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第13章 王国が変わる日
第177話 暴虎、始動
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"円卓会議"での騒動の後、ボーネス公爵はジャコウと共に自身の屋敷で話し合っていた。
「ボーネス公爵……。今回の事態で傘下の貴族達も離反を始めています……。このままでは――」
「分かっておる! おのれ……! それこれも、元を正せばゼロラとかいう男のせいだ!!」
ゼロラによって決定的となった"円卓会議"の流れ、ガルペラ侯爵一派の王宮からの脱出成功、傘下の貴族の離反。
そしてゼロラの言葉により、今まで傀儡でしかなかった国王が立ち上がったこと。
ボーネス公爵が思う通り、ゼロラさえいなければここまで不利な事態には陥らなかった。
「そのゼロラは今どうしておる?」
「逃走の際、勇者レイキース様に深手を負わされたそうでございます。お、おそらく今頃死んだものかと――」
「そんな悠長なことを言ってる場合か!!」
ジャコウの発言に机を叩きながら激昂するボーネス公爵。
ゼロラの傍にはバクトとミリアがいる。聖女であるミリアの回復魔法はもちろんのこと、バクトが身に着けている医学があれば、一命をとりとめる可能性がある。
ゼロラによって度重なる苦汁を舐めさせられてきたボーネス公爵にとって、最早絶対と呼べない限り安心できる状況などなかった。
「レーコ公爵にしてもだ。あやつは最近屋敷に籠りっぱなしという話ではないか」
「レイキース様達の行動の責任を陛下に問われたと聞いておりますが……」
レーコ公爵は"円卓会議"での一件で、勇者パーティーを独断で動かした責任を国王に問われていた。
特にゼロラをレイキースが刺した件については国王に激怒された。
今までのレーコ公爵なら国王の話を聞き流し、抑え込むこともできたが、ボーネス公爵と同様に参加の貴族が離反し始めているレーコ公爵とこれまでにない国王を気迫に押されてそれもできなくなってしまった。
何よりレーコ公爵はあの件以降、何かに怯えている。うわ言の様に『フレイムが動いた。フロストに殺される』と時折ブツブツつぶやきながら、屋敷に籠って守りを固め、姿を現していない。
「レーコ公爵はフロストと何か訳アリのようだ。だが、まさかあの場にフレイムまで出てくるとは……」
「しかも、ゼロラ達の脱出をサポートするような行動に出ておりましたじゃ」
元ルクガイア王国騎士団二番隊隊士、フレイムのことはボーネス公爵達も知っている。
人並外れた巨漢を持ち、まともな言葉を話せないがためにかつては周囲から差別され、二番隊解体の際にはその体に火をつけて焼き殺されそうになったこともあった。
だが、最近になって兄フロストの手により、全身を鉄の体へと変えて生き延びていたことが判明していた。
元より"王国の魔人兵士"と称されていたフレイムだったが、ゼロラ達の脱出をサポートしに現れた際には空を飛ぶ能力に、口から砲撃を放つ能力まで備えており、その力は完全に人を超越した存在となっていた。
レイキースやゼロラとも次元の異なる【王国最強】とも呼べるほどの存在へと――
「<魔王の闇>の研究はどうだ? 魔王城から溢れているという黒い霧は使えそうか?」
「はい。あの黒い霧を解析したところ、我々が知る<魔王の闇>とは似て非なる物でした。じゃが、あれを使えば<絶対王権>と同じ力を再現できそうですじゃ」
「ほう……! それは朗報だな」
ジャコウの報告を聞いて気をよくするボーネス公爵。
もしも<絶対王権>と同程度の力を手に入れられれば、この窮地でさえも脱することができる。
