリと流れ落ちた髪がダニエルの手に触れた。


「…っ!!」


突如高鳴った鼓動にダニエルはビクリと身を震えさせるが、そんな事になっているとは気付かないマリーベルは優雅に紅茶を口に含む。

けれど視線を感じて隣を見ればダニエルが熱い視線でこちらを見ていることに気付き、そのまま見つめ合ったままでいると、徐に手から茶器を取り上げられ、カチャン…と静かな音をたててテーブルに置かれたかと思うと、優しく顎を掴まれゆっくりと唇が重なった。

暫く重なったままの唇を離すと、何度か角度を変えながら触れるだけの口付けを交わし、互いに甘い吐息を漏れ始めさせたところで漸くダニエルが言葉を発した。


「……結婚してくれないか」


蕩けるような視線を向けられ告げられたプロポーズに、マリーベルはみるみる頬を染めて小さく頷き、その反応に満足したダニエルは再度唇を重ねてそっと舌を差し込む。

十七歳のマリーベルは八つ年上で大人のダニエルとの結婚を望んでいたので、男女の付き合いについて様々な知識を仕入れており、性急な深い口付けも抵抗なく受け入れる。

何よりも憧れ続けたダニエルとの口付けに夢中になってしまい、いつの間にかより深く舌を差し込まれていることも、ダニエルの手が下がって形のいい臀部を揉みしだいていることも気付かず、ただひたすら舌を絡めることに没頭した。


「それ以上はダメだからね」


呆れを含んだ声が聞こえて唇を離せば、いつの間にか戻ってきていたポーレスとキャサリンが苦笑しつつも優しく微笑んで立っている。


「うまくいくとは思っていたけど、ちょっと展開早すぎない?」

「そんなことはない」


瞳を潤ませているマリーベルに軽く口付け、呆れた様子で向かいのソファーに座るポーレス達を見ることなく、細い故紙をぐいっと抱き寄せる。


「両親に紹介したい」

「お会いしたいです」


すっかりふたりの世界に入っている様子に、ポーレスは公爵邸に先触れを出すよう手配した。

マリーベルのことは既に前回報告してあり、公爵家としては逃すなと言わんばかりであったからこのまま連れていかせても問題はないだろう。

ダニエルに夢中だった事を知るマリーベルの両親も、話がまとまるならそのまま帰らなくても構わないと書簡を貰っている。

このまま最短で結婚式へ向かうであろうと考え、ポーレスは脳裏にこれからのスケジュールを組み立て始めた。


「ダニー、さすがに初めてお連れするご令嬢を馬に乗せて行かせるわけにはいかないから、うちの馬車を用意させるよ」

「あぁ…頼む」


頬を染めて恥ずかしそうに俯くマリーベルを、愛しそうに見つめるダニエルは、ポーレスの話など上の空。

やれやれといったところで馬車の準備が整ったとの報告が入り、ピッタリと密着したままのふたりは離れたくないと言わんばかりに馬車の中も隣り合って座った。

もちろん、ダニエルの手はマリーベルの腰を抱いている。


「じゃぁ、気をつけて」


パタン…と扉が閉められた馬車のなか、はてさて公爵家への遠くない道中でどこまでダニエルが我慢出来るものかとポーレスは思案するが、もう結婚は決まったようなものだし構わないか?とひとりごちるのであった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

処理中です...