記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第6章 少年少女の思いの先

第68話 魔法聖堂逃避行②

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「ミリア様! 早くこちらへ!」

 アタシは普段門番をしている衛兵に連れられてシアの洞穴へと避難していた。彼は衛兵の中でも一番信頼できる実力者だ。

「聖堂正面はリョウ大神官が守っております! ここを抜けてシアの洞穴へ行き、ゼロラ様とラルフルが来るまで耐えしのげば……!」
「ええ。それまでアタシは捕まる気なんて……。 !!?」

 崖伝いの道を走りながらアタシの目に飛び込んできた光景に目を疑った。

「ホホホホッ。聖女ミリア様がこのような場所で何をしているでおじゃ?」

 オジャル伯爵!
 顔立ちは整ったほうだけど、小太りでラルフルとは真逆のイメージのその男。まさか先回りされていたなんて……! 手下も五人連れている……!

「そんなにまろに会いたかったのでおじゃるか? まろも早う婚約を済ませたいでおじゃるよ」
「誰がアンタなんかと結婚するものですか!」
「おろ? 口が悪いでおじゃるな? まあよい。まろもボーネス公爵の案とはいえ、そなたのことは気に入ってるでおじゃるよ」

 もうボーネス公爵の策略を隠す気もないのね! この男に連れていかれたら、アタシは二度とラルフルに会えなくなる! そんなの絶対イヤ!

「アタシはアンタ達の道具にはならない! 大人しく引き下がりなさい!」
「……言葉は選んでほしいでおじゃるな」

 オジャル伯爵は腰に携えた大太刀を抜く。

「ミリア様! お下がりください!」

 衛兵がオジャル伯爵の前に躍り出て剣を抜く。オジャル伯爵を睨んでチャンスを伺う。

「衛兵ごときが……まろに逆らうでないわ!」

 ザシュン!!

「そ、そんな!?」

 一瞬。本当に一瞬で衛兵はオジャル伯爵に斬り倒されてしまった。

「ぐ、ぐはぁ……!?」
「まろの太刀は<二の太刀要らず>。一刀必殺の元に相手を斬り伏せるのでおじゃる」

 アタシは慌てて衛兵の傷に回復魔法をかける。かなり深く刃が入り込んでいるので治りが遅い。
 <二の太刀要らず>……! オジャル伯爵がここまで強かったなんて……!

「さあ、ミリア様。まろと一緒に来てもらうでおじゃるよ」

◇◇◇

 清白蓮華を入手して、やっとシアの洞穴から出てこれました。
 それにしてもやけに外が騒がしいです。

 『助けて……』

 ミリアさんの声!? この近く!? 崖の方から!?
 理由は分かりませんが向かうしかありません! 自分は急いで崖へと向かいました!


「ミリアさん!」
「ラルフル!?」
「むぅ? 邪魔者でおじゃるか?」

 向かった先で待っていたのは剣を抜いた小太りの男とその手下と思われる人が五人。倒れた門番さんとそれを解放するミリアさん。
 どういう状況かははっきりとは分かりません。ですが、これだけは分かります……!

「ミリアさんから離れてください……! さもなければ、自分があなた達を倒します……!」

 この人達は……自分の敵です!!

「ラルフルという名でおじゃったな? そうか。お主がボーネス公爵が言っていたミリア様の"急所"でおじゃるか」
「何を言ってるのか分かりません。あなたの目的も分かりません。ですが、ミリアさんと門番さんを傷つけるのなら容赦はしません!」
「小癪でおじゃ……。者ども! やってしまうでおじゃ!」

 小太りの男の手下が自分にけしかけられました。剣や槍など各々の武器で襲ってきますが、不思議と怖くありません。
 ミリアさんを襲われた怒りか、これまでの修行の成果か。今の自分ならこの五人を倒せる自信がありました。

◇◇◇

「つ……強い……」

 ラルフルが武闘家に転向したことは聞いていた。ゼロラさんに稽古をつけてもらったことも聞いていた。でもこんなに強くなっていたとは思わなかった。武器を持った五人の手下相手に対等以上に渡り合っている。
 アタシは嬉しかった。ラルフルが私を迎えに来た白馬の王子様のように見えた。

「ふむ……。思ったよりやるでおじゃるな」

 私が驚いているとオジャル伯爵が再び剣を構えた。刃先はラルフルに向けられていた。

「ダ、ダメェエエ! 逃げてぇえええ!!」

 アタシの声に反応したラルフルがこちらに振り向いた。
 ……でも、遅かった。

 ザシャアアア!!

「あぐぅ!? う……あぁ……!?」

 ラルフルは胸元を大きく斬られておびただしい量の血を流しながらその場に倒れこんでしまった。

「そやつを崖下に放り投げるでおじゃ」

 ラルフルの体はオジャル伯爵の手下によって崖に投げ落とされた。


 悪夢。これは悪夢に違いない。アタシの一番大切な人は、アタシのせいで目の前で殺されてしまった。
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