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season2
(おまけ)ジェイマンのひとり語り
気が付けば確定申告の締め切りが迫っており、焦っているのに気が進まず…
ちょっと息抜きにジェイマンと絡もうかと。
**************
私の名前はジェイマン・クロード。
南に位置する辺境に生まれ、生花を育成販売する両親の元、五人兄弟の末っ子として育ちました。
両親は既に鬼籍、兄二人と姉二人もそれぞれ家庭を持ち、手紙のやり取りは稀にあれどもう十年以上会っておりません。
私自身の家族に関しては、のちに明らかとなるようなので割愛させていただきます。
ですので、私が子爵家でお世話になるまでの経緯などを少しお話し致しましょうか。
そこには不思議な縁がございました。
あれは私が六歳になる少し前といった頃、当時の辺境伯様の元に嫁がれて来られた他国の侯爵令嬢様が『子供達に教育を!』と仰られ、辺境伯邸に平民の子供達が集められたのです。
その中で、私は最年少でした。
生家は決して裕福とは言えない状況でしたので、教育の専門家から直に学ぶことが出来るなど想像もしておりませんでしたし、その時まで辺境伯様と直接お話したこともありません。
貴族と平民…そこには大きな壁のようなものがあり、まして辺境伯というお立場は国を守る盾を担うことから、この国では王家に次ぐ尊い地位でございます。
その為、貴族でさえ簡単にはお会いできないお方であられたのですが、そこに風穴をお開けになられたのが先述の侯爵令嬢様でした。
『楽しくない、必要ないと思うのなら無理をすることはないわ。だけど、知りたい・学びたいと望むのなら協力は惜しまない。進める道は少ないとしても、目指すものへ努力出来る人間になってもらいたいの』
辺境伯様はこのご令嬢…いえ、奥様を大層愛しておられまして、奥様の為にご自身も何かなさりたいと仰り、平民の子供達へ辺境伯自ら剣術などをご指導下さいました。
私を含む少年達は日々の鍛練に加え、辺境伯邸の家令や執事、侍従の方々から多くの学びを得る機会を得たことで、多くの者が給金の良い場所への就職を果たしております。
少女達には、奥様がお連れになられた侍女を筆頭とした講師陣により礼儀作法やマナー講習が施され、多くの者が貴族の屋敷で使用人として採用されました。
そのような環境をお作り頂いたことに民達は深い感謝と尊敬の念を抱き、たとえ辺境伯領以外へと居を移しても、領主ご夫妻への強い忠誠心を失うような者はおらず、むしろご夫妻の御名を穢すような事はしないようにと精進を続けたのです。
勿論、雇い主である主人への忠誠心はございますし、主の為に誠心誠意お仕え致します。
しかしそう思えるのも、その礎となるものを与えて下さった領主ご夫妻あってのもの。
ですので、誰が決めたわけでもないことですのに『辺境にて不測の事態があれば我が身とその命は辺境と共に』と誓いを胸に抱き、その旨を主人へお伝えした上でお仕えするようになりました。
そしていつしか、その高い忠誠心と勤勉な姿勢が多くの貴族から評判を呼ぶようになり、『雇うなら辺境出身の者を』とさえ言われるようになっていったのです。
そのように先人達が多大な信頼を得ながら道を切り開いてくれたお陰で、私が成長する頃には多くの選択肢が目の前に用意されておりました。
『ジェイマンは家令や執事に向いているわね』
夫人からの言葉を受け、自身でもその分野に強い興味を持ち始めていたことから、幼き頃より恋仲であったミランダを伴い成人を迎えた十六で王都へ向かい、まずは辺境伯様のタウンハウスで王都の事を学びながら就職先を探したのです。
ある日、休みを頂きミランダとふたりで街へ赴いた際、向かいから歩いてきた老齢の男性がふらりとよろめき、倒れそうになったところに手をお貸ししたのですが、具合の悪い様子に心配だからとお送りした彼の勤め先がモリス子爵家でした。
そこで、私は衝撃を受けることとなります。
『ありがとう!』
