せめて夢の中は君と幸せになりたい

Ringo

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when I was little ・・・

十四歳の出会い -2/4-

十二歳で爵位を継承してから二年。

十四歳になって変わったのは、身長や体型などの見た目だけではない。

昔のように人付き合いが出来なくなった。

両親や大切な人達を一度に亡くして落ち込む僕に対し、励ましてくれる人は沢山いた。

だけど、その中には優しい顔の裏に黒い思惑を隠している人もいて…

暗闇にいた僕は、それに気付くことなく希望の光なのだとその人達を信用して、僅かな被害だけれど個人資産を奪われたりもした。

またある時には自分の娘と婚約を結ばせようと画策する者に、まだ十二歳や十三歳でしかない僕に媚薬を用いて既成事実を図ろうとされた事も。

その都度、ジェイマンに守られ助けられてきた。

時にはそのジェイマンを信じるなと言う者もいたけれど、それだけは断固として拒否。

誰も味方がいなくなったような気のする世界で、ただただ暗闇に落ちるだけのなか、ジェイマンが言ってくれた言葉が心に深く刻まれた。


『私と辺境に行きますか?』


お金を取られ、変な薬を飲まされ、もう誰も信じられない、誰の言うことも信じないと泣く僕を抱き締めて、そう言ってくれた。

思えば、誰かに抱き締められることも久し振りのことだったように思う。


『私は爵位がありませんので、平民として生きることになります。ですが、こちらで培ってきた経験を生かせば生活に困ることはありません。辺境には妻と息子がおりますし、孫達もおりますから賑やかですよ』

『…………でも…僕は何も出来ない……』


領主として、当主として生きる事だけを学んできたから、それ以外の生き方を知らない。

オリバーだって、大人になって頑張った果てなら別の道へ進んでもいいと言っていた。

僕はまだ大人になっていない。

だけど……ツラい…………


『ぼっちゃまは、努力することが出来ます。大切な人達を突然失うという、大人でもツラく苦しい状況に置かれる中、どんなに難しい課題にも懸命に取り組み、厳しい騎士の鍛練にも耐える気概があります』

『…それは……僕は子爵だから……』

『そうですね…本来ならそうなるのはまだまだ先のはずが、そうならざるを得なかった。領地や領民、そして古くからいる私達使用人を守る為に、ぼっちゃまは子爵となる事をお選びになった』