「だがあの黒い霧もいつまで魔王城から出てくれるか分からぬ。最近では勇者パーティーが魔王城に調査に行くという話も出ておる。今は守りを優先したいレーコ公爵によって止められてはいるが、それでも時期にレイキース達は魔王城へ向かうだろう」
魔王城の黒い霧は徐々に範囲を拡大している。このままでは危険と感じた国王は勇者パーティーを魔王城の調査に向かわせる準備をしている。
「ガルペラ侯爵一派も今はなりを潜めているが、いつまた動き出すかは分からない。だからこそ、お主の部下である【虎殺しの暴虎】を使って早急にわしらも動く必要がある」
そう言ってボーネス公爵は部屋の隅で椅子に座っている一人の人物に目をやった。
全身に黒いローブを纏い、フードで顔を完全に隠してこれまでの話に割り込まない不気味な人影。
目の前に置かれたコーヒーにも一切口を付けずにただただ黙って聞いているだけの人物。
「本当に信用できるのか? "円卓会議"の時にも前線の場にいながら、まるで連中を止めようとしていなかったそうではないか?」
「この者はかなり気難しい奴でして……。じゃが、腕は確かでございます。この【虎殺しの暴虎】はわしが率いております"ルクガイア暗部"において間違いなく最強の実力者。わしの見立てでは黒蛇部隊のジフウ、ギャングレオ盗賊団のシシバ、そしてあのゼロラ以上の手練れかと」
ボーネス公爵の疑心にジャコウがフォローを入れる。
【虎殺しの暴虎】と呼ばれた人物はそんな話もまるで意に介さずに黙り続けている。
「ご安心下され。こやつは腕は立ちますが、あくまでわしの忠実な僕ですじゃ。元々こやつは大罪人。わしの手の中にいなければ、今頃死んでおった身ですじゃ。イヒヒヒ」
ジャコウの恩着せがましい話にも【虎殺しの暴虎】はまるで反応しない。
「……まあよいわ。今は藁にもすがる思いだ。こやつは引き続き、ガルペラ一派に潜り込ませておけ。いざという時に内側から破壊工作を仕掛けるためにもな」
「かしこまりました、ボーネス公爵。――聞いておったな? 貴様は任務に戻れ。何かあればまたわしから連絡する」
ボーネス公爵とジャコウの話を聞いた【虎殺しの暴虎】はゆっくり席を立つと、何もしゃべらずに部屋を出ていった。
「ボーネス公爵……。今回の事態で傘下の貴族達も離反を始めています……。このままでは――」
「分かっておる! おのれ……! それこれも、元を正せばゼロラとかいう男のせいだ!!」
ゼロラによって決定的となった"円卓会議"の流れ、ガルペラ侯爵一派の王宮からの脱出成功、傘下の貴族の離反。
そしてゼロラの言葉により、今まで傀儡でしかなかった国王が立ち上がったこと。
ボーネス公爵が思う通り、ゼロラさえいなければここまで不利な事態には陥らなかった。
「そのゼロラは今どうしておる?」
「逃走の際、勇者レイキース様に深手を負わされたそうでございます。お、おそらく今頃死んだものかと――」
「そんな悠長なことを言ってる場合か!!」
ジャコウの発言に机を叩きながら激昂するボーネス公爵。
ゼロラの傍にはバクトとミリアがいる。聖女であるミリアの回復魔法はもちろんのこと、バクトが身に着けている医学があれば、一命をとりとめる可能性がある。
ゼロラによって度重なる苦汁を舐めさせられてきたボーネス公爵にとって、最早絶対と呼べない限り安心できる状況などなかった。
「レーコ公爵にしてもだ。あやつは最近屋敷に籠りっぱなしという話ではないか」
「レイキース様達の行動の責任を陛下に問われたと聞いておりますが……」
レーコ公爵は"円卓会議"での一件で、勇者パーティーを独断で動かした責任を国王に問われていた。
特にゼロラをレイキースが刺した件については国王に激怒された。
今までのレーコ公爵なら国王の話を聞き流し、抑え込むこともできたが、ボーネス公爵と同様に参加の貴族が離反し始めているレーコ公爵とこれまでにない国王を気迫に押されてそれもできなくなってしまった。