当主である子爵様直々に謝辞を述べられた事にも驚きましたが、私の両手を強く握りブンブンと振りながらひどく感謝されたのです。
その気さくな態度に、私は何故か辺境伯夫人を思い出しました。
私が何者なのかも聞かず、まして身なりは一目で平民だと分かる質のもの…それなのにこの若き当主は、『助けてくれてありがとう!』と涙を浮かべて感謝するのです。
聞けば老齢男性はこの屋敷の執事で、子爵様が生まれるより前から勤めており、子爵様にとって家族同然の人間なのだと。
そして、平民である私達に頭を下げて謝辞を述べる子爵様の姿を、使用人達はとても優しい眼差しで見守られておりました。
【モリス子爵】の名は元より聞き及んでおり、実直なお人柄で堅実な領地運営をなさる方だとお伺いしていた方であります。
潤沢な財産を持つ貴族…そのようなお方が、私達にこのような接し方をなさる事に衝撃を受けつつも、このような方にお仕え出来る使用人の皆さんが羨ましくもなりました。
『まったく、彼にも困ったものだよ。もう年なんだから無理はするなと言っているのに、僕の言うことなんて聞きゃしない。いつまでたってもお坊ちゃん扱いだ、イヤになる』
口を尖らせそう言いながらも、そこには確かな親愛を感じます。
『実はさ、彼の後継で勤めていた補佐が急遽実家に戻らなければならなくなって…その負担がのし掛かっているんだ』
その言葉に、鼓動が速くなりました。
『補佐はもう戻らないし、彼の為にも早く次を見つけてあげないとって思ってるんだけど…なかなかいい人材が見つからなくてね。出来るなら評判のいい辺境出身の者がいいんだけど、人気あるから難しいし、そもそも執事を希望している者は少ないから探すのも大変らしいし』
確かに、辺境伯様への憧れと影響から多くが騎士の道へ進んでおり、高い知識と礼儀作法、マナーを求められる執事を目指すものは少ない。
私は逸る鼓動を必死で抑えながら、膝の上に置いた拳を強く握り締め…意を決して自身の身元と現状、そして子爵様と使用人達に感じた思いをありのままにお伝え致しました。
『本当か!?勤めてくれるか!?』
そこからは電光石火の速さです。
すぐにタウンハウスへ連絡がいき、私達の身元確認が取れ、正式に面談を受けたのちに採用の運びとなりました。
私達は屋敷の近くに小さな部屋を借り、執事見習いと侍女見習いとして働くこととなったのです。
……ですが、モリス子爵家に採用が決まった喜びから高揚したことで、その僅か二ヶ月後にはミランダが身籠っていることが判明し、結局は私だけが勤めることとなりました。
折角の機会を下さったのにと子爵様にはお詫びを申し上げたのですが……
『若いっていいな!子供は宝だ。父親になるんだから頑張って働いてくれよ!』
と大きな声で笑われ、恥ずかしいやら嬉しいやらで複雑な気持ちになりました。
若さ故の勢い……恐ろしいものですね。
『…俺も頑張ろっと。てなわけで、ちょっとばかり奥さんのところに行ってくる』
子爵様ご夫妻が、長く不妊に悩まれていると知ったのはその日の夜。
そのせいか、いつしかすれ違うようになっていたと使用人仲間が話していたのですが、それからというものおふたりで話し合う時間を作られるようになり、やがて寝室に籠ることも増え、のちに男の子をふたり授かられました。
そのご長男がバルティス様のお父様です。
それから様々なことがありました。
幼くして子爵位を継ぐことになったバルティス様も、問題なく順調にその道を歩んできたわけではございません。
嘆き苦しみ、幼い心に刻まれた傷を抉ろうとする者から追い詰められ、人を信用できなくなる事態に陥ったこともあります。
あまりにも痛々しく、このまま死に向かうのではないかと胸を痛めていた時…ナディア様と出会われました。
そのような経緯から、私達使用人はナディア様のことを敬いお慕いしております。
おふたりが家庭を築き、いつまでも笑って過ごせる事が、私達にとっての幸せでもあるのです。
人生は選択の繰り返し。
自身の選ぶ選択肢で、大切な存在を失うことがあることを…そろそろお話しする時が来たのかもしれません。
かつて私が失ってしまった、大切な宝の話を。
