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season1
失われたもの
夢を見た。
色とりどりの花びらが舞う中、真っ白なウェディングドレスを着て幸せそうに笑い、嬉しそうに僕の名前を呼んでくれた美しい人。
お揃いの指輪が嬉しいと、そう言っていつも左手薬指をなぞっていた。
僕の髪を輝く金糸のようだと指を通し、瞳は空を写したようなスカイブルーだと見つめてくれた。
薄い唇は柔らかくて温かいと言って、いつも触れては口付けを強請っていた。
─────それらはすべて、過去のこと。
******
「…………記憶喪失…?」
「えぇ。恐らく事故に遭われた際の衝撃のせいかと思われましたが…この十年に渡る人間関係に関する記憶が抜けていますので、恐らく心因性の影響が大きいかと」
「……心因性…あの…記憶は……」
「戻るとも戻らないとも…なんとも言えません」
医師の並べる現状についての報告が頭の中をぐるぐると回り、何が起きているのか理解することが出来ない。
記憶喪失?
この十年を忘れている?
「……結婚…していたことは…」
申し訳なさそうに首を振る医師の様子に、僕を襲ったのは深い絶望。
これは罰なのだろうか。
幸せにすると誓いをたてたにも関わらず、君だけを愛すると誓ったのにも関わらず、君に愛されていることに驕っていた愚かな僕への罰。
『バルト様!!』
花が綻ぶような笑顔で僕の名前を呼んで駆け寄ってくる君には、もう会えないのだろうか。
君を傷付け、裏切り続けた僕はもう……
君に愛してもらうことは不可能なのだろうか。
******
「おかえりなさいませ」
「…………あぁ」
重い足取りのまま自宅に戻ると、厳しい顔をした執事のジェイマンが出迎えてくれた。
そう言えば、彼が眉間に皺を寄せて僕を見るようになったのはいつからだっただろう。
主に対して物申してくれる数少ない人間であったのに、僕は彼らのことも蔑ろにし続けてきた。
「奥様にはお会いできましたか?」
「……いや…会えなかった……」
「…左様でございますか」
失望…そんな意思が見てとれる視線を向けられ、自分の不甲斐なさに苦しくなる…そんな権利などないというのに。
「では、お手続きについてはまだ…」
「されていない…まだ婚姻関係は続いていることになっている…」
「…旦那様からはなさらないのですか?」
「……僕からするつもりはない」
たとえ僕が拒絶をしても、彼女から正式に申し出がされれば認められるだろう。
それを望まれるのは明日なのか、来月なのか…それだけの違い。
それでも僕からしないのは、最後の悪足掻き。
彼女が自分は人妻なのだと知った時、きっとどんな男と結婚していたのか…どんな結婚生活を送っていたのかと調べるだろう。
…また君を傷付けることになる。
それでも、どうしても僕から君の手を離すことはしてやれないんだ。
自分勝手で卑怯だと分かっていても、君と繋がっている唯一を失いたくない。
「……もう…解放してさしあげるべきなのでは」
そんなことは僕が一番分かっている。
だけど出来ない。
「…とりあえず今日はもう休むよ」
「そうですか……それでは、本日旦那様はいらっしゃらないことを別館にお伝えしておきます」
「……すまない…」
痛いほどの視線を背中に受けたまま、向き合う勇気さえなくて自室に入り扉を閉めた。
閉まる寸前に嘆息が聞こえたのは、もう僕に対して何も期待していないと言うことだろう。
別館にはもう三ヶ月行っていない。
多くの反対を押しきり自ら望み、大切な人を傷付けてまで選んだことなのに…戻れるならそう選択する前に戻ってやり直したい。
君がいないとこんなに空っぽになるなんて思いもしなかった。
君がいないとこんなにちっぽけな自分になるなんて知らなかった。
『バルト様…大好きです』
「ナディア……っ…」
言い訳にしかならないけれど、君を失ってまで守りたいものなんてなかったんだ。
君を傷付けてまで手に入れたいものなんて、なにひとつなかった。
「ナディア…ごめん……ごめん…っ……」
君が僕にたどり着くまで…
君が僕をもう一度嫌いになるまで…
僕は君の夫でいたい…………
色とりどりの花びらが舞う中、真っ白なウェディングドレスを着て幸せそうに笑い、嬉しそうに僕の名前を呼んでくれた美しい人。
お揃いの指輪が嬉しいと、そう言っていつも左手薬指をなぞっていた。
僕の髪を輝く金糸のようだと指を通し、瞳は空を写したようなスカイブルーだと見つめてくれた。
薄い唇は柔らかくて温かいと言って、いつも触れては口付けを強請っていた。
─────それらはすべて、過去のこと。
******
「…………記憶喪失…?」
「えぇ。恐らく事故に遭われた際の衝撃のせいかと思われましたが…この十年に渡る人間関係に関する記憶が抜けていますので、恐らく心因性の影響が大きいかと」
「……心因性…あの…記憶は……」
「戻るとも戻らないとも…なんとも言えません」
医師の並べる現状についての報告が頭の中をぐるぐると回り、何が起きているのか理解することが出来ない。
記憶喪失?
