記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
232 / 476
第17章 追憶の番人『公』

第232話 聖女と公爵

しおりを挟む
「ゼロラさんが作ったたこ焼き、おいしかったですね。ミリアさん」
「ええ、そうね。ゼロラさんが料理をできたなんて意外ね……」

 アタシとラルフルはゼロラさんが残していったたこ焼きをつまんだ後、宿場村の周りを少し散歩していた。
 これから王国騎士団との戦いも始まる。息抜きはできる間にしておいた方がいい。

「ミリアさん、ゼロラさんにお料理で負けちゃいまし――」
「な・に・が・い・い・た・い・の・か・し・ら?」

 ラルフルが余計なことを口にしようとしたので、思いっきりすごんで黙らせる。
 以前のように返されないように、徹底的に顔を近づけて思いっきり怖くして。
 流石にラルフルも怖気づいたようでこれ以上その話はしなくなった。

 ――アタシだって気にしてるんだから……。



「お? ラルフルにミリア様やないけえ? 二人してデートかいな? ホンマ仲良しやな~」
「あ! シシバさん! お疲れ様です!」

 アタシがラルフルと話していると、前の方からギャングレオ盗賊団頭領のシシバが歩いてきた。
 この人ってウォウサカの訛りが強いけど、意外と礼儀をわきまえてるのか、アタシのことは『様』付けで呼ぶのよね。
 やっぱりアタシが曲がりなりにも聖女だからかしら?

「シシバ。アンタは魔幻塔の監視をしてなくていいの?」
「そもそも魔幻塔を監視しとったのはリョウがおったからや。リョウがおらへん魔幻塔なんて、監視しとっても大して意味あらへん。今はコゴーダとサイバラの幹部二人に適当な部下くっつけとるだけや。同じように目ぇ光らせとった黒蛇部隊も、ジフウの兄貴が出払っとることが多いみたいやしな」

 確かにリョウ大神官がいなければ、ジフウ隊長とシシバの兄弟が魔幻塔の監視をする理由なんてほとんどないわね。
 リョウ大神官も結構いい家族に恵まれてるわよね……。

「なんだかリョウ大神官が羨ましいわ……。心配してくれる家族がいて……」

 アタシはふとそんなことを思った。
 アタシは天涯孤独の身だ。両親の顔も知らず、気が付けばスタアラ魔法聖堂に孤児として引き取られていた。
 その後はアタシの内に眠っていた回復魔法の才能が開花し、あれよあれよと聖女へと祀り上げられていった。
 周囲に心配されながらも、ただのマスコットとなる存在に――

 家族か……。アタシもやっぱりそんな肉親が欲しいな~……。

「大丈夫ですよ、ミリアさん! 今のミリアさんには自分がいます! それにお姉ちゃん達だっていますから!」

 そんなアタシの気持ちを察してラルフルが声をかけてくれた。
 そうよね。今のアタシには幼い頃から一緒だったラルフルを始め、多くの人達が傍にいる。
 心から信頼できる仲間……。
 そんな人達がいるから、アタシは孤独な思いをせずに済んでいる――





「ミリア様。あんさんは、もし"家族に会えるなら会いたい"……とは、思うとりまへんか?」

 ――そんなアタシの気持ちに押し入るように口を挟んできたのはシシバだった。

 そういえば王宮脱出の時もシシバは何か気になることを言っていた気がする。
 あの時は急な事態で気が動転していたから詳しく思い出せないが――

 ――この男はまさか……アタシの家族のことを知っている……?



「シシバ。お喋りが過ぎるぞ。貴様はこの俺との約束を忘れたのか?」
「うげ~……バクトはんかいな……。折角都合よう話せるチャンスやと思うとったのに……」

 アタシがシシバに話を聞こうと思っていたら、バクト公爵が割り込んできた。
 この人はギャングレオ盗賊団の元締め。シシバもどうやらバクト公爵の命令には逆らえないようで、黙ってしまった。

「スタアラの小娘。お前は今シシバが話していたことを忘れろ。いいな?」

 バクト公爵はアタシを小馬鹿にしながら、釘を刺すように言ってきた。

「ラルフル。貴様がどうするかは貴様の勝手だが、そこの小娘のことを思うなら貴様も口を挟むんじゃない。いいな?」
「は、はい……分かりました……」

 さらにバクト公爵はラルフルにも荒い口調で釘を刺してきた。

 でもその台詞は、どこかアタシの身を案じるような――

「シシバ。俺と一緒に来い。貴様にこれ以上ベラベラ喋られるわけにはいかないからな」
「へいへ~い。分かっとりますがな……」

 バクト公爵はシシバを連れて早々に去って行ってしまった。
 気になる……。バクト公爵はシシバが何かを話そうとしていたのを見て、明らかに止めていた。
 バクト公爵とシシバ。あの二人はアタシの家族について何かを知っている……?

「あの……ミリアさん。自分、あの二人を少しつけてみようと思います」

 アタシの気持ちを汲んでくれたのか、ラルフルはバクト公爵とシシバの後をつけることを提案してくれた。

「大丈夫? そもそもあの二人はギャングレオ盗賊団の人間。下手したら何をされるか――」
「大丈夫です。自分も……ミリアさんの家族について知りたいですから」

 ラルフルは力強い眼差しでアタシを見つめてくる。
 ラルフルは目の前で家族を失った身だ。
 きっと、アタシにも家族がいるなら会ってほしいという気持ちが強いのだろう。

 ――甘えよう。今は過去を乗り越えて強くなった、アタシの大切な恋人に。

「分かった、お願いするわ。でも、無理だけはしないでね?」
「分かりました。少し行ってきます」

 バクト公爵とシシバにバレないように後をつけるラルフルを見ながら、アタシは不安と期待を胸に抱き続けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...