空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
36 / 465
魔女の誕生編

ep36 なんだか険悪な空気になっちゃった……。

しおりを挟む
「ふい~……。今日も一日、疲れたもんだ」

 清掃の仕事を抜け出し、オヤジ狩りも無事に撃退。
 その後も迷子の親探しをしてたら、すっかり陽が暮れてしまった。
 アタシだって超人パワーがあるとはいえ、れっきとした人間だ。疲れは溜まる。

「こういう時は、玉杉さんのところで一杯やろうかね! おっじゃましまーす!」

 そして、その疲れを癒すためには酒が一番だ。生体コイル用の燃料をチャージできれば、この疲れも吹っ飛ぶってもんよ。
 そんなわけで、意気揚々と扉を開けて店内へと入ったのだが――



「……来たか、空鳥。ちょっと話がある。そこに座れ」
「……はへぇ?」



 ――最初に目と耳に入って来たのは、テーブルに座るタケゾーのどこか怒った顔と声。
 他のお客さんはおらず、実質店はアタシ達知った人間同士の貸し切り状態。
 店員である玉杉さんと(例のごとく接客用のメイド服に着替えてる)洗居さんはカウンターの裏で、どこか申し訳なさそうにしている。

 ――これ、どういう状況?

「タ、タケゾー? そんなに怒って、どしたの?」
「いいからそこに座れ。俺からちょっと言いたいことがある」
「は、はい……」

 こんなタケゾーは始めて見るかもしれない。静かな怒りを秘めて、完全にお冠だ。
 これはアタシも従わざるを得ない。なんだか怖いので、案内された通り向かいの椅子に腰かける。

「空鳥さ? 最近、本当は何してるわけ?」
「へ? 何してるとはどういう意味で?」
「ここのところのお前の様子はどうにもおかしい。洗居さんとの仕事で忙しいだけかと思ったが、今日も急にどこかへ消えたんだって? あの巨大怪鳥が出た時も急に姿をくらましたし、本当に何をやってるんだ?」
「そ、それは……」

 そしてタケゾーから尋ねられるのは、アタシが空色の魔女として活動するために、何度も急にいなくなっていた件だ。アタシが清掃業務中にいなくなったことについてまで言及してくる。
 そーっと洗居さんの方に目を向けてみると『申し訳ございません。問い詰められて誤魔化しきれませんでした』といった、本当に申し訳なさそうなアイコンタクトを送ってくる。
 まあ、洗居さんを責めるのは違うよね。あの人、真面目過ぎるから問い詰められたら隠しきれる人じゃないもん。
 そもそもの話、これはアタシの問題だ。本来ならば、アタシが迷惑をかけずに説明するべきだ。

 ――とはいえ、流石に本当のことは言えない。

「い、いや~……。実は急に別件で呼び出されたりで――」
「いい加減にしろ! お前が何かを隠してるのは分かってるんだ! 素直に何をしてるのか、俺にも話してくれ!!」
「ひいぃ!?」

 なんとか誤魔化そうとはしてみるものの、タケゾーの怒号に遮られてしまう。
 これまで長い付き合いだったが、タケゾーがここまで怒りを露にするのは本当に初めてだ。
 アタシのことを心配してくれているのは分かる。それでも、限度があるのではないだろうか?

 ――アタシもちょっと腹が立ってきた。

「何さ! タケゾーはアタシの保護者か何か!? アタシにだって、話したくないことの一つや二つはあるよ!? そんなことまで、タケゾーに言わないといけないわけ!?」
「お前が隠しすぎてるし、自ら危険に飛び込みすぎるからだ! 俺は本当にお前のことが心配なだけなんだ! 何も危険な目に遭ってないのなら、素直に何をしているのかを話せ!」
「いつにも増してうるさい男だねぇ! そっちこそ、部屋にアタシの水着写真を飾ってたじゃんか!?」
「今そのことは関係ない! さあ! 俺の質問に答えてくれ! 空鳥ぃ!!」

 そんな苛立ちからか、思わずこちらも語気を強くして言い返してしまう。
 次第にヒートアップしてしまい、お互いに机から体を乗り出して叫び合う。
 タケゾーの秘密の写真のことも交えてみるが、それでもタケゾーが引く様子はない。
 これまでとは明らかに違い、意地でもアタシの秘密を探ろうとしてくる。本当にしつこい。鬱陶しさをも覚えてしまう。

「だったら、なんで……なんであんたはそんなにアタシのことばっかり気に掛けるんだい!? アタシなんて、タケゾーからしてみてもちょっと親しい幼馴染なだけじゃんか!?」
「それがどうこうじゃないんだ! 俺はただ、お前が危ない目に遭ってないか心配で――」
「本っっ当にしつこい男だね! もう知らない! タケゾーのバカァアア!!」

