空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
27 / 465
魔女の誕生編

ep27 コソコソするしかないじゃん!

しおりを挟む
 タケゾーの家で夕飯をお呼ばれして以降も、アタシの私生活と空色の魔女としての活動の二足のわらじは続けている。
 とはいえ、その活動方針にも変化があった。

「空色の魔女は今日も姿を見せなかったのか?」
「はい。現場には不可解な痕跡があり、何かしら関与している可能性はあるのですが……」
「わずかに目撃情報もありますが、今までよりも素早く逃げられていまして……」

 これまでと違い、助けに入るための影響を最小限に抑えている。

 暴走する車を止めるために、遠くからナットやネジを使った人力コイルガンで狙撃。
 あるいは鉄パイプなどをトラクタービームで操り、見えない位置から犯人に打撃。
 どうしても近づく必要がある時は、パパッと格闘術で撃退して即撤退。

 ――はい。警察にビビってます。
 今もこうしてタケゾー父や警官の様子を遠くから伺ってるけど、やっぱり捕まるのは嫌だ。
 タケゾー父の話を聞いて以来、空色の魔女としての活動は大幅に縮小した。

「ネット上でも、なんだか叩かれちゃってるね~……」

 そんな空色の魔女のチキンな対応への変化を見て、世間と言うものは結構辛辣だ。
 これまでが派手だったせいもあり、一気に地味になった今の空色の魔女の様子に対して否定的な意見も増えてきた。
 アタシもSNSで確認してみるが『急にチキンになった』『これじゃ空色の魔女じゃなくて鶏の魔女』といった嘲笑するような投稿がちらほら。

「まっ。これ自体は仕方のない話かもね。アタシとしても、今は捕まらないのが優先だし」

 別に売名目的ではないため、そういう意見が増えて来てもまだ無視できる。
 とはいえ、全く心痛でないわけでもない。アタシだって、心の中で認められたいという思いはある。

 かといって、何か打開策があるのかって話。
 結局、アタシはコソコソとしたヒーロー活動を続けていく。





「空鳥さん。あなたはこのままでも、本当によろしいのですか?」
「それってどういう意味? 洗居さん?」

 そんなある日、清掃の仕事をしている最中に洗居さんからふと声をかけられた。
 本日はビルの窓清掃。誰かが聞き耳を立てることもない。
 そんな場所だからか、アタシの正体を知る洗居さんはその話題を振って来た。

「空色の魔女の件についてですが、最近はどうにも活動がコソコソしているせいか、ネット上での評判もよろしくありません」
「あぁ、それね。いやー……アタシもちょっと今は、警察に目をつけられてるみたいで……」
「やはり、警察関係のお方との軋みはあるようですね。ここは思い切って、正直に話してみても良いのでは?」
「それがそうもいかないんだよね。前線で警部やってるタケゾーの親父さんが言うには――」

 洗居さんはアタシの空色の魔女としての評判を気にかけてくれている。
 それはありがたいのだが、これはアタシ個人の問題だ。
 洗居さんにも軽く事情を説明して、アタシが置かれている状況を理解してもらう。

「――そのようなことがあったのですか。確かにそれならば、あまり目立つ行動もできませんね」
「そうでしょ~? そうでしょ~? アタシだって、仕方なくこういう形にしてるんだし」
「ですが、本当にそれで良いのかとも私は思います。空鳥さんが悪く言われている様子は、私としても快くありません。いくら売名目的でないとはいえ、何かしらの対策は必要でしょう」
「対策とは言ってもねぇ……」

 洗居さんも理解はしてくれたが、どこか不満げな様子だ。
 アタシのことを心配してくれるのは分かる。仕事以外の個人的な相談にまでのってくれるなんて、本当にいい上司だ。
 それでも、今のアタシにはどうしようもない。
 警察にアタシとあの巨大怪鳥が無関係であると証明できれば、まだ話の糸口は見えるのだろうが――



「では対策とは別に、相談相手を増やすというのはいかがでしょうか?」



 ――そうやってアタシが考え込んでいると、洗居さんが新たな提案をしてくれた。

「相談相手を増やすって……アタシが空色の魔女だってことを、他の人にも話すってこと?」
「その通りです。今は私以外に空鳥さんの正体を知る人もいませんが、他の親しいお方にも話すのです。これは清掃用務員の流儀になりますが、下手に隠し立てするよりは相談した方が楽にもなります」
「根本的な対策じゃなくて、気持ちの問題ってことか。うーん……でも、どうしたもんか……」

