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紫色の刺繍
姉弟だった…と言われ、注意深く見れば確かにふたりの間には恋情を感じなかった。
互いに慈しむ視線を交わす事はあるけれど、アンディ様は無邪気に懐いている様相で、シーラはそんなアンディ様が可愛くて仕方ない…という。
まさに姉弟愛。
『私が前世を思い出したのは早かったんです。タイミング的にはアンディが生まれた瞬間』
けれどアンディ様は自国の王子であり、自分は一介の平民に過ぎない。
それでも再会を諦めきれず、せめて視界に入れる事が出来るなら…と騎士を目指した。
『今度こそ守りたいと思ったから』
10歳で準騎士が所属する警邏隊の剣術指南所に入り、鍛錬に勤しむ姿は『鬼気迫るものがあった』と後に語り継がれている。
13歳の時に推薦を得て騎士見習い試験を受けると見事合格、晴れて城外警備の一員に。
そして城内警備にも回れるようになった17歳でアンディ様が立太子を迎え、護衛騎士や侍従達を巻く遊びに熱中していた彼と偶然遭遇。
『体に稲妻が走ったようだった』
その瞬間にアンディ様の記憶も甦ったらしく、突然ボロボロと泣き出して抱き着いた…という逸話はわたくしも知る話。
『セリナが嫌な思いをするならシーラを護衛から外すよ。僕がこの世で一番愛して、大切にしたいのはセリナだから』
そう断言する13歳のアンディ様はニコニコとわたくしの腰を抱き寄せて、そんな様子を見守るシーラは呆れていた。
結局ふたりの言葉を信じてみようと決め、何かと不都合が出ては困ると侍女のウリカにだけは伝えて今に至る。
「小さな女の子だったセリナが母親なんて感慨深い……まぁ今も小さいけど」
「もうっ。シーラはひと言多いのよ」
わたくし達だけで過ごす時は、敬称をつけず気軽に話して欲しいと伝えた。
だってアンディ様がそうしているんですもの。
それに姉が欲しかったわたくしとしても、シーラとのやり取りは楽しい。
「元気に生まれておいで」
優しくお腹を撫でるシーラの眼差しは、慈しみに溢れて本当に楽しみなのだと伝えてくる。
*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜
わたくし達が結婚して間もなくの頃、シーラに誰かいい人はいるのかと尋ねたことがあった。
女性騎士も結婚や出産をする者は少なからずいるし、殆どが充分な休暇を経て復職するから。
だけどシーラは否定した。
『アンディには内密にして欲しいんだけど』
そう前置きして語ってくれた内容は、女性として人として到底許し難いもの。
曰く…8歳の頃から父親にふしだらな接触を図られ始め、12歳で無体を働かれた挙げ句、息絶えた時には実父の子を身篭っていた…と。
叶うなら前世の父親を殺めてしまいたいと、初めて激しい憎しみと殺意を覚え、湧き上がる怒りに震えが止まらなくなった。
『だからかな…男性に対して特別な感情を持った事はない。むしろ距離を置いてきた』
結婚するつもりはないから、アンディ様とわたくしの間に生まれる子を楽しみにしてる…と話したシーラは、その言葉通り赤子向けの玩具や衣服を買い込んでいる。
男の子と女の子…どちらでも大丈夫なようにと淡い黄色で揃えられ、わたくしはそこに紫色の糸で花や動物の刺繍を施した。
「最高っ!!セリナ、愛してる!!」
「姉さん!?セリナは僕の妻だよ!!離れて!!」
度々繰り広げられる姉弟喧嘩も微笑ましい。
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