空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
52 / 465
魔女の誕生編

ep52 今度こそ大切な人を救ってみせる!

しおりを挟む
「ほ、本当に逃げてくれ……! このままだと……俺はお前を殺して――」
「いいから黙ってなっての! アタシだって、愛してくれる男の一人や二人、見殺しにするほど腐ってないさ!」

 タケゾーはアタシになおも逃げるように促すが、こっちだって意地がある。
 空色の魔女へと再度変身すると、タケゾーの背後に回り込んで脊椎に繋がった回路用ナノワイヤーへと目を向ける。

「ナノワイヤー自体は脊椎に直結してて、稼働中に下手に抜き取ると装着者に過度の負荷がかかり、脳に後遺症が出る可能性も……!」

 アタシは頭の中にある脊椎直結制御回路の構造を思い出しながら、必死にそれを破壊する方法を考える。
 設計図を見直す余裕などない。時間をかけてしまうと、それだけタケゾーが苦しむことになる。

 ――アタシの両親と星皇カンパニー。
 いくらアタシよりも優秀な人達が作った技術であっても、それを止めることだけならアタシにもできるはずだ。

「……よし! 右手で回路をオーバーロードさせて、左手でアース線の役割を担えば……!」

 そうして必死に考えた末、アタシは一つの方法へと辿り着く。
 まずは右手をタケゾーの脊椎に接続された制御回路のメイン基板へと触れさせ、左手はタケゾーの脊椎への接続部を摘まむように構える。

 ――考え付いた方法はこうだ。
 まずはアタシの右手から制御回路に直接電気を流し込み、回路そのものを過電流でショートさせ、その機能を停止させる。
 ただ、そのままだとタケゾーの脊椎にまで、アタシの電気が流れ込んでしまう。
 だからその余剰分の電気をアタシの左手にアースのように送り込ませ、同時に脊椎に繋がったナノワイヤーを素早く抜き取る。

 方法こそ決まったが、簡単な話ではない。
 一歩間違えれば、タケゾーの身に何が起こるかなんて分からない。
 それでも、これでいくしかない。もう余計なことを考えている余裕もない。

「タケゾー……。絶対に……絶対にアタシが助けるから!」

 情報制御コンタクトレンズも焦点を合わせ、脊椎直結制御回路に意識を集中させる。
 電流なんて制御するにしても一瞬だ。その一瞬でタケゾーの安否が分かれる。
 瞬きすることも忘れ、アタシはその一瞬のタイミングだけを狙う。



 ――タケゾーをこのままになんてできっこない。
 絶対にアタシの手で救いだしてみせる。



 ――バチィンッ!

 ピンッッ!!


「うぅ!? ぐうぅ……!?」

 少しの間を置いた後、思いついた方法を決行。
 制御回路はショートし、脊椎に繋がっていたナノワイヤーも確かに抜き取れた。
 だが、問題となるのはタケゾーの方だ。アタシがナノワイヤーを抜き取った後、わずかに声を漏らすと体が脱力してしまう。

「タケゾー! しっかりして! アタシのことが分かる!? ねえ!?」

 自分ではうまく行ったと思っても、こんな即席の方法では予想外のことが起こってもおかしくない。
 制御回路がショートする前にナノワイヤーを抜き取っていたら、AIのエラーでタケゾーの脳に異常が生じる。
 ナノワイヤーを抜くのが遅れていたら、アタシの電流がタケゾーの脊椎に流れ込んで大惨事。

 どんな異常が起こっていてもおかしくない。
 アタシは脱力したタケゾーの体を抱え込みながら、その顔を覗き込んで必死に声をかける。

 お願いだ。せめて、声だけでも聞かせてくれ――



「そ……空鳥……? ほ、本当に俺を助けて……?」
「よ……よかったぁ……! タケゾー!!」



 ――その願いが届いたのか、タケゾーは薄っすらと目を開きながらアタシの名前を呼んでくれた。
 体にまだ力は入らないようだが、それでもこの様子を見る限り、脳に特別な異常は及んでいないと見える。

 何より、アタシの名前を呼んでくれた。記憶障害も起こしていない。
 アタシにとっては、それが本当に嬉しかった。もしタケゾーが助かっても、アタシのことを忘れられるなんて嫌だ。



 ――だって、アタシはついさっき、タケゾーに思わぬ告白をされたのよ?
 アタシにとってもタケゾーは大切な幼馴染だ。そんな奴の気持ちまで忘れられたら、アタシが悲しすぎる。