この十年を忘れている?
「……結婚…していたことは…」
申し訳なさそうに首を振る医師の様子に、僕を襲ったのは深い絶望。
これは罰なのだろうか。
幸せにすると誓いをたてたにも関わらず、君だけを愛すると誓ったのにも関わらず、君に愛されていることに驕っていた愚かな僕への罰。
『バルト様!!』
花が綻ぶような笑顔で僕の名前を呼んで駆け寄ってくる君には、もう会えないのだろうか。
君を傷付け、裏切り続けた僕はもう……
君に愛してもらうことは不可能なのだろうか。
******
「おかえりなさいませ」
「…………あぁ」
重い足取りのまま自宅に戻ると、厳しい顔をした執事のジェイマンが出迎えてくれた。
そう言えば、彼が眉間に皺を寄せて僕を見るようになったのはいつからだっただろう。
主に対して物申してくれる数少ない人間であったのに、僕は彼らのことも蔑ろにし続けてきた。
「奥様にはお会いできましたか?」
「……いや…会えなかった……」
「…左様でございますか」
失望…そんな意思が見てとれる視線を向けられ、自分の不甲斐なさに苦しくなる…そんな権利などないというのに。
「では、お手続きについてはまだ…」
「されていない…まだ婚姻関係は続いていることになっている…」
「…旦那様からはなさらないのですか?」
「……僕からするつもりはない」
たとえ僕が拒絶をしても、彼女から正式に申し出がされれば認められるだろう。
それを望まれるのは明日なのか、来月なのか…それだけの違い。
それでも僕からしないのは、最後の悪足掻き。
彼女が自分は人妻なのだと知った時、きっとどんな男と結婚していたのか…どんな結婚生活を送っていたのかと調べるだろう。
…また君を傷付けることになる。
それでも、どうしても僕から君の手を離すことはしてやれないんだ。
自分勝手で卑怯だと分かっていても、君と繋がっている唯一を失いたくない。
「……もう…解放してさしあげるべきなのでは」
そんなことは僕が一番分かっている。
だけど出来ない。
「…とりあえず今日はもう休むよ」
「そうですか……それでは、本日旦那様はいらっしゃらないことを別館にお伝えしておきます」
「……すまない…」
痛いほどの視線を背中に受けたまま、向き合う勇気さえなくて自室に入り扉を閉めた。
閉まる寸前に嘆息が聞こえたのは、もう僕に対して何も期待していないと言うことだろう。
別館にはもう三ヶ月行っていない。
多くの反対を押しきり自ら望み、大切な人を傷付けてまで選んだことなのに…戻れるならそう選択する前に戻ってやり直したい。
君がいないとこんなに空っぽになるなんて思いもしなかった。
君がいないとこんなにちっぽけな自分になるなんて知らなかった。
『バルト様…大好きです』
「ナディア……っ…」
言い訳にしかならないけれど、君を失ってまで守りたいものなんてなかったんだ。
君を傷付けてまで手に入れたいものなんて、なにひとつなかった。
「ナディア…ごめん……ごめん…っ……」
君が僕にたどり着くまで…
君が僕をもう一度嫌いになるまで…
僕は君の夫でいたい…………
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