記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第24章 常なる陰が夢見た未来

第348話 魔王城走馬灯④

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 ユメの告白――
 それをジョウインが断る理由はなかった。
 ジョウインにとって、ユメの存在はそれほどまでとなっていた。

「ハッハッハッ。いやはや、ジョウイン公。本当にユメ様とご結婚なされました……な!」
「お前がユメの仲間達を追い払うために放った戯言が、現実になってしまうとはな」

 ジョウインはユメとの結婚のことをダンジェロに話のネタにされるが、悪い気はしていなかった。
 ジョウインとユメの間にできた絆は本物だ。
 それは魔王や勇者といった宿命さえも超えた、真の愛情――

 だから二人は自然と結婚することができたのだ。

「そうだ、ダンジェロ。お前に一つ、"魔王軍総大将"としての命令がある」
「ほうほう、"魔王軍総大将"として――ですか。小生になんなりとお申しつけを」
「今後、魔王軍は人間界への侵攻は行わない方針で行く。向かってくる人間界の軍勢だけ相手すればいい。そして代わりに、人間界との交流を始めようと思う」
「成程成程。その一件、小生が方々にお伝えいたしましょう。ただ、今までが今までだけに、時間はかかるでしょうな……」

 ジョウインはユメと共に"人と魔の共存"を目指すため、人間との交流を考え始めた。
 ただしそれはダンジェロも述べる通り、これまでの歴史を引っくり返す、苦難の道――
 それでもジョウインはなんとかして実現させようと考えていた。

「まずはこちらの軍備を縮小させよう。ルクガイア王国領内にある、"地底魔城"の戦力を撤収させるのだ」
「それついては、承知承知。して、撤収させた戦力は如何様に?」
「亜人隊に所属できる戦力は、そのまま亜人隊の方に回せ。隊長のオクバなら、我の意志を汲んで動いてくれる。残った戦力は一時魔王城に戻せ」
「御意御意。亜人隊のオクバ隊長にも申し付けておきます故」

 まず、ジョウインは魔王軍の軍備を縮小させ始めた。
 これまで戦うことしかできなかった種族にも、少しずつ自らがユメとの交流の中で得た生活の知識を使い、戦わずとも生きられる手段を提供していった。

 そんなジョウインの改革は、少しずつではあるが確実に魔王軍の中に浸透していった――





「ジョウインさん、改革の方は上手くいってますか?」
「ああ。まだまだ時間はかかりそうだが、行く行くは人間界とも交渉できるようにしたい」

 そんな忙しい毎日を過ごすようになったジョウインにとって、休息となるのは"家族との時間"だった。

「私が王都まで行けばよいのですが――」
「無理をするな、ユメ。お前にはこの子の面倒を見てもらいたい」
「ママー! パパー!」

 なんとか夫であるジョウインの力になろうとする妻ユメの腕の中には、小さな女の子が抱えられていた。
 【伝説の魔王】ジョウインを父に持ち、【慈愛の勇者】ユメを母に持つ女の子――



 名前は――"ミライ"。



 これからの"人と魔の共存"ができる未来を願い、二人はその子をそう名付けた。

「それにしてもこの子、人間なら赤ん坊のはずなのに、もう言葉も喋れて一人で走り回れるのですね」
「魔族の子ならこれぐらい当たり前だ。これでも幼いぐらいだ。我の"魔族の血"と、ユメの"人間の血"。双方が混ざり合っているからこそ、こういう成長を遂げたのだろう」

 二人の子であるミライはすくすくと成長していた。
 両親の愛情を精一杯に受け、魔王城の面々にも愛されながら健やかに育っていた。

「パパー! こんどはパパがだっこー!」
「分かった、ミライ。さあ、こっちに来なさい」
「本当にミライちゃんはお父さんが好きね。フフフッ」
「ママもすきー!」

 父ジョウイン、母ユメ、娘ミライ。
 三人で過ごす時間は幸せなものだった。

 そしてジョウインは願った――
 『このように種族を超えた暖かい関係が、世界に広がってほしい』――と。



「ジョウイン公、失礼するど。あっ。もしかして、おではお邪魔だったかど?」
「オクバか。気にするな。入っていいぞ」

 ジョウイン達親子三人の部屋には、魔王軍亜人隊隊長であるオークのオクバも訪れることがあった。
 特に用があるわけではないが、魔王軍の面々もこの部屋にやって来ることも多かった。

「オクバおじちゃん! まえばー! まえばー!」
「いでで!? ミライ様! おでの前歯を引っ張らないでほしいど! 後、おではオークの中では『おじちゃん』ってほどの年齢じゃないど!」

 ミライはオクバにも物怖じせず、その出っ歯を引っ張っていた。
 痛がるオクバだが、そんなミライのことが気になって、よくこの部屋にやって来ていた。

「前からずっと気になってたんだが、オクバよ。なんでお前は"オクバ"って名前なのに、そんなに特徴的な出っ歯の"マエバ"を持ってるんだ?」
「お、おでに聞かれても困るど、ジョウイン公……」
「フフフッ。ジョウインさんもお茶目ですね」

 魔王軍内部での垣根も少しずつ取り払われていた。
 これまでは【伝説の魔王】と呼ばれるジョウインに臆し、部下達もジョウインの前では緊張ばかりしていたが、ユメとの結婚を境にその空気も変わっていった。
 ユメという存在が――その優しさが、ジョウインだけでなく魔王軍そのものを変えていった。

「ハァ~、それにしてもおでは正直、ジョウイン公が羨ましいど。おでもユメ様みたいな綺麗な奥さんが欲しいど……」
「ふむ……。我も結婚してみて分かったが、こうして家族がいるというのも良いものだな」
「結婚は人間の女性でも一つのあこがれですよ。オクバさんにもいい相手がいればいいのですが――」

 そんな話の中で、ジョウインは考えた。
 オクバのように結婚を望む者がいるならば、それを仲人するのも悪くないと――

「オクバ。実は最近、エルフ族の娘の中に結婚を望む者がいる。お前さえよければ、我が紹介してやろう」
「ほ、本当ですど!? 是非お願いしますど!」

 こうしてジョウインは部下達とも気軽に接するようになり、その悩みにも応えるようになった。

 ユメと出会い、ミライが生まれたことで、変わっていったジョウイン。
 その自らの経験をもとに、配下の生活を支えつつ、"人と魔の共存"という改革を進めていった――
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