 ――思わず涙を流しながらタケゾーに抱き着き、喜びを体で表現せずにはいられない。



「お、俺……お前に酷いことしたけど……本当は……」
「大丈夫さ。あんたの言葉の続きは、アタシも後できっちり聞かせてもらう。だから、今はゆっくりと休みな」
「あり……がとう……」

 無事だったとはいえ、タケゾーもジェットアーマーの装着と精神汚染による負荷が祟ったのか、アタシの腕の中で目を閉じて寝息を立て始めた。
 それでも、脈拍も呼吸も落ち着いている。このまま目を開けないということはないだろう。
 アタシもようやく安心することができた。



「それにしても……どうしてタケゾーがジェットアーマーを装着してたんだろ?」



 ただ、こうやって落ち着いた後に気になるのは、タケゾーがジェットアーマーを装着していた理由。
 タケゾーが空色の魔女アタシを襲っていたのは、脊椎直結制御回路による精神汚染で空色の魔女への憎しみを増幅させられた影響なのは分かる。
 だが、そもそもその原因となるジェットアーマーを装着していた理由が見えてこない。
 それに警察施設にあるものを、責任者だったタケゾー父の息子とはいえ、一般人であるタケゾーが持ち出せるはずもない。

 ならば、誰かがタケゾーに無理矢理装着させて――



「グゲゲゲェ! せっかく、空色の魔女に復讐できる力を与えてやったのに、満足に役目も果たせぬとはナァ!」
「なっ……!? あ、あんたは……!?」



 ――その謎の人物の正体が気になっていると、アタシとタケゾーしかいないはずの屋上の上から、誰かの声が響いてきた。
 もう何度聞いたか分からない、忌々しい下卑た笑い声。さらにはその口ぶりから、こいつこそがタケゾーを利用した張本人と見て取れる。

 いや、正確には『張本鳥』とでも言うべきだろうか――



「ま、まさか……あんたがタケゾーを利用したのかい!? デザイアガルダ!?」
「グゲゲェ! 『デザイアガルダ』カァ! 警察連中はワシのことをそう呼んでいるらしいナァ!」



 ――タケゾー父を殺した仇敵クソバード、デザイアガルダ。
 そいつが翼をはためかせながら、アタシ達の頭上へと姿を現した。
 そして予想通り、こいつこそがタケゾーを利用した元凶だ。

「タケゾーの親父さんだけじゃなく、タケゾーまで散々な目に遭わせやがって……!」
「物のついでで、その小僧の内なる願いを叶えようとしてやったのだがナ。だが、空色の魔女を倒せなかった以上、本来の目的を果たさせてもらおうカァ!」
「な、何する気――うんぐぅ!?」

 タケゾー親子への仕打ちを思うと、このアホ馬鹿ボケバードへのアタシの怒りはもう臨界点を超えている。
 そんなアタシに構うものかと、デザイアガルダはお得意のソニックブームをいきなりぶつけてくる。

 それでアタシは大きく吹き飛ばされたのだが――



「ワシはこのジェットアーマーが必要でナ! この小僧ごといただいていくゾォ!」
「ううぅ……」
「タ、タケゾー!?」



 ――傍にいたタケゾーの方はデザイアガルダに捕らえられ、そのまま夜空の中へと連れ去られてしまった。
 話を聞いていた限り、タケゾーにジェットアーマーを装着させたのは、邪魔者であるアタシを倒す目的こそあれど、一番の目的ではない。
 ジェットアーマーを奪うことこそが、あいつの一番の狙いだ。



「……ふざけんなよ。ンク! ンク! プハァー! ……ンク! ンク! ンク!」



 デザイアガルダが何故ジェットアーマーのことを知っているのか? 盗み出して何を考えているのか?
 そんな疑問が頭の片隅に浮かぶが、今のアタシにとっては何よりも許せないことがある。

 ――タケゾーを攫ったことが、アタシには何よりも許せない。

 もう堪忍袋の緒が切れたとかじゃない。怒りで頭がどうにかなりそうだ。
 逃がすつもりなどない。アタシは懐にあった残りの酒のボトルを飲み干し、生体コイルをこれ以上ないほどに稼働させる。
 全身が凄まじいまでに熱く滾り、体の周囲に放電現象が現れるほどのオーバーチャージ状態。タケゾー父を救えなかった時と同じ状態だ。

 ハッキリ言って、これがあまりに無茶なことはアタシ自身も理解している。
 それでもやるしかない。やらずにはいられない。
 宙に浮かせたデバイスロッドにまたがり、追うべき標的へと狙いを定める。



 アタシのこの身がどうなろうとも、やるべきことは一つしか思い浮かばない――



「タケゾーを……返せぇぇええ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...