【完結】妻至上主義

Ringo

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会えない婚約者達

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𓂃𓈒𓏸︎︎︎︎




この国の子供達は、10歳になると身分に関わらず学園へ通うことが義務付けられている。

初代国王の『子供達には須らく教育を』という信念は歴代の王家にしっかりと受け継がれ、この国の識字率はほぼ100%と高水準。

病などが原因で叶わない者以外、平民であっても誰しもが読み書きを可能としていた。

これは近隣諸国の中でも群を抜いており、王国出身として他国で活躍する者も多く見かける。




王族や貴族の子女が主に通うのは王都の中心地にある【王立学園】で、敷地内には舞踏会も行えるホールが併設されており、この学園はさながら“プチ貴族社会”。

外観や内装、小物に至るまで贅を凝らした豪奢な造りをしているが、これは他国の王侯貴族子女を迎え入れる為の体面。

半端な形をしていては王家の威信に関わる。

子供達は未来の国を支える者達でもあり、且つ王立学園の生徒達の殆どが貴族子女。

紳士淑女を育てる為に設けられたカリキュラムも豊富で学費は高額となり、あまり裕福ではない貴族家の子女は【国立学園】に通っている。

殆どの生徒は親が所有するタウンハウスから通うが、所有しない家の子供は寮で生活をしていた。




そして国立学園だが、こちらは主に平民が通えるようにと国内に点在しており、経済的理由で王立学園には通えない貴族子女はこちらに通う。

国立学園は就職することを前提としたカリキュラムが組まれ、卒業後は男女問わず何かしらの職に就く。

優秀であれば王宮文官となり、それに準ずる者は執事や家令見習い。女性であれば王家や高位貴族に仕える侍女としての道も開かれる。




୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧




周囲の様々な心配を跳ね除けて無事に10歳となったアルバートも王立学園に入学が決まり、領地を離れてタウンハウスから通うことになった。


「ふぇ……っ…」

「リリー、泣かないで」


大きな瞳に膜を張る小さな婚約者を、アルバートは慌てて抱きあげ慰める。

毎日のように会っていたアルバートが引っ越すと聞いて、3歳のリリーチェはショックを受けた。

幼いが故に詳細を理解はしていないが、“アルバートがいなくなる”事は理解している。


「休みにはなるべく帰ってくる。手紙もたくさん書くから、しっかり勉強するんだよ」

「いやっ!!ばいばい、いやっ!!」

「リリー……」


肩口にグリグリと顔を埋めて泣く様子に、アルバートはどうしたものかと困惑してしまう。

助け舟を出したのは侯爵夫人。


「リリー、我儘を言ってはダメ。アルバートは遊びに行くんじゃないの、お勉強しに行くのよ」

「まま、きらいっ!!」

「そんな風に我儘ばかりいう子は、アルバートに嫌われるわよ。こちらにいらっしゃい」


その言葉にリリーチェは絶望したような表情を見せ、未だ「エグエグ」はしているものの、自ら願い出ておろしてもらった。

よほどショックだったのかドレスをぎゅっと握り込んでおり、その様子にアルバートは片手を掬って手を繋いだ。


「リリーはアルバートのお嫁さんになりたい?」


母親の言葉にリリーチェはこくりと頷く。


「その為ならお勉強もレッスンも頑張れる?」


またこくりと頷いた。

3歳とはいえ歴史ある由緒正しき侯爵家の令嬢。

他家の子供よりずっと早い時期からマナーレッスンを受け始め、既に読み書きの学習もしている。

それもこれも、全ては公爵夫人となりアルバートの隣に並ぶため。


「いい子ね。きちんと出来たら、ご褒美にアルバートの休みに合わせて王都に連れて行ってあげるわ。だから我慢なさい」

「……あえる?」


リリーチェは頭上にある大好きな婚約者の顔を見上げて、物悲しそうにそう尋ねる。

するとアルバートは膝を折ってしゃがみ、未だ静かに涙を流す眦にそっとキスをした。


「会えるよ。僕はいつだってリリーの事を想ってるし、傍にいたいと思ってる」

「ほんと?りりー、およめさんになれる?」

「なれる…と言うかなって欲しいな」

「……がまんする」




こうして暫しの別れとなった2人だが、長期休みにアルバートが帰省したのは最初の1年だけで、それ以降は戻らなくなってしまった。

2年目から騎士科を選択したことで鍛錬や遠征訓練に時間や日を割くようになり、王都に向かっても会うことすら叶わない。

体の弱かったアルバートにとって騎士科の鍛錬は辛く、3年ほどは体調を崩すことも多々あり、無様な姿を見せたくないというプライドからリリーチェの訪問を断り続けてしまった。


「アルバートも頑張ってるのよ。だからリリーも頑張りましょうね?」

「……はい」


埋め合わせる意味で手紙と贈り物は頻繁に送り合っていた為、気持ちがすれ違うことはなく、会えずとも想いは繋がり続けた。




しかし、またしても2人に試練が訪れてしまう。

決して諦めずに鍛錬を続けたアルバートの努力が認められ、同年である第1王子の留学に随行するようにとの命令が下された。

この時アルバートは17歳。

10歳になったリリーチェは、入れ違う形で王立学園へと入学した。


「アルと通えるのを楽しみにしていたのに…」

「仕方ないだろう?むしろ将来の側近候補に選ばれたんだから、祝ってやらないと」

「分かってるもん」


王都に向かう馬車の中でリリーチェの愚痴を聞くのは侯爵家嫡男のネイサン。

リリーチェより8歳年上で、現在学園の最上級生として通っている。

卒業後は王宮文官となる事が決まっており、2つ年下の婚約者が卒業してからはタウンハウスで新婚生活を始めるので、リリーチェはそのタイミングで寮に入る事を希望した。

実の姉妹のように仲はいいが、新婚夫婦のお邪魔はしたくない。


「2年も帰らないのよね…」

「やたらと帰国して道中何かあっても大変だからな、仕方ないさ」


もう6年もまともに会っていない。

最後に顔を見たのは去年で、騎士科が主催する剣技大会を見学に行った時。

その時には既に第1王子から声がかけられていたので、僅かな時間に挨拶を交わした程度だった。


「あんなに素敵になるなんて…ほかの女性達が放っておかないわ」

「確かに逞しくなったよなぁ」


昔は小柄で細身だったアルバートだが、今では体調を崩すこともなく、むしろ超絶健康体。

他の男子生徒よりも背が高く、鍛錬で身についたしなやかな筋肉は衣服の上からも窺えるほど。

大会では多くの女性達が黄色い声援を送っていたことを思い出し、リリーチェは眉を顰めた。


「そんな顔してると不細工になるぞ」


それは困ると慌てて眉間を伸ばす。

大好きなアルバートに可愛いと言ってもらえる為に、幼い頃から“社交界の薔薇”と呼ばれる母親に倣って美容を心掛けてきた。

それでなくともリリーチェの容姿は美しい。

腰まである淡い栗色の髪は艶々と輝き、若草色の大きな瞳は見る者の心を穏やかにする。

ちょっとやそっと変顔をしても損なわれない。



「アルバート様…」



馬車の窓から見える空を見上げて、リリーチェは遠い場所にいる愛しい人の名を呼んだ。








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