放棄することも出来た。

法的に継承可能性とされても、まだ子供。

だから親切な人の仮面を被った多くの親戚や大人達が、僕を養子として引き取り、代わりに自分が子爵になることを求めてきた。

そして、自分の子供に継がせる…と。

それでもいいかと思った。

そのくらい、ツラくて寂しかった。

離れて暮らす事が多かったけれど両親はいつも優しくて大好きだったし、乳母やオリバーもいなくなったことが、僕に深い傷を残していた。

だけどある日、大人達が交わす会話を耳にしたことで僕は継承することを決意したんだ。

ジェイマンを始め、古くからいる使用人達を解雇して新しい者を採用する…と。

自分達にとって都合のいい者、言うことを聞く者以外はいらないと楽しそうに話しているのを聞いて、怒りが湧いた。

いつまでも落ち込んでいる僕を励まし、守ろうとしてくれている彼らを放り出すなど、そんなことはさせたくなかった。

だから継ぐと決めたのに…僕は心が折れそうで…


『ぼっちゃまは充分に頑張って下さいました。たとえここで放棄なさったとして、感謝こそすれ恨む者などおりません』


揺らいだ。

本当にいいのだろうか…と。

ジェイマンは抱き締めてくれたまま、静かに僕の返事を待っている。

ジェイマンとなら、きっとどこへでも行けるような気もする。

だけど……


『……もう少し頑張る…』


そう言うと、抱き締めてくれる力が少し強くなって、それがとても嬉しいと思った。


『だけど…もしもやっぱり無理だと思ったら…その時はジェイマンと辺境に行きたい』

『畏まりました』


ぎゅっと強く抱き締められ、やがて解かれ離れていく腕に寂しさを感じたけれど、向けられるジェイマンの笑みに心は温かくなった。








それからも様々なことが身の回りに起きた。

相も変わらずに子爵として求められる事は多くて難しいしいし、近付いてくる人間を一切信用出来ずに警戒しか出来なくなった。

息が詰まりそうになる時は、街へ出掛けてお茶をしたり屋敷のみんなへお土産を買ったりする。

ひとり街を歩いて、ただのんびり過ごす。

そしてなんとなく入った雑貨屋で、なんとなく商品を手に取ったりしていた時…突然、周囲に怒号と悲鳴が響き渡った。

────強盗

そう思った時、咄嗟に近くにいた子供抱き上げ、恐怖でしゃがみこむ母親とおぼしき女性の手を取り外へと逃げ出した。


「あ、、ありがとうございます……っ…」


泣きながら子供を抱き締める女性を安全な場所に避難させると、未だ悲鳴のあがる店内に向けて走り出した。

心臓は痛いくらいにバクバクしている。

強盗が押し入ってきた瞬間、かつて受けた夜襲が脳裏に甦って身がすくんだ。

だけど、それと同時に…オリバーの背中を思い出した。

僕を守ろうと立ちはだかってくれた背中。

そんなオリバーに近付きたいと、この二年は騎士から鍛練をつけてもらってきた。

オリバーなら、この状況から逃げ出さない。


「やめろ!!離せ!!!」


逃げ惑う人波のなか、店内でひとりの男性が人質に取られ拘束されているのが見えた。

遠くから警備団が駆けつけてくる音が聞こえる。

だけど間に合わないかもしれない。

逃げ切る際に、斬り捨てられるかもしれない。

気付けば、腰に付けていた剣を抜いていた。


「…………オリバー…」


震える手を抑えるように、柄を強く握り締める。


『負けるな、お前なら出来る』


オリバーはいつだってそう言ってくれた。


『ぼっちゃまは努力することが出来ます』


ジェイマンはそう言ってくれた。

だから鍛練を続けてこられた。

目を瞑り、深呼吸をし……




僕は店内へと足を踏み入れた。






******






「ありがとう」


僕が踏み込んでから暫くして警備団も到着し、無事に強盗三名は捕縛されて男性も解放された。

強盗が白昼堂々しかけてきたのは、以前店主と揉めたことに恨みを持っていたかららしい。

商品を盗むのが目当てではなく、商売を続けられなくすることが目的だったそうだ。

そして今、僕の目の前には救助された男性が申し訳なさそうに様子を窺っていた。


「少し切っただけですから大丈夫です」

「だけど……血が…」


よくよく自分の状態を見ると、衣服の所々が破られており、うっすら血も滲んでいる。

でも、大して痛みはない。

なんなら、普段している鍛練の時の方が痛い。

そして、血を滲ませている僕より、顔色を悪くした目の前の男性の方が重症そうだ。


「本当に大丈夫ですから」


気にしないでと言ってその場を去ろうとしたら、そんなわけにはいかないと止められた。


「俺はビノワ・コーレス。男爵位を賜っている」


見覚えがあるとは思ったし、その身なりで貴族だと思ったけれど、自己紹介にあえて爵位持ちであることを持ち出されて心がスッと冷えた。

人を信用出来ない上、それが貴族であれば尚更近付きたくもない。

逡巡したのち、いつも通り偽名として使っている名前を名乗ろうと思った。

僕はこの人を知っているけど、この人が僕を知っているとは限らない。

いずれまた正式な場面で会うことがあれば、その時に名乗ればいい。

そう考えを纏めた時────


「君は…バルティス・モリス子爵?」


僕は意外に知られていたらしい。






******






剣を手に立ち向かったことを、ジェイマンにはこんこんと叱られ、騎士達には賞賛された。

今まではひとり気楽に街へ出掛けていたけれど、今後は必ず護衛を連れていくようにとも言われてしまった。


「大丈夫だよ、強盗なんてそうそうないから」

「危険は強盗だけではありません」


ジェイマンは折れなかった。

確かに、僕自身や爵位を狙う者は未だいるわけだから仕方のないこと…と理解はしている。


「私は引きませんよ。護衛騎士がイヤだと言うなら、私がぼっちゃまに付き添います」

「…………ちゃんと連れていきます」


そして暫くは外出禁止と言われ、ブツブツ文句を言いつつもきちんと従い、課題や僕にも出来る執務をこなす日々を送っていると、あの男性から手紙が届いた。

お礼をしたいから食事でも…と書かれていたが、どんな思惑があるかも分からないので、当たり障りのない内容で断ろうと思いジェイマンに相談すると、手紙…正確には差出人の名を見た途端に少し難しい顔をした。


「コーレス男爵…ですか……」

「知ってる?」

「えぇ、多少は。ぼっちゃまと同じように、若くして男爵位を継いだ方です。ご兄弟もなく…という点でも共通するところはありますね」

「へぇ……」


少しだけ興味が湧いた。

もしかして、僕が今抱えているような思いを彼もしたのだろうか…と。


「この前のお礼に食事でもどうかって」

「お食事ですか…」


何かを考える様子に、やっぱり近付かない方がいいのかな?と思った。


「何か気になることでもあるの?やめた方がいいなら行かない。特に付き合いを持ちたい相手なわけでもないし」

「いえ……そのお食事の席に、コーレス男爵はおひとりで来るのでしょうか」

「うん、そう書いてある。僕とふたりでって」

「そうですか。それなら問題はないかと思われます。あとはあまり遅くならない時間帯であれば」


ジェイマンの許可もおりたことで、僕と同じ若き継承者との食事会は遂行される運びとなった。




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