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第17章 追憶の番人『公』
第232話 聖女と公爵
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「ゼロラさんが作ったたこ焼き、おいしかったですね。ミリアさん」
「ええ、そうね。ゼロラさんが料理をできたなんて意外ね……」
アタシとラルフルはゼロラさんが残していったたこ焼きをつまんだ後、宿場村の周りを少し散歩していた。
これから王国騎士団との戦いも始まる。息抜きはできる間にしておいた方がいい。
「ミリアさん、ゼロラさんにお料理で負けちゃいまし――」
「な・に・が・い・い・た・い・の・か・し・ら?」
ラルフルが余計なことを口にしようとしたので、思いっきりすごんで黙らせる。
以前のように返されないように、徹底的に顔を近づけて思いっきり怖くして。
流石にラルフルも怖気づいたようでこれ以上その話はしなくなった。
――アタシだって気にしてるんだから……。
「お? ラルフルにミリア様やないけえ? 二人してデートかいな? ホンマ仲良しやな~」
「あ! シシバさん! お疲れ様です!」
アタシがラルフルと話していると、前の方からギャングレオ盗賊団頭領のシシバが歩いてきた。
この人ってウォウサカの訛りが強いけど、意外と礼儀をわきまえてるのか、アタシのことは『様』付けで呼ぶのよね。
やっぱりアタシが曲がりなりにも聖女だからかしら?
「シシバ。アンタは魔幻塔の監視をしてなくていいの?」
「そもそも魔幻塔を監視しとったのはリョウがおったからや。リョウがおらへん魔幻塔なんて、監視しとっても大して意味あらへん。今はコゴーダとサイバラの幹部二人に適当な部下くっつけとるだけや。同じように目ぇ光らせとった黒蛇部隊も、ジフウの兄貴が出払っとることが多いみたいやしな」
確かにリョウ大神官がいなければ、ジフウ隊長とシシバの兄弟が魔幻塔の監視をする理由なんてほとんどないわね。
リョウ大神官も結構いい家族に恵まれてるわよね……。
「なんだかリョウ大神官が羨ましいわ……。心配してくれる家族がいて……」
アタシはふとそんなことを思った。
アタシは天涯孤独の身だ。両親の顔も知らず、気が付けばスタアラ魔法聖堂に孤児として引き取られていた。
その後はアタシの内に眠っていた回復魔法の才能が開花し、あれよあれよと聖女へと祀り上げられていった。
周囲に心配されながらも、ただのマスコットとなる存在に――
家族か……。アタシもやっぱりそんな肉親が欲しいな~……。
「大丈夫ですよ、ミリアさん! 今のミリアさんには自分がいます! それにお姉ちゃん達だっていますから!」
そんなアタシの気持ちを察してラルフルが声をかけてくれた。
そうよね。今のアタシには幼い頃から一緒だったラルフルを始め、多くの人達が傍にいる。
心から信頼できる仲間……。
そんな人達がいるから、アタシは孤独な思いをせずに済んでいる――
「ミリア様。あんさんは、もし"家族に会えるなら会いたい"……とは、思うとりまへんか?」
――そんなアタシの気持ちに押し入るように口を挟んできたのはシシバだった。
そういえば王宮脱出の時もシシバは何か気になることを言っていた気がする。
あの時は急な事態で気が動転していたから詳しく思い出せないが――
――この男はまさか……アタシの家族のことを知っている……?
「シシバ。お喋りが過ぎるぞ。貴様はこの俺との約束を忘れたのか?」
「うげ~……バクトはんかいな……。折角都合よう話せるチャンスやと思うとったのに……」
アタシがシシバに話を聞こうと思っていたら、バクト公爵が割り込んできた。
この人はギャングレオ盗賊団の元締め。シシバもどうやらバクト公爵の命令には逆らえないようで、黙ってしまった。
「スタアラの小娘。お前は今シシバが話していたことを忘れろ。いいな?」
バクト公爵はアタシを小馬鹿にしながら、釘を刺すように言ってきた。
「ラルフル。貴様がどうするかは貴様の勝手だが、そこの小娘のことを思うなら貴様も口を挟むんじゃない。いいな?」
「は、はい……分かりました……」
さらにバクト公爵はラルフルにも荒い口調で釘を刺してきた。
でもその台詞は、どこかアタシの身を案じるような――
「シシバ。俺と一緒に来い。貴様にこれ以上ベラベラ喋られるわけにはいかないからな」
「へいへ~い。分かっとりますがな……」
バクト公爵はシシバを連れて早々に去って行ってしまった。
気になる……。バクト公爵はシシバが何かを話そうとしていたのを見て、明らかに止めていた。
バクト公爵とシシバ。あの二人はアタシの家族について何かを知っている……?