さて、この辺で私の話は終わりに致しましょう。
どうぞ皆様、今後とも宜しくお願い申し上げます
ちょっと息抜きにジェイマンと絡もうかと。
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私の名前はジェイマン・クロード。
南に位置する辺境に生まれ、生花を育成販売する両親の元、五人兄弟の末っ子として育ちました。
両親は既に鬼籍、兄二人と姉二人もそれぞれ家庭を持ち、手紙のやり取りは稀にあれどもう十年以上会っておりません。
私自身の家族に関しては、のちに明らかとなるようなので割愛させていただきます。
ですので、私が子爵家でお世話になるまでの経緯などを少しお話し致しましょうか。
そこには不思議な縁がございました。
あれは私が六歳になる少し前といった頃、当時の辺境伯様の元に嫁がれて来られた他国の侯爵令嬢様が『子供達に教育を!』と仰られ、辺境伯邸に平民の子供達が集められたのです。
その中で、私は最年少でした。
生家は決して裕福とは言えない状況でしたので、教育の専門家から直に学ぶことが出来るなど想像もしておりませんでしたし、その時まで辺境伯様と直接お話したこともありません。
貴族と平民…そこには大きな壁のようなものがあり、まして辺境伯というお立場は国を守る盾を担うことから、この国では王家に次ぐ尊い地位でございます。
その為、貴族でさえ簡単にはお会いできないお方であられたのですが、そこに風穴をお開けになられたのが先述の侯爵令嬢様でした。
『楽しくない、必要ないと思うのなら無理をすることはないわ。だけど、知りたい・学びたいと望むのなら協力は惜しまない。進める道は少ないとしても、目指すものへ努力出来る人間になってもらいたいの』
辺境伯様はこのご令嬢…いえ、奥様を大層愛しておられまして、奥様の為にご自身も何かなさりたいと仰り、平民の子供達へ辺境伯自ら剣術などをご指導下さいました。
私を含む少年達は日々の鍛練に加え、辺境伯邸の家令や執事、侍従の方々から多くの学びを得る機会を得たことで、多くの者が給金の良い場所への就職を果たしております。
少女達には、奥様がお連れになられた侍女を筆頭とした講師陣により礼儀作法やマナー講習が施され、多くの者が貴族の屋敷で使用人として採用されました。
そのような環境をお作り頂いたことに民達は深い感謝と尊敬の念を抱き、たとえ辺境伯領以外へと居を移しても、領主ご夫妻への強い忠誠心を失うような者はおらず、むしろご夫妻の御名を穢すような事はしないようにと精進を続けたのです。
勿論、雇い主である主人への忠誠心はございますし、主の為に誠心誠意お仕え致します。
しかしそう思えるのも、その礎となるものを与えて下さった領主ご夫妻あってのもの。
ですので、誰が決めたわけでもないことですのに『辺境にて不測の事態があれば我が身とその命は辺境と共に』と誓いを胸に抱き、その旨を主人へお伝えした上でお仕えするようになりました。
そしていつしか、その高い忠誠心と勤勉な姿勢が多くの貴族から評判を呼ぶようになり、『雇うなら辺境出身の者を』とさえ言われるようになっていったのです。
そのように先人達が多大な信頼を得ながら道を切り開いてくれたお陰で、私が成長する頃には多くの選択肢が目の前に用意されておりました。
『ジェイマンは家令や執事に向いているわね』
夫人からの言葉を受け、自身でもその分野に強い興味を持ち始めていたことから、幼き頃より恋仲であったミランダを伴い成人を迎えた十六で王都へ向かい、まずは辺境伯様のタウンハウスで王都の事を学びながら就職先を探したのです。
ある日、休みを頂きミランダとふたりで街へ赴いた際、向かいから歩いてきた老齢の男性がふらりとよろめき、倒れそうになったところに手をお貸ししたのですが、具合の悪い様子に心配だからとお送りした彼の勤め先がモリス子爵家でした。
そこで、私は衝撃を受けることとなります。
『ありがとう!』
当主である子爵様直々に謝辞を述べられた事にも驚きましたが、私の両手を強く握りブンブンと振りながらひどく感謝されたのです。