何よりレーコ公爵はあの件以降、何かに怯えている。うわ言の様に『フレイムが動いた。フロストに殺される』と時折ブツブツつぶやきながら、屋敷に籠って守りを固め、姿を現していない。
「レーコ公爵はフロストと何か訳アリのようだ。だが、まさかあの場にフレイムまで出てくるとは……」
「しかも、ゼロラ達の脱出をサポートするような行動に出ておりましたじゃ」
元ルクガイア王国騎士団二番隊隊士、フレイムのことはボーネス公爵達も知っている。
人並外れた巨漢を持ち、まともな言葉を話せないがためにかつては周囲から差別され、二番隊解体の際にはその体に火をつけて焼き殺されそうになったこともあった。
だが、最近になって兄フロストの手により、全身を鉄の体へと変えて生き延びていたことが判明していた。
元より"王国の魔人兵士"と称されていたフレイムだったが、ゼロラ達の脱出をサポートしに現れた際には空を飛ぶ能力に、口から砲撃を放つ能力まで備えており、その力は完全に人を超越した存在となっていた。
レイキースやゼロラとも次元の異なる【王国最強】とも呼べるほどの存在へと――
「<魔王の闇>の研究はどうだ? 魔王城から溢れているという黒い霧は使えそうか?」
「はい。あの黒い霧を解析したところ、我々が知る<魔王の闇>とは似て非なる物でした。じゃが、あれを使えば<絶対王権>と同じ力を再現できそうですじゃ」
「ほう……! それは朗報だな」
ジャコウの報告を聞いて気をよくするボーネス公爵。
もしも<絶対王権>と同程度の力を手に入れられれば、この窮地でさえも脱することができる。
「だがあの黒い霧もいつまで魔王城から出てくれるか分からぬ。最近では勇者パーティーが魔王城に調査に行くという話も出ておる。今は守りを優先したいレーコ公爵によって止められてはいるが、それでも時期にレイキース達は魔王城へ向かうだろう」
魔王城の黒い霧は徐々に範囲を拡大している。このままでは危険と感じた国王は勇者パーティーを魔王城の調査に向かわせる準備をしている。
「ガルペラ侯爵一派も今はなりを潜めているが、いつまた動き出すかは分からない。だからこそ、お主の部下である【虎殺しの暴虎】を使って早急にわしらも動く必要がある」
そう言ってボーネス公爵は部屋の隅で椅子に座っている一人の人物に目をやった。
全身に黒いローブを纏い、フードで顔を完全に隠してこれまでの話に割り込まない不気味な人影。
目の前に置かれたコーヒーにも一切口を付けずにただただ黙って聞いているだけの人物。
「本当に信用できるのか? "円卓会議"の時にも前線の場にいながら、まるで連中を止めようとしていなかったそうではないか?」
「この者はかなり気難しい奴でして……。じゃが、腕は確かでございます。この【虎殺しの暴虎】はわしが率いております"ルクガイア暗部"において間違いなく最強の実力者。わしの見立てでは黒蛇部隊のジフウ、ギャングレオ盗賊団のシシバ、そしてあのゼロラ以上の手練れかと」
ボーネス公爵の疑心にジャコウがフォローを入れる。
【虎殺しの暴虎】と呼ばれた人物はそんな話もまるで意に介さずに黙り続けている。
「ご安心下され。こやつは腕は立ちますが、あくまでわしの忠実な僕ですじゃ。元々こやつは大罪人。わしの手の中にいなければ、今頃死んでおった身ですじゃ。イヒヒヒ」
ジャコウの恩着せがましい話にも【虎殺しの暴虎】はまるで反応しない。
「……まあよいわ。今は藁にもすがる思いだ。こやつは引き続き、ガルペラ一派に潜り込ませておけ。いざという時に内側から破壊工作を仕掛けるためにもな」
「かしこまりました、ボーネス公爵。――聞いておったな? 貴様は任務に戻れ。何かあればまたわしから連絡する」
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