記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第18章 光と闇の分岐点

第246話 ナイトメアハザード・対

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 ゼロラ達が王国との戦いのために戦備を整える一方、王宮・ルクガイア城でも少しずつ事態は動き始めていた。

「……すでに理解はしているであろう。【栄光の勇者】レイキースと賢者リフィー、戦士バルカウスの当代勇者パーティー三人を、魔王城の捜索に向かわせる」

 玉座に座り、座った目つきでルクガイア王国の国王・ルクベール三世は自らの足元にいる人物達を見下しながら、冷たい口調でそう述べた。

「ま、待ってください! 陛下! 今レイキース達に王都を離れられては――」
「己が身が怖いと申すか? レーコ公爵よ」

 国王の提案に激しく反論しようとするレーコ公爵だったが、その願いはあっけなく跳ねのけられる。

 ルクガイア王国の沖合にある魔王城から発せられる"黒い霧"。
 それがここ最近になって急激に拡大を始めており、今や一番近くにある港町ウォウサカさえも飲み込もうとし始めている。

「あの黒い霧は<ナイトメアハザード>という言葉を発しながら、飲み込んだ人間に"悪夢を見た感覚に襲わせる"のだったな? ジフウよ」
「はい。【伝説の魔王】がいなくなったとはいえ、その発生源は魔王城。ルクガイア王国へと近づいてきている以上、見過ごすわけにはいきません」

 国王の問いに、横で立って話を聞いていた黒蛇部隊隊長のジフウが答える。
 これまで王国側で完全に把握できていなかった黒い霧――<ナイトメアハザード>の動き。

「ボーネス公爵も問題ないな?」
「は、はい……」

 それはボーネス公爵と軍師ジャコウの画策によって、対処を遅らされていた事案だった。

 国王はこれまでとは違い、ボーネス公爵やレーコ公爵に対しても厳格な態度を崩さない。
 配下を見下す国王の横では、ジフウがいつでも<黒蛇の右>を放てるよう、すでに<蛇の予告>を済ませて右の拳を構えている。
 これまでボーネス公爵とレーコ公爵がそうしてきたように、今度は国王・ルクベール三世自らが力で配下を従えさせている。

 国王自身もこのような暴力的な行いが間違っていることは百も承知だ。
 それでも自らを含めたルクガイア王国の腐敗を一掃するためには、この手が一番だと考えた。

『国王自らが腐敗した政権の頂点に再び立ち、それをゼロラ達改革派に倒させる』

 それこそが長きに渡って続いたルクガイア王国の貴族優勢政権を打破し、新しい時代を開く活路であると考えていた。
 国王のその考えはジフウも承知の上だ。承知の上ではあるが、国王に忠誠を誓っているジフウとしては心が痛む。

 それでも国王が望むのならば、自らもその意志に従う。
 ジフウも覚悟を決めて"暴力的な忠臣"を演じていた。

「お、お願いします! レイキース達がいないと私の身が――」
「何度も言っておるであろう? この決定は覆らない。レイキース達にはすぐにでも魔王城へ向かって、<ナイトメアハザード>の根源を調べてきてもらう」

 レーコ公爵は必死に嘆願するも、その言葉を国王が聞き入れることはなかった。

 改革派へのドクター・フロストの協力。
 それがレーコ公爵にとって最大の恐怖であった。
 勇者レイキース達が自らの元を離れてしまえば、自身の命はフロストという復讐鬼に狙われる。
 レーコ公爵にも身に覚えのある話なので、自らの身を守るためにもレイキース達勇者パーティーの存在は必要不可欠だった。

 だが――

「レーコ公爵。王国騎士団団長である拙者としても、この<ナイトメアハザード>という事態を見過ごすわけにはいきませぬ。どうかご理解をお願いします」

 勇者パーティーの一人であり、王国騎士団長でもあるバルカウス。
 彼も国王の意志を汲み、王国騎士団を動かすようになってしまったのだ。
 バルカウスが個人で動かせる王国騎士団は少なく、今だその大半は腐敗した貴族の手中にある。
 とはいえ、それはバルカウスにとって大きな一歩だった。

 ラルフルから魔力を奪った件への決別と決着。
 あの日以降、バルカウスは魔法を捨てて再び剣術の道のみに専念するようになり、一介の戦士として、また一介の騎士団長として考えを改めるようになった。
 魔法こそ使えなくなったとはいえ、バルカウスの純粋な実力も気高さも、"魔法戦士"の時以上になっていた。

 もう、バルカウスの耳にレーコ公爵の甘言は届かない。
 周囲に配備された王国騎士団は、ジフウと同じように万一の事態に備えている。

「レーコ公爵、ご安心ください。僕達は必ずや<ナイトメアハザード>の元凶を絶ち、すぐにここへと戻ってきます」
「わたくし達がいない間、しばしお待ちください。レーコ公爵……」

 勇者レイキースと賢者リフィーも<ナイトメアハザード>の調査を優先することをレーコ公爵に提言する。
 この二人にとっては今尚レーコ公爵は強力なバックアップではあるが、勇者パーティーとしての使命がある以上、今は<ナイトメアハザード>への対策が優先だと考えた。

「ああ……。そ、そんな……」

 自らを守る盾を失うことに落胆するレーコ公爵。
 レイキース達はいなければ、レーコ公爵になす術はない。

「ぐぬぬぅ……!」

 ボーネス公爵もこの状況に歯を食いしばるしかなかった。

 国王の思惑についてはボーネス公爵もレーコ公爵も理解している。
 国王は自らを暴君とし、それを打倒させることでこれまでの過去を完全に払しょくさせようとしていることを――
 このままいけば、自分達貴族が築き上げてきた地位も名声も、全てが無駄となることを――





「ジャコウ! 例の研究はなんとかならぬのか!?」

 故にボーネス公爵は焦った。
 以前から進めていた<ナイトメアハザード>を利用したジャコウによる術の開発。
 完成すれば、<絶対王権>と同じように他者の意思さえも思うがままに操ることが可能と思われる禁術――

「い、今の状況でもとりあえず発動は可能ですじゃ。じゃが……まだ安定させられる保証は――」
「そんなものはどうでもよい! こうなった以上、悠長なことは言ってられぬ! すぐに術の発動準備をするのだ!」

 窮地に追い込まれたボーネス公爵は王国騎士団軍師のジャコウに術の発動を押し通すように命じた。

「か、かしこまりました……。では、リョウ大神官をすぐにこの魔幻塔へと呼び戻しましょう。わしがちょいとあの女の魔力に干渉して苦しめれば、すぐに戻ってくるでしょう」
「ああ、最早黒蛇部隊もギャングレオ盗賊団も無視して構わん! とにかく急げ!」

 こうしてリョウを生贄としたボーネス公爵とジャコウの計画が始まろうとしていた。





 新たなる<魔王の闇>の発現への計画が――
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