 もうアタシも限界だった。気がつけばタケゾーへの怒りが抑えられず、一人で店から飛び出していた。
 アタシのことが心配だって? もうお互いいい歳なのに、余計なお世話ってもんだよ。
 こっちだって、空色の魔女のことで色々と悩んでるんだ。教えられないことだってある。

 アタシの正体がタケゾーにも知れ渡れば、あいつも危険に晒される。
 どれだけ執拗に問い詰められようとも、タケゾーの身の安全には代えられない。
 アタシのせいでタケゾーの身に危険が迫るなんて、そんなことは耐えられない。



 ――アタシだって、タケゾーのことが心配なんだ。



「ひっく……えっぐ……! タケゾーの……バカァ……!」

 いつの間にかアタシは店を出た後、人のいない路地裏で泣きながら座り込んでいた。
 本当は分かってる。タケゾーだって、今のアタシと同じ気持ちのはずだ。
 タケゾーとアタシの立場が逆だったら、こっちだって問い詰めていたはずだ。
 それでも本当のことは言えない。言ってしまえば、これまでの決心が鈍ってしまう。



 ――本当はタケゾーにも話しておきたいけど、これ以上の心配をかけるのはもっと嫌だ。



「……やれやれ。おーい。隼ちゃんやーい? こんなところで泣いてたら、怪しまれるぞ~?」
「……はえ? 玉杉さん?」

 そうやって一人、乱れた心を抱えながら泣きじゃぐっていると、玉杉さんがしゃがみながらアタシの顔を覗き込んで来た。
 思えば、アタシも急に店を飛び出してしまったんだった。玉杉さんにまで迷惑をかけてしまった。

「ごめんね、玉杉さん……。アタシとタケゾーのせいで、迷惑かけちゃって……。店の方は大丈夫なの?」
「別に迷惑だとも思ってねえさ。店の方は洗居が見てくれてる。どうやら、あいつが迂闊に口を滑らせたのが原因らしくてな。隼ちゃんにも武蔵にも申し訳なさそうにしてたぞ」
「洗居さんは悪くないよ……。悪いのはタケゾーにちゃんと話ができない、アタシの方だから……」

 二十歳になったとはいえ、アタシもまだまだ子供のようだ。
 子供みたいに喧嘩して、玉杉さんや洗居さんにまで迷惑をかけている。

 タケゾーはまだ怒ってるのかな? 謝ったら許してくれるかな?
 本当のことは言えないけど、それでも分かってくれるかな?

 ――そんなのは全部、アタシのワガママだよね。

「……ハァ~。お前も武蔵も、本当に似たり寄ったりだな。あっちもあっちで『空鳥にきつく言い過ぎた。あいつが言いたくないことを、あそこまで問い詰めなくてもよかった』って、後悔してやがったぞ?」
「え? タケゾーが……?」
「ああ。武蔵も自分で言っててショックを受けたらしく、今日はもうそのまま帰ってったよ」

 アタシがまだ悩んでいると、玉杉さんがその後のタケゾーの様子を語ってくれた。
 なんでタケゾーが後悔してんの? 悪いのは逆ギレして、何も喋ろうとしないアタシだよね?

「俺は詳しい事情なんて知らねえし、こいつは二人の問題だ。だがよ、結局は隼ちゃんもタケゾーも、お互いのことを考えすぎてるってのは分かる。考えすぎてるから、意見がぶつかることだってある。隼ちゃんが何を言いづらいのかは知らねえが、十分に歩み寄って理解し合える範疇だとは思うぜ?」
「うん……そうだね。やっぱ、玉杉さんは人がいいね。顔は怖いのに、家庭を持つ人間は違うねぇ」
「別にそこまでいい人でもねえし、顔が怖い云々は余計だっての」

 玉杉さんの話を聞いていると、アタシもだいぶ落ち着いてきた。
 結局、アタシとタケゾーは似た者同士だ。だからこそ、ここまで幼馴染の関係が続いてきたのかもしれない。

 ――それでも、玉杉さんの言葉で少しだけ勇気が出てきた。
 やっぱり、このままは駄目だ。タケゾーも申し訳なく思ってるそうだけど、ここはアタシの方から謝りに行こう。

「ありがとね、玉杉さん。また今度、洗居さんにも謝罪に行くよ。でも、今はタケゾーの方を優先させてもらうね」
「ああ。洗居には俺からも説明してやるから、さっさと行ってこい」

 玉杉さんに一度頭を下げ、アタシはタケゾーの家へと走り出す。
 もう夜も遅いし、迷惑かもしれない。それでも、アタシはそうせずにはいられない。



 ――このままタケゾーとの関係にヒビが入ったままなんて、アタシは嫌だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...