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新season前にざまぁ(読み飛ばしても無問題)

sideトビアス -ざまぁ 4/4-

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※トビアスのざまぁです。

※他に比べると弱いです。ぎっちょんぎちょんがご希望の方は納得出来ないです。

※お読み頂かなくとも、繋がります。






────────────────────






子は何人でも欲しいと思っていたが、いざ出来たのは息子ひとりだった。

俺に良く似た顔をしていて、愛嬌は妻譲りといったところだろうか。


「とうちゃん!!みてみて!!!」


掴まりだちをするよりも早く模擬刀を握るようになり、その様子が面白くて、成長に合わせたものを作っては渡してきた。

妻が乳母として務めるご子息の体調を慮り、二月違いで生まれた息子と妻は、俺とは離れ子爵家の別荘で暮らすようになった。

元貴族でもある俺は騎士団の中でも戦地へ赴く隊に属しており、一度出立すれば長く戻らない。

妻子を置いていくことを思えば、子爵家で多くの者と共に暮らしている方が安心だと思っていた。


「トビアス!!」


戦いに終わりが見えてきた頃、隊長が呼ぶ声に振り向くと……心臓がドクリと音をたてた。

険しい顔をした隊長のうしろに…子爵家の使いが蒼白い顔をして立っていたからだ。

嫌な予感がする。

ドクドクと鳴る己の胸の音に聴覚を奪われ、無言で差し出された書状を開いた。

そして……一瞬、心臓が止まった。


「─────────────のか!?」


激しく肩を揺すられ、奪われていた聴覚が戻る。


「支度をしろ!今すぐ行け!!」


返事をした記憶はない。

すぐに馬へ飛び乗り全速力で走らせ、途中限界を迎えた馬を変えることはあれど俺は一切休むことなく、ただただ我武者羅に別荘へと向かった。


【子爵家別荘にて賊による夜襲。多数の死傷者あり。奥方とご子息の絶命を確認】


それだけが認められた書状は、その場で握り潰し放り投げてきた。


「チェルシー……オリバー……ッ…」






******






ひたすら馬を走らせ着いた時には、既にふたりは弔われたあとなのだと聞かされた。


「…………チェルシー…オリバー……」


たとえ腐敗しようとも…骨だけになろうとも…俺の大切な家族に変わりはない。


「チェルシー…ッ……オリバー……ッ!!」

「おやめください!トビアス殿!!」


ふたりを掘り起こそうとする俺をジェイマンが抑えにかかり、その老体のどこにこんな力が…と思うほどに強く制されるが、俺は構わずふたりが埋葬されている場所を手で掘り始めた。


「離せ!離せっ、ジェイマン!!」

「なりません!!眠りについた者を叩き起こすおつもりですか!?」

「起こせばいい!起きろ!出てこい!!」

「トビアス殿!!ふたりはもう亡くなっております!!チェルシーは若き娘と小さな命を守り、オリバーはぼっちゃまを身を呈してお守り通しました!!」

「そんなこと知るかっ!!早く起きろ!!チェルシー!オリバー!!早く出てこい!!」

「トビアス!!!落ち着け!!!!」


ジェイマンの渾身の叫びに漸く止め…土にまみれた手を見て、もうこの手にふたりを抱くことはないのだと…絶望した。


「どうして…チェルシー…オリバー……」


ここで命を絶とう…ふたりの傍で最期を…そう思い、帯剣を抜こうとして…ふわりと温かい風が身を包むように吹き抜け…ふたりの声が聞こえた。


『貴方は私の自慢の夫であり自慢の騎士よ』

『俺、父さんみたいな騎士になるんだ!』

『貴方は私の誇りだわ、愛してる』

『父さんみたく、大切な人を守れる騎士になる』


そして戦地へ向かう時、必ずかけてくれた言葉。


『貴方は必ず生き抜くわ』
『父さんが負けるもんか!』


これが最後になるかもしれない…だが、それが騎士としての生き様である……そう覚悟をしていても、いつも拭いきれなかった不安。

愛する家族を置き去りにすることになるかもしれないと気落ちする俺に、ふたりはいつも励ましの言葉をかけてくれた。


『どんな苦境も乗り越える貴方が好きよ』


チェルシー…君は、戦にかまけてばかりの俺の妻になったことを、後悔しただろうか。

国を守る為に君達と離れ、結果家族を守れなかった俺を…君はどう思った?


