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ふたりの秘密
しおりを挟む夜会はまだ中盤だけれど、ひと足先に部屋へ戻ったわたくし達は一緒に湯浴みを済ませた。
友好国の王女を留学生として迎えるにあたり催されたもので、あとは彼女の婚約者である第二王子に任せれば問題はない。
義両親である両陛下から退席を促されたのもあるけれど、その原因は……
「今日もよく動いている。男の子かな」
わたくしのお腹に手を添えるアンディ様。
子を宿してぽっこり膨らんだそこに、丁寧な手つきで保湿効果のある香油を塗り込んでいる。
「お父様と踊れて嬉しかったのかしら」
「じゃぁ女の子かもしれない」
どちらでも嬉しいけど…と優しくお腹を撫でる様子は、子の誕生を心待ちにする父親そのもの。
「でも本当に大丈夫?無理をしてない?」
「大丈夫ですわ。むしろ好調なくらい」
妊娠中でも軽い運動を…と言われているので、スローなものを一曲だけ選んだ。
けれど結局はアンディ様の過保護が爆発してしまい、呆れた両陛下に退席を命じられてしまった。
「シーラも触って。本当によく動いてるのよ」
王太子夫妻用のリビングに控えているのは、シーラとわたくしの専属侍女ウリカ。
アンディ様のマッサージが終わり声を掛けると、嬉しそうにはにかんでお腹に触れた。
「……動いたっ!!」
「ね?凄いでしょう?」
「凄い凄いっ!!うわぁ…感動なんだけど」
公の場で見せる姿とは違い、砕けた口調と態度で過ごすシーラ。
わたくし達だけしかいないこの空間で、それを諌める者はいない。
むしろ微笑ましく見守っている。
「だろう?姉さん」
「私も伯母になるのか…泣けてくるっ」
「たくさん遊んであげてね」
「もちろんっ!!」
「シーラさん、沐浴の練習をされてみては?」
ウリカの言葉に、シーラは目を輝かせた。
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『理解出来ないかもしれないけど…』
そう言ってアンディ様が秘密を打ち明けてくれたのは、婚約者となった12歳の時。
当時のアンディ様は13歳、シーラは20歳。
10歳で立太子を迎えたアンディ様たっての希望で専属護衛騎士として引き上げられ、主従関係にしては仲睦まじく、常に連れ添う様子は『愛妾に据えるおつもりでは』と噂になるほど。
わたくしも、そう思っていた。
堪らず『シーラを愛しているのですか?』と尋ねたわたくしに、何やら思い悩んだアンディ様が答えたのが先の言葉。
そして続いたのは…
『僕とシーラは前世で姉弟だったんだ』
という、信じ難いもの。
それでも真剣な眼差しは偽りを述べているようには思えず…けれど『信じられないよね…』と不安に瞳を揺らすアンディ様を、“嘘つき”と突き放す事は出来なかった。
ふたりは前世でも7歳差で、その境遇は決して恵まれたものではなかったという。
借金を繰り返す父親は暴力を振るう人で、母親は夫に依存し頼りにならない。
それどころか一緒に虐待を与える始末。
身を呈して守ってくれたのは前世で姉だったシーラであり、最期の時を迎えたのは大雪の日。
嵐のように雪が吹き荒ぶ中へ薄着で放り出され、抱き合いながら息絶えた……と。
アンディ様が6歳、シーラが13歳の時だった。
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