せめて夢の中は君と幸せになりたい

Ringo

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season2

診断結果

『これはあなたが解決させる必要がある。勿論、伯爵への陞爵に必要となるものではあるけれど…あなたが知るべき、見るべき事実だと思うから』



プリシラ様と協定のようなものを結んでからふた月ほどが経過し、ビノワを害したとされる人物の捕縛への道筋が少しずつ明るくなってきた。

そして、明るくなってきたせいで見えてきた真実が今は僕を苦しめる。

積み上げられた証拠を前に、どうして、何故という考えがぐるぐると駆け回り、もしかしたら誰かに嵌められているのでは、何か見落としているのではと見直すもそんなことはなく。


『騎士というのは、なにも騎士団に属していることが全てではないぞ?弱き者を守り、守るべき者を愛し抜く事こそ騎士だと俺は思うな』


かつての声が聞こえてくる…とても低くて力強くて、とても優しかった声。


「旦那様、診察が終わったそうです」

「すぐ行く」


食い入るように書類を見ていたら、気遣うようなジェイマンの声かけがあり、体調不良から診察を受けていたナディアの元へと急ぐ。

心当たりがあった。

毎日抱いているのだから、月のものが来ていないことに僕が気付くのは早く、予定より二週間ほど遅れたところで本人にも伝えてみた。

ナディアの事ならなんでも把握したがる僕だが、まさか月のものの周期まではとは思っていなかったようで驚かれたけれど。

二週間ではまだ何も分からない時期なのと、体調の良し悪しでもずれるものなのだと言うナディアの意見を優先し、結局はふた月来ないというところまできての診察となった。

まぁその間…確信を深めつつも、結局は一日と空けることなく抱いていた。


「お待たせしました。先生、ナディアの具合は如何ですか?」

「お見立て通り、ご懐妊です」


老医師はニコリと優しい笑みを浮かべた。

前回、ナディアは僕との別れを視野に入れて避妊薬を服用しており…そこまで追い詰めていたのだと僕を激しく叱責した老医師。

当然ながら今回は避妊薬を飲むことなどなく、老医師が僕を叱責することはない。


「ナディア」


診察を終えて先に結果を聞いていたナディアは、幸せそうに微笑みながらまだ膨らんでもいない薄いお腹を撫でている。


「バルト様…ここに赤ちゃんが…」

「そうだね」


クッションを背にして寝台に座るナディアの隣に僕も腰を下ろし、そっと撫でているナディアの手に自分のものも重ねると、愛しい我が子がここにいるのだと温かいものを感じた。

子供はいなくても構わないと思っていた。

ナディアと生きていけるのなら、ふたりでも構わないと。

けれどこうして命が宿ったと聞くと、まだまだ会えるのは先だと言うのに早くこの手に抱きたくて仕方ない。


「これから体調や食の好みに変化も現れると思いますが、無理はせず、けれど散歩などをして健康を心がけるように」

「はい」

「それから、営みに関してはふた月ほど我慢してくだされ。懐妊に気付かず営む者もおりますが、大切な時期でありますからな。まぁ、安定しますれば激しくない程度なら許可は出来ます」


その言葉にナディアは顔を赤くし、僕は至極真面目な顔をして浮かんだ疑問を問いかけてみた。


「激しい……とは?」

「強く奥を穿ったりするのは避けないとなりません。強過ぎる刺激が長時間続くのも感心できませんし、営みは優しく労りながら…です。奥様の体調を見てツラそうならすぐにやめることもお忘れなきようお願いします」

「なるほど、肝に命じます」


僕と老医師が真面目に話している間、ナディアはひたすら恥ずかしそうに俯いていたけれど、これはとても大切なことなのだから仕方ない。

ふた月も抱けないのは正直なところツラくはあるが、ナディアの体を思えば耐えられる。


「それでは、これで」

「ありがとうございました」


ニコニコと笑みを浮かべたまま立ち去る老医師をその場で見送りふたりきりになると、ナディアがなぜか不安げにしていることに気付いた。


「ナディア?どうしたの?」

「…………娼館に…行きたいですか…?」


まさかの問いに、思わず絶句した。


「行きたくないし行かないよ。そりゃ確かに生理的現象でツラくはなるかもだけど、僕が抱きたいのはナディアだけだし、理由があってナディアを抱けないのなら、一生性交なんて出来なくても構わない」