「あの……ミリアさん。自分、あの二人を少しつけてみようと思います」
アタシの気持ちを汲んでくれたのか、ラルフルはバクト公爵とシシバの後をつけることを提案してくれた。
「大丈夫? そもそもあの二人はギャングレオ盗賊団の人間。下手したら何をされるか――」
「大丈夫です。自分も……ミリアさんの家族について知りたいですから」
ラルフルは力強い眼差しでアタシを見つめてくる。
ラルフルは目の前で家族を失った身だ。
きっと、アタシにも家族がいるなら会ってほしいという気持ちが強いのだろう。
――甘えよう。今は過去を乗り越えて強くなった、アタシの大切な恋人に。
「分かった、お願いするわ。でも、無理だけはしないでね?」
「分かりました。少し行ってきます」
バクト公爵とシシバにバレないように後をつけるラルフルを見ながら、アタシは不安と期待を胸に抱き続けた。
「ええ、そうね。ゼロラさんが料理をできたなんて意外ね……」
アタシとラルフルはゼロラさんが残していったたこ焼きをつまんだ後、宿場村の周りを少し散歩していた。
これから王国騎士団との戦いも始まる。息抜きはできる間にしておいた方がいい。
「ミリアさん、ゼロラさんにお料理で負けちゃいまし――」
「な・に・が・い・い・た・い・の・か・し・ら?」
ラルフルが余計なことを口にしようとしたので、思いっきりすごんで黙らせる。
以前のように返されないように、徹底的に顔を近づけて思いっきり怖くして。
流石にラルフルも怖気づいたようでこれ以上その話はしなくなった。
――アタシだって気にしてるんだから……。
「お? ラルフルにミリア様やないけえ? 二人してデートかいな? ホンマ仲良しやな~」
「あ! シシバさん! お疲れ様です!」
アタシがラルフルと話していると、前の方からギャングレオ盗賊団頭領のシシバが歩いてきた。
この人ってウォウサカの訛りが強いけど、意外と礼儀をわきまえてるのか、アタシのことは『様』付けで呼ぶのよね。
やっぱりアタシが曲がりなりにも聖女だからかしら?
「シシバ。アンタは魔幻塔の監視をしてなくていいの?」
「そもそも魔幻塔を監視しとったのはリョウがおったからや。リョウがおらへん魔幻塔なんて、監視しとっても大して意味あらへん。今はコゴーダとサイバラの幹部二人に適当な部下くっつけとるだけや。同じように目ぇ光らせとった黒蛇部隊も、ジフウの兄貴が出払っとることが多いみたいやしな」
確かにリョウ大神官がいなければ、ジフウ隊長とシシバの兄弟が魔幻塔の監視をする理由なんてほとんどないわね。
リョウ大神官も結構いい家族に恵まれてるわよね……。
「なんだかリョウ大神官が羨ましいわ……。心配してくれる家族がいて……」
アタシはふとそんなことを思った。
アタシは天涯孤独の身だ。両親の顔も知らず、気が付けばスタアラ魔法聖堂に孤児として引き取られていた。
その後はアタシの内に眠っていた回復魔法の才能が開花し、あれよあれよと聖女へと祀り上げられていった。
周囲に心配されながらも、ただのマスコットとなる存在に――
家族か……。アタシもやっぱりそんな肉親が欲しいな~……。
「大丈夫ですよ、ミリアさん! 今のミリアさんには自分がいます! それにお姉ちゃん達だっていますから!」
そんなアタシの気持ちを察してラルフルが声をかけてくれた。
そうよね。今のアタシには幼い頃から一緒だったラルフルを始め、多くの人達が傍にいる。
心から信頼できる仲間……。
そんな人達がいるから、アタシは孤独な思いをせずに済んでいる――
「ミリア様。あんさんは、もし"家族に会えるなら会いたい"……とは、思うとりまへんか?」
――そんなアタシの気持ちに押し入るように口を挟んできたのはシシバだった。
そういえば王宮脱出の時もシシバは何か気になることを言っていた気がする。
あの時は急な事態で気が動転していたから詳しく思い出せないが――
――この男はまさか……アタシの家族のことを知っている……?
「シシバ。お喋りが過ぎるぞ。貴様はこの俺との約束を忘れたのか?」
「うげ~……バクトはんかいな……。折角都合よう話せるチャンスやと思うとったのに……」
アタシがシシバに話を聞こうと思っていたら、バクト公爵が割り込んできた。
この人はギャングレオ盗賊団の元締め。シシバもどうやらバクト公爵の命令には逆らえないようで、黙ってしまった。
「スタアラの小娘。お前は今シシバが話していたことを忘れろ。いいな?」
バクト公爵はアタシを小馬鹿にしながら、釘を刺すように言ってきた。
「ラルフル。貴様がどうするかは貴様の勝手だが、そこの小娘のことを思うなら貴様も口を挟むんじゃない。いいな?」
「は、はい……分かりました……」
さらにバクト公爵はラルフルにも荒い口調で釘を刺してきた。
でもその台詞は、どこかアタシの身を案じるような――
「シシバ。俺と一緒に来い。貴様にこれ以上ベラベラ喋られるわけにはいかないからな」
「へいへ~い。分かっとりますがな……」
バクト公爵はシシバを連れて早々に去って行ってしまった。
気になる……。バクト公爵はシシバが何かを話そうとしていたのを見て、明らかに止めていた。
バクト公爵とシシバ。あの二人はアタシの家族について何かを知っている……?
「あの……ミリアさん。自分、あの二人を少しつけてみようと思います」
アタシの気持ちを汲んでくれたのか、ラルフルはバクト公爵とシシバの後をつけることを提案してくれた。
「大丈夫? そもそもあの二人はギャングレオ盗賊団の人間。下手したら何をされるか――」
「大丈夫です。自分も……ミリアさんの家族について知りたいですから」
ラルフルは力強い眼差しでアタシを見つめてくる。
ラルフルは目の前で家族を失った身だ。
きっと、アタシにも家族がいるなら会ってほしいという気持ちが強いのだろう。
――甘えよう。今は過去を乗り越えて強くなった、アタシの大切な恋人に。
「分かった、お願いするわ。でも、無理だけはしないでね?」
「分かりました。少し行ってきます」
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