【完結】愛する夫の傍には、いつも女性騎士が侍っている

Ringo

文字の大きさ
3 / 5

紫色の刺繍







姉弟だった…と言われ、注意深く見れば確かにふたりの間には恋情を感じなかった。

互いに慈しむ視線を交わす事はあるけれど、アンディ様は無邪気に懐いている様相で、シーラはそんなアンディ様が可愛くて仕方ない…という。

まさに姉弟愛。


『私が前世を思い出したのは早かったんです。タイミング的にはアンディが生まれた瞬間』


けれどアンディ様は自国の王子であり、自分は一介の平民に過ぎない。
それでも再会を諦めきれず、せめて視界に入れる事が出来るなら…と騎士を目指した。


『今度こそ守りたいと思ったから』


10歳で準騎士が所属する警邏隊の剣術指南所に入り、鍛錬に勤しむ姿は『鬼気迫るものがあった』と後に語り継がれている。

13歳の時に推薦を得て騎士見習い試験を受けると見事合格、晴れて城外警備の一員に。

そして城内警備にも回れるようになった17歳でアンディ様が立太子を迎え、護衛騎士や侍従達を巻く遊びに熱中していた彼と偶然遭遇。


『体に稲妻が走ったようだった』


その瞬間にアンディ様の記憶も甦ったらしく、突然ボロボロと泣き出して抱き着いた…という逸話はわたくしも知る話。


『セリナが嫌な思いをするならシーラを護衛から外すよ。僕がこの世で一番愛して、大切にしたいのはセリナだから』


そう断言する13歳のアンディ様はニコニコとわたくしの腰を抱き寄せて、そんな様子を見守るシーラは呆れていた。

結局ふたりの言葉を信じてみようと決め、何かと不都合が出ては困ると侍女のウリカにだけは伝えて今に至る。


「小さな女の子だったセリナが母親なんて感慨深い……まぁ今も小さいけど」

「もうっ。シーラはひと言多いのよ」


わたくし達だけで過ごす時は、敬称をつけず気軽に話して欲しいと伝えた。

だってアンディ様がそうしているんですもの。
それに姉が欲しかったわたくしとしても、シーラとのやり取りは楽しい。


「元気に生まれておいで」


優しくお腹を撫でるシーラの眼差しは、慈しみに溢れて本当に楽しみなのだと伝えてくる。






*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜






わたくし達が結婚して間もなくの頃、シーラに誰かいい人はいるのかと尋ねたことがあった。
女性騎士も結婚や出産をする者は少なからずいるし、殆どが充分な休暇を経て復職するから。

だけどシーラは否定した。


『アンディには内密にして欲しいんだけど』


そう前置きして語ってくれた内容は、女性として人として到底許し難いもの。

曰く…8歳の頃から父親にふしだらな接触を図られ始め、12歳で無体を働かれた挙げ句、息絶えた時には実父の子を身篭っていた…と。

叶うなら前世の父親を殺めてしまいたいと、初めて激しい憎しみと殺意を覚え、湧き上がる怒りに震えが止まらなくなった。


『だからかな…男性に対して特別な感情を持った事はない。むしろ距離を置いてきた』


結婚するつもりはないから、アンディ様とわたくしの間に生まれる子を楽しみにしてる…と話したシーラは、その言葉通り赤子向けの玩具や衣服を買い込んでいる。

男の子と女の子…どちらでも大丈夫なようにと淡い黄色で揃えられ、わたくしはそこに紫色の糸で花や動物の刺繍を施した。


「最高っ!!セリナ、愛してる!!」

「姉さん!?セリナは僕の妻だよ!!離れて!!」


度々繰り広げられる姉弟喧嘩も微笑ましい。







あなたにおすすめの小説

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

私の意地悪な旦那様

柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。 ――《嗜虐趣味》って、なんですの? ※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話 ※ムーンライトノベルズからの転載です

【完結】政略結婚から契約結婚へ… 契約結婚は幸せになれますか?

里音
恋愛
伯爵令嬢のアンリエッタは結婚を1ヶ月後に控えた婚約者のグレイから打ちあけられた。 「すまない。他に好きな人がいるんだ。だから君を愛することは難しい。」 アンリエッタは契約結婚を持ちかける。 「私達の結婚は政略ですし、婚儀まで後1ヶ月しかありません。今更結婚を取りやめにもできないでしょう。ですから1年間お付き合いください。その間に生活基盤を確立しますので、1年後離婚してグレイ様はお好きになさってくださいませ。」 ご都合主義です。許せる方だけお読みください。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます

基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」 婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。 愛する女は彼女だけとのことらしい。 相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。 真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。 だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。 「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」 彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。 しかし、結婚はするという。 結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。 あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。