僕の言葉に、ナディアは分かりやすく安堵の息を吐いて肩の力を抜いた。

確かに奥方の妊娠中に娼館通いをしたり愛人を囲い始めることは多々あると聞くし、僕の回りにもそういった人間はいる。

けれど僕は本当にナディア以外を求めていないのだから、信じてもらえるようにこれからも努力するしかないのだろう。


「……あの…ずっと診察を避けてごめんなさい」

「いいんだよ。ただ、本当にナディアの体が心配なんだから、これから何か少しでも気になることがあればすぐに診てもらうんだよ?」

「はい。……あの…」

「どうした?」


突然ナディアが抱きついてきて、なぜ診察を避けていたのかを話始めた。


「…妊娠が分かった途端に娼館へ通うことになったっていうお話をよく耳にしていたから…もしかしたらバルも…って不安だったの」

「そういう人も多いらしいからね、ナディアが不安に思っても仕方ないよ」

「……本当に行かない?」

「行かない」

「…我慢できる?」


ナディアが不安がるのは、普段の僕に原因があるということは分かる。

月のものの時こそ抱くことはないけれど入浴は必ず一緒にしているし、我慢できなくなったら口淫や疑似性交をして解消してもらってきた。

抱ける期間は一日としてあけないし、始めれば一度や二度の吐精では終わらない。

一日中家にいるようになった今では、時間を問わず求めてしまうことも多かった。

……ふと、以前中期遠征から帰ってきた時の事を思い出した。

二週間の遠征…さらに出立前は月のものだったことから三週間近くも交われずにいたせいで、帰宅すると同時にナディアを寝室へ引きずりこんで立て籠り、数日間狂ったように求めた。

もちろん遠征先で浮気するはずもなく、ナディアを想ってひたすら自慰に耽っていたのだけれど、それだけではスッキリすることなどなく、帰宅してナディアを視界に入れた途端…ブチッと理性の糸が切れてしまったのだ。

二週間の遠征…結果として三週間の交わりなしでさえ、のちにジェイマンから小言を言われるほどだったのに、最短でもふた月の禁止令。

しかもそれが解かれたとしても、優しく労りながらの交わりしか出来ないし、もしかすると途中で止めなくてはならないかもしれない。

普段の僕からすれば、我慢など出来るはずがないと思われても仕方ない。

だけど僕は嬉しくなった。

娼館など行かないで欲しい、他の人を抱かないで欲しいと、ナディアに言われる事が嬉しい。

それだけ愛されているんだと実感出来てしまう。

嫉妬で心を痛めさせたくはないけれど、これだけはどうしても抗えない喜びだ。

とは言え、無駄な嫉妬はさせぬよう気を付けなくてはならない…お腹の子の為にも。


「我慢するよ。正直、ナディアが隣にいるとすぐ抱きたくなってしまうけど…何よりも大切なのはナディアの体調だし、お腹の子の命だから」


でもキスだけはさせてね、と言って顔中にちゅっちゅっと続けていると、漸くナディアが心の底から笑ってくれた。


「ナディアの体調が悪くない限り、僕はどんなにツラくなろうと一緒に寝るし、必ず一緒に入浴もする。半年や一年我慢しろって言うなら、それでもいいからナディアの傍にいたい」

「あの……一年とかは…わたしもいやで…」


ごにょごにょと小さく発せられた言葉は僕の下半身を直撃してしまったけれど、言われたばかりで出来るわけもなく、だけど可愛く照れるナディアを抱き締めた。


「僕だって不安なんだよ?子供が出来たら夫のことなんて興味なくなる人もいるって聞くし…生まれたら生まれたで、夫のことなんて二の次にされたっていう人もいるって聞くから」

「わたしは…あの……今だって…その……」


潤んだ目で見上げられて、思わず押し倒した。

無論、優しく。


「ダメだよ、ナディア。そんな目で見られたら僕がどれだけ煽られるか知ってるでしょう?」

「……お腹が大きくなっても…ちゃんと女性として見てくれる?」

「むしろ、より愛しくなってるよ」

「体型が変わっても…抱いてくれる…?」

「おばあちゃんになっても抱いてると思うよ」


ナディアが嫌がるなら無理にすることは絶対にないけれど、求めてくれるならいくらでも、いつまででも抱きたい。

ナディアの肩口に顔を埋めて香りを吸い込みながら、合間にちょこちょこ痕付けをし、すっかり大きくなって硬く主張している昂りを擦り付けて想いを伝えれば、頬を染めながら…そこへそっと手を伸ばしてきて優しく撫でてきた。

自分でも驚くほど大袈裟にビクリとした。


「あの…口で……してもいい…?」


断るわけがない。

断れるわけがない。


「ナディアがしてくれるなら…」






結局、夕食の準備が出来たと声がかかるまでの数時間を寝台で過ごした。

ナディアのお腹に触れるたび、僕の子を身籠っている…という事実に興奮し、何度吐き出そうとも昂りはなかなか収まらず…その全てをナディアは飲み干してしまった為、夕食が入るスペースがあまりなかったらしい。

使用人達には心配をかけ、察したジェイマンにはこっそり叱られてしまった。


「子種は子を作るものであり、子を育てる栄養にはなりませんよ」


そんなの僕だって分かっている。

でも……潤んだ目であんなこと言われたら……




『バルトから出るものは全部わたしのものなの』




僕に拒絶することなんて出来ません。










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