記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第9章 激突・ギャングレオ盗賊団

第124話 対決・ギャングレオ盗賊団頭領④

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「……どういうこっちゃ?」

 疑問形でシシバは俺に尋ねるが、顔の眉は吊り上がっていた。

 シシバ最大の弱点は"隻眼である"こと。
 トンファーを左手に装備していたのは"目がない左半身を守る"ことを優先したため。そして直線的な攻撃ばかりし、<鬼勁>という近接特化技があるにも関わらずアウトサイドスタイルを変えなかった最大の理由――

「てめぇ、"距離感がつかめてない"んだろ?」
「!!? ……とうとう気付かれてもうたか」

 こいつの圧倒的な身体能力に驚かされて今まで重大なことを見逃していた。シシバは"隻眼"だ。
 人間、片方の目がないと距離感がうまくつかめなくなる。だからシシバは距離に関係ないよう攻撃を直線的にし、近接戦闘が長く続かないようにアウトサイドで攻めるしかなかったのだ。打たれ弱いシシバにとってはトンファーによるガードと<鬼勁>による攻撃のメリットを合わせても、"距離感を誤って相手の攻撃を食らってしまう可能性が大幅に上がる"デメリットの方が勝ってしまったようだ。

「あ~あ……。手品のタネがバレてもうた、ってとこか」
「なら降参するか?」
「キシシシ! それはありえへんな~!」

 そうだろうと思った。

「せやけど……こないなってくると、もう下手な小細工はいらんみたいやな」

 そう言うとシシバは両手をダラリと下げて、全身を脱力させる。

「遊びはしまいや。"隻眼"の俺にできる最大限の攻撃で止めを刺したる……!」

 シュゥウウン……!

 シシバが止めのために最後の超高速移動状態に入る。……いや、これは……!?

 シュゥウン! ガンッ! シュゥウン! ガンッ! シュゥウン! ガンッ!

「こ、こいつ……さっきからどこを狙ってやがるんだ!?」

 シシバが攻撃した先にあるのは部屋の壁。衝撃音から壁を蹴り飛ばしながら移動していることは分かる。
 だがそのスピードは今まで以上だ! もはや俺の目では追えない……いや、目に映らない!?

「なるほど。相手の場所なんて関係なしの無差別攻撃か……!」

 シシバに俺の声が届いているのかいないのか。いずれにせよ、今までのように俺の反応を見ることも答えることもしない。
 おそらく当の本人にも何が目の前にあるのかなんてよく見えてない! 本当に遊びを終わりにし、全力で止めを刺しに来たか!

 シュゥウン! ガンッ! シュゥウン! ガンッ! シュゥウン! ガンッ!

 シシバの姿は見えないが、音で少しずつ俺に狙いが定まってきていることは分かる。時折地面を曲がるときの砂ぼこりが確認できる。さっきまでのように直線的な動きだけではない! 完全に予測不能!

「こうなりゃ耐えきってみせるか……!」

 俺は全身に力を入れて<鉄の防御>を張り巡らせる。足から地面に根を張るように踏ん張る体勢をとる。

 シュゥウ……!

 音が近づいてくる! 一瞬。わずかに一瞬だけだったが、シシバが俺の額目がけてトンファーを振り払っているのが見えた。
 そして……!

 バキィイイイン!

 トンファーの方が折れた。

「はぁああぁああぁあ!!?? うっそやろ!? これ一応鋼でできとるんやで!?」

 トンファーが折れたことに驚愕するシシバ。だがそれで終わるまいと残っていたトンファーの持ち手を俺に投げつけ――

「き、<凶眼>!!」

 <凶眼>を発動させる。今回は完全に目を見てしまったので再び炎の幻覚が揺らめく世界に陥る。トンファーの持ち手が俺の顔面に当たり、視界も最悪だが、すでにシシバとの距離は詰まっている! どこにいるのかの検討はついている!

「ゼロラァアア!!」

 シシバもこの状況では回避は不能と判断したのか、左足の回し蹴りで俺を狙うのがわずかに見える!

「シシバァアア!!」

 俺はシシバに渾身の右ストレートを放つ!

 ドキャァアア……!

「ア……ガ……!?」
「……決着だ」

 決まったのは俺の拳だった。シシバの回し蹴りは俺を捉えきれずに空を蹴り、俺の右拳がシシバの頬に完全に入っていた。
 <凶眼>による幻覚が解けると、俺は目の前で倒れているシシバをはっきりと確認することができた。

「ほ、ホンマに……ごっ……つい……なぁ……」

 長く激しい戦いだったが、俺はシシバに勝利できた。
 俺は倒れたシシバに手を差し伸べながら言った。

「いい勝負だった。だが、約束は守ってもらうぜ?」

 シシバは俺の手を取って立ち上がりながら言った。

「ああ、約束は守ったる。ガルペラ侯爵との協定の件も……ギャングレオ盗賊団の"元締め"についてもな」

 シシバは「後は酒でも飲みながらゆっくり話そう」と言い、俺を自室へと案内してくれた。
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