『父さんは俺の憧れなんだ』


オリバー…お前は、俺なんかよりずっとずっと立派な騎士になったはずだ。

剣を教えることしか出来ない俺を、父として敬い憧れだと言ってくれたお前を…愛している。


「…チェルシー…オリバー……俺は頑張って生きるよ。ちゃんと生きて……いつかそっちに向かう時は、迷わないように迎えに来てくれるか?」


再度温かい風が吹き抜け、それがふたりの返事なのだと思い……暫くふたりと過ごしたあと、誰にも言わずその場をあとにした。






******






それは偶然だった。

残された命を全うしようと、市井の警備兵として細々と生活していた俺は、一年に一度だけ酒を飲むために酒場へ出向いていた。

その日…例年通りふたりに花を供えて戻った足でいつもの酒場に行くと、そこで女に絡まれた。


「私はもう待てないの!!」


聞いてもいないのに女は話し始め、自身も結婚して子供がいるにも関わらず、妻を持つ男と結ばれたいのだと愚痴を吐き続ける。


「私達は愛し合ってるの!それなのに…」


生まれた子供がその男の種だったのならば、今頃一緒に暮らせていたはずなのに、残念ながら当たらず夫にそっくりなのだと言う女に呆れ、ふと俺によく似ていたオリバーを思い出した。

顔の造形から癖のある髪、爪の形まで似ていた。

懸命に模擬刀を振るう姿も思い出され、それを見守るチェルシーも浮かんで、心が温かくなるのを感じる。

そんな想いに耽っていたら、女の口から予想だにしない名前が飛び出してきた。


「もうっ…バルト様ってば、意気地無し」


バルト……?

その名前に胸がざわつき、それまで相手にしていなかった女に初めて声をかけた。


「おい…バルトって言うのは……」

「モリス子爵のバルティス様よ。私達、ずっと愛し合ってきたの…それなのに……」


そこから聞いた女の話しに、俺の心はバキバキと音を立てて砕け散った。

チェルシーが愛情を込めて育てていた。

オリバーが命を懸けて守り抜いた。

その男が……あろうことか友の妻に手を出し、迎えた己の伴侶を蔑ろにしている。


「さっさと出ていけばいいのよ、あの平民女」

「……協力してやろうか?」


バルトの屋敷からそう遠くない場所に居を構えていたのは、オリバーが命を懸けたからこそ、その命の近くで生きていたいと思ったから。

そして、より近いこの酒場に立ち寄るのは年に一度…ふたりの命日だけ。

そんな日に、この場所で女から話を聞いたのは偶然じゃない気がした。


「…………許さない…」


騎士になった話を聞いたときは嬉しかった。

まるで息子が夢を叶えたような気もしていた。

それなのに…………







ここから、俺は復讐の悪鬼と姿を変えた。









******






殺される罪などない男を手にかけ、捕縛されて投獄された牢の中…己の手を見つめた。

人の命など、戦地では数えきれないほどに奪ってきたというのに…その罪なき男ひとりの命の重さが、ずっしりとのし掛かってくる。


「影がついてたって…なんだよそれ……」


元王女から、バルトの伴侶に影がついていたと聞かされたときは驚いた…と同時に、どうりでタイミングよく邪魔が入っていたのだと理解出来た。

全ては女の妄言だった……


『おじさん、僕も騎士になれる?』


オリバーより成長が遅く小さな体で…けれど期待に満ちた目を向けられては、なれるわけがないなど言えず、騎士とはその志しである…そう言ったのは俺なのに、その志しに背いた。


『騎士となり、かつて憧れていた貴方と…乳母のチェルシー、オリバーが自慢し誇っていた貴方と剣を合わせたかった』


そうだな、バルト。

俺も騎士となったお前と手合わせしたかった。






「トビアス殿」






壁に凭れ俯いていた俺に声がかかり、顔をあげて声の主を見ると…そこにいたのは俺がよく知る人物だった。


「…………ジェイマン…なぜ……」

「杯を賜れとの事です」


それは分かるが…なぜ…その役目をジェイマンがしているんだ……どうして…


「…ジェイマン…………」

「トビアス殿は、毒杯を賜ったのちに王都から離れた高台へ埋葬されます」

「…高台……?」

「そこはとても空気がよく…例えるなら、体の弱い幼子の療養にも最適な場所です」


その言葉に、ただ死を待つだけだと諦めていた心臓が早鐘を打ち始めた。


「……ジェイマン…そこは…………」

「お心遣いに感謝致しましょう」


途端に涙が溢れた。

汚れた魂の俺はもう、ふたりと同じ場所に向かうことは出来ない。

俺を信じて待ち続けてくれていると…そう信じて生きてきたのに……っ…それを俺は……


「子は挟んで寝るものです」


久し振りに見たジェイマンの執事然たる笑みに、思わず俺もつられて笑った。

この狸爺い…どんな人脈持ってやがる……



俺は…オリバーを挟んで横になれるのか……









「杯を賜る」








最後は騎士として潔く逝こう




チェルシー……オリバー……



生まれ変われるのなら、もう一度お前達と家族になりたい


その時も俺は騎士になるだろう


そしてお前達に誇り自慢してもらえる夫となり、父親となりたい


もう戦地に赴くことはせず、傍にいられるように護衛騎士として子爵に志願してみるよ


バルトとオリバー……ふたりの姿を、今度はチェルシーと共に傍で見守り命を懸けて守りたい









「トビアス殿…ふたりは必ず貴方を迎えに参りますよ……必ず…」






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