その気さくな態度に、私は何故か辺境伯夫人を思い出しました。
私が何者なのかも聞かず、まして身なりは一目で平民だと分かる質のもの…それなのにこの若き当主は、『助けてくれてありがとう!』と涙を浮かべて感謝するのです。
聞けば老齢男性はこの屋敷の執事で、子爵様が生まれるより前から勤めており、子爵様にとって家族同然の人間なのだと。
そして、平民である私達に頭を下げて謝辞を述べる子爵様の姿を、使用人達はとても優しい眼差しで見守られておりました。
【モリス子爵】の名は元より聞き及んでおり、実直なお人柄で堅実な領地運営をなさる方だとお伺いしていた方であります。
潤沢な財産を持つ貴族…そのようなお方が、私達にこのような接し方をなさる事に衝撃を受けつつも、このような方にお仕え出来る使用人の皆さんが羨ましくもなりました。
『まったく、彼にも困ったものだよ。もう年なんだから無理はするなと言っているのに、僕の言うことなんて聞きゃしない。いつまでたってもお坊ちゃん扱いだ、イヤになる』
口を尖らせそう言いながらも、そこには確かな親愛を感じます。
『実はさ、彼の後継で勤めていた補佐が急遽実家に戻らなければならなくなって…その負担がのし掛かっているんだ』
その言葉に、鼓動が速くなりました。
『補佐はもう戻らないし、彼の為にも早く次を見つけてあげないとって思ってるんだけど…なかなかいい人材が見つからなくてね。出来るなら評判のいい辺境出身の者がいいんだけど、人気あるから難しいし、そもそも執事を希望している者は少ないから探すのも大変らしいし』
確かに、辺境伯様への憧れと影響から多くが騎士の道へ進んでおり、高い知識と礼儀作法、マナーを求められる執事を目指すものは少ない。
私は逸る鼓動を必死で抑えながら、膝の上に置いた拳を強く握り締め…意を決して自身の身元と現状、そして子爵様と使用人達に感じた思いをありのままにお伝え致しました。
『本当か!?勤めてくれるか!?』
そこからは電光石火の速さです。
すぐにタウンハウスへ連絡がいき、私達の身元確認が取れ、正式に面談を受けたのちに採用の運びとなりました。
私達は屋敷の近くに小さな部屋を借り、執事見習いと侍女見習いとして働くこととなったのです。
……ですが、モリス子爵家に採用が決まった喜びから高揚したことで、その僅か二ヶ月後にはミランダが身籠っていることが判明し、結局は私だけが勤めることとなりました。
折角の機会を下さったのにと子爵様にはお詫びを申し上げたのですが……
『若いっていいな!子供は宝だ。父親になるんだから頑張って働いてくれよ!』
と大きな声で笑われ、恥ずかしいやら嬉しいやらで複雑な気持ちになりました。
若さ故の勢い……恐ろしいものですね。
『…俺も頑張ろっと。てなわけで、ちょっとばかり奥さんのところに行ってくる』
子爵様ご夫妻が、長く不妊に悩まれていると知ったのはその日の夜。
そのせいか、いつしかすれ違うようになっていたと使用人仲間が話していたのですが、それからというものおふたりで話し合う時間を作られるようになり、やがて寝室に籠ることも増え、のちに男の子をふたり授かられました。
そのご長男がバルティス様のお父様です。
それから様々なことがありました。
幼くして子爵位を継ぐことになったバルティス様も、問題なく順調にその道を歩んできたわけではございません。
嘆き苦しみ、幼い心に刻まれた傷を抉ろうとする者から追い詰められ、人を信用できなくなる事態に陥ったこともあります。
あまりにも痛々しく、このまま死に向かうのではないかと胸を痛めていた時…ナディア様と出会われました。
そのような経緯から、私達使用人はナディア様のことを敬いお慕いしております。
おふたりが家庭を築き、いつまでも笑って過ごせる事が、私達にとっての幸せでもあるのです。
人生は選択の繰り返し。
自身の選ぶ選択肢で、大切な存在を失うことがあることを…そろそろお話しする時が来たのかもしれません。
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