空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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魔女の誕生編

ep51 あんたがアタシを襲ってたのか……。

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「……え? な、なんでアタシの名前を……?」
「そ、そんな……なんで……空鳥が……?」

 ジェットアーマーにトドメを刺されそうになった直前、何故かアタシを攻撃する手がピタリと止まった。
 いや、それよりも気になるのは、ジェットアーマーの――装着者の様子だ。
 今のアタシは魔女服こそそのままだが、顔や髪に関しては普段通りに戻っている。
 情報制御コンタクトレンズによる魔法陣もアイシャドウも、プラズマ効果による水色に変わっていた髪も、全部元に戻っている。

 ――そんな普段通りのアタシの姿を見て、ジェットアーマーはアタシの本当の名を呼びながら、動きを止めてしまった。

「アタシのことを『空鳥』って……。ま……まさか!? ト、トラクタービーム!」

 その様子を見て、アタシもようやくこのジェットアーマーを装着している人物の正体に勘付く。
 残ったわずかな力を使い、トラクタービームでそのヘルメットを剥がしとる。
 ジェットアーマーは完全に狼狽えていたので抵抗することもなく、ヘルメットを取るのは簡単だった。

 そして、その下から現れた素顔は――



「そ、空鳥が……空色の魔女だったのか……!?」
「タ……タケゾー……!?」



 ――思った通り、タケゾーだった。
 タケゾーこそがジェットアーマーを身に着け、アタシを――いや、空色の魔女を襲った張本人だった。

「な、なんでさ……? なんでタケゾーがジェットスーツを身に着けて……?」
「そ、空鳥こそ……どうして空色の魔女なんてやって……? じゃあ、親父を殺したのも、まさか空鳥が……? い、いや、そんなはずが……?」

 タケゾーがどうしてジェットアーマーを装着しているのかは分からない。
 だが、空色の魔女アタシを襲った理由については見当がつく。

 タケゾーは半信半疑とはいえ、空色の魔女が父親を殺したものと疑っていた。
 そんな心境でジェットアーマーを装着したせいで、神経インターフェースから精神汚染され、その復讐心だけを過剰に刺激された。
 その結果、通りすがりの二人組に芝居を打たせてまで空色の魔女をおびき寄せ、こうして復讐に動いてしまった。



 ――まさかその空色の魔女の正体が、幼馴染の空鳥 隼アタシだと知るはずもなく。



「タ、タケゾー! 本当にどうして、あんたがそのジェットアーマーを装着してんだい?」
「わ、分からない……。誰かに何かを言われて、そこから先は何があったのか――グゥ!? ガアアァアアァア!?」
「タケゾー!? ちょ、ちょっと!? しっかりしなって!? ねえ!?」

 何よりも気になるのはタケゾーがジェットアーマーを装着している理由だが、それを問い詰めようとするとタケゾーが突如苦しみ始めた。
 挙句の果てにはアタシから離れ、自らの頭を地面に叩きつけ始める。
 アタシも近づいて必死に止めるが、タケゾーの錯乱は止まらない。
 それどころか、まるでアタシを拒むように突き放そうとしてくる。

「は、離れろ……俺から離れろ! 空鳥ぃい!! か、体が言うことを聞かない! あ、頭が……ガアァァアアァア!?」
「ま、まさか……精神汚染の影響!? だ、大丈夫だから! 気をしっかり持ってくれって! タケゾォォオ!!」

 こんなにタケゾーが取り乱す理由なんて、一つしか思いつかない。未完成なジェットアーマーによる精神汚染の拡大だ。
 外されたヘルメットの下にあったタケゾーの首筋を見ると、脊椎直結用のナノワイヤーが突き刺さっている。
 ジェットアーマーに搭載された制御回路は、今もタケゾーの精神を狂わせている。

「お、俺は……空色の魔女を殺したいわけじゃない! その正体が空鳥だったなら尚更だ! 俺に……俺に空鳥を殺させないでくれぇええ!!」

 タケゾーはアタシを突き放そうとしながら、必死に精神汚染に抗うように叫び続ける。
 タケゾーも最初から空色の魔女への復讐を願っていたわけではない。タケゾーがそんな人間でないことは、アタシが一番理解してる。

 それでも、アタシがタケゾー父を死なせてしまった原因なのは確かだ。
 こうなったらいっそのこと、タケゾーを精神汚染に従わせるまま、アタシを殺させても――



「お……俺の好きな……愛する女を……俺の手で殺してたまるかぁああ!!!」
「……え?」



 ――そんな野蛮な考えは、タケゾーが必死に吐き出した想いと共に吹き飛んだ。
 タケゾーがアタシのことを好き? アタシのことを愛してる?
 どういうこと? これって、精神汚染で言わされてるんじゃないよね?
 精神汚染の影響が及ぶのは、怒りや憎しみといった負の感情だ。好きだの愛しているなどといった感情には、精神汚染の影響は及ばない。



 ――それならば、これはタケゾーの本心ということなの?



「タ……タケゾー? まさか、本当にアタシのことが好きだとか……?」
「い、今そのことはいい! 俺はこれ以上……お前を傷つけたくないんだァァアア!!」

 思わぬタケゾーの告白に気を取られてしまうが、今はそんな場合でもない。
 タケゾーはそんなアタシへの想いを最後の防波堤とすることで、なんとか精神汚染を堪えている状況。
 アタシを襲いそうになる衝動を、涙を流しながら必死に押し込めている。
 今でもアタシの心は困惑しているが、ここで黙って見ていることなどできない。



 ――アタシの幼馴染を、アタシを好きだと告白してくれた男を、見捨てることなどできはしない。



「……ンク、ンク――プハァ! タケゾー! 少し痛いだろうけど、絶対に助けるから我慢してて! いいね!?」
「そ……空鳥? な、何をする気だ……? 早く逃げて――」
「逃げるわけないだろ!? あんたが愛した女のことぐらい、素直に信用しろってんだ!」

 タケゾーはなおもアタシを逃がそうとするが、こっちは意地でも離れる気はない。
 アタシはボトルの酒を多めに体へと流し込み、生体コイルを再稼働させてもう一度空色の魔女へと姿を変える。

 タケゾーを苦しめる脊椎直結制御回路については、アタシも一度だけ設計図に目を通している。
 星皇社長から図面入りのデータを見せてもらった時だけだし、アタシも知らなかったアルゴリズムで構築されていた。

 ――だが、図面そのものは頭の中に残っている。
 アルゴリズム自体は未知のものでも、所詮は回路。その方面に詳しいアタシならば、全ては理解できずとも、糸口ぐらいは読み取れる。

 ――その記憶と知識を頼りに、アタシの力で回路を破壊するしかない。
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