 洗居さんの言い分も分からなくはない。
 これまではアタシも、周囲に正体がバレてあれこれ言われそうなことに怯えていた。
 でも、警察も動いているとなると、そう悠長なことも言ってられないのかもしれない。

「不安になることもないと思われます。空鳥さんは別に、悪いことをしているのではありません。玉杉店長や幼馴染のタケゾーさんならば、きっとご理解してくれるでしょう」
「うーん……。確かにあの二人なら、信頼できるけど……」

 そんな今のアタシに必要なのは、理解してくれる相談相手なのかもしれない。
 玉杉さんはあのツラで中身はいい人だし、タケゾーは言わずもがなのお人好しだ。
 タケゾーに関しては心配してアタシに空色の魔女をやめさせそうだけど、そこはアタシもしっかり気持ちを伝えればいい。

 ――なんだかんだでタケゾーには頼ってばかりだけど、ここは今一度甘えさせてもらおう。



「ところで、空鳥さんが使っているその電動窓拭きブラシ、実に便利そうですね」
「え? ああ。アタシは洗居さんみたいにはいかないからね」



 とまあ、アタシの話題も出てきはしたが、今は仕事の最中だ。
 こちらはゴンドラに乗りながら、お手製の電動窓拭きブラシで窓を磨いている。
 お手製ポリッシャーの原理を応用し、窓拭き用に改良したものだ。
 しかも軽量改造型の二刀流。これなら素人のアタシでも、それなりの作業効率を維持できる。

「道具の面については、空鳥さんは流石ですね。私も尊敬します」
「いや、洗居さん程ではないと思うよ?」

 それでも、アタシの効率は洗居さんにはとても及ばない。
 だってこの人、根本的にとんでもないことしてるもん。



「洗居さん。そんなターザンみたいな方法で窓拭きして、危なくないの?」
「これが私にとっては一番効率的です。安全帯も装備していますし、問題はありません」



 洗居さんはさっきから、屋上に繋がれたロープで体を繋ぎ、地に足をつかずに窓拭きを続けている。
 しかもロープは屋上から何本か垂らされており、洗居さんは壁を走りながら別のロープへと移っている。
 その姿はさながら、森のターザンか蜘蛛の隣人ヒーローか。
 確かにあれならば左右への移動も素早い。安全帯のフックもしっかりと取り付けており、落ちる心配もない。

 ――効率も安全も両立してるのだろうが、こんな風にビルの窓拭きをする人は始めていた。

「アタシも魔女モードになればできるんだけど、流石にそれは無理だよねぇ……」

 通常状態のアタシでは、洗居さんのような方法での窓拭きは無理だ。
 てか、なんであの人は生身であんなことができるのよ? 前世はファンタジー世界でアサシンでもしてたんじゃない?
 そんな疑問さえ浮かぶアタシなど意に介さず、洗居さんはどんどんと窓から窓へロープを使って飛び移っていく。



 ――超一流の清掃用務員って、やべぇ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ
ファンタジー
「私の目標は、十七歳での完全リタイア。――それ以外はすべて『ノイズ』ですわ」 ブラックIT企業のネットワークエンジニア兼、ガチ投資家だった前世を持つ公爵令嬢リゼット。 彼女が転生したのは、十七歳の誕生日に「断罪」が待ち受ける乙女ゲームの世界だった。 「婚約破棄? 結構です。むしろ退職金(慰謝料)をいただけます?」 死を回避し、優雅な不労所得生活(FIRE)を手に入れるため、リゼットは前世の知識をフル稼働させる。 魔法を「論理回路」としてハックし、物理法則をデバッグ。 投資理論で王国の経済を掌握し、政治的リスクを徹底的にヘッジ。 ……はずだったのに。 面倒を避けるために効率化した魔法は「神業」と称えられ、 資産を守るために回避した戦争は「救国の奇跡」と呼ばれ、 気づけば「沈黙の賢者」として全国民から崇拝されるハメに!? さらには、攻略対象の王子からは「重すぎる信仰」を向けられ、 ライバルのはずのヒロインは「狂信的な弟子」へとジョブチェンジ。 世界という名のバックエンドをデバッグした結果、リゼットは「世界の管理者(創造主代行)」として、永遠のメンテナンス業務に強制就職(王妃確定)させられそうになっていて――!? 「勘弁して。私の有給休暇(隠居生活)はどこにあるのよ!!」 投資家令嬢リゼットによる、勘違いと爆速の隠居(できない)生活、ここに開幕!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未(ことぶき・あゆみ)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...