空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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想い続けた幼馴染編

ep61 タケゾー「恋人が急変してしまった」

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「なーるほどね~。隼ちゃんのお洋服を買いに行こうにも、そのお洋服を買いに行くためのお洋服さえないのね~」

 親父の仏壇へ報告を終えると、ようやく本題である隼の服の件をおふくろに話せた。
 もう隼が完全にバラしてしまったので、変に隠す必要もない。結果として、こっちの方が良かったのかもしれない。

「悪いんだけど、適当な服をアタシに見繕ってくんないかな? でないと、タケゾーがうるさくってさ」
「もちろんオッケーよ~。ちょっと奥の部屋に行きましょうね~。隼ちゃ~ん。しっかりおめかししてあげるからね~」
「え? いや、アタシは服だけ借りれればいいんだけど?」
「遠慮しなくていいのよ~。しーっかりお化粧からおめかししましょうね~」

 そして話を聞いてくれたおふくろなのだが、隼を奥にある自らの衣裳部屋へと招き入れ、盛大に何かを始めている。
 もちろん着替えもしているはずなので、男の俺は立入禁止。ただ、それ以上に気になるのが――

「ちょ、ちょっと!? おふくろさん!? なんでアタシに化粧までするのさ!?」
「隼ちゃんはいつもスッピンなんだから、武蔵とのデートの時ぐらいはお化粧をしてみましょうね~」

「……おふくろ、楽しそうだな」

 ――部屋の中から聞こえてくる、隼の怯えた声とおふくろの高揚とした声。
 どうにも、おふくろは隼を着せ替え人形か何かのように扱っているらしい。
 まあ、俺も隼のファッションへの無関心さには呆れていたところだ。あいつってこの歳になって、化粧をしているところを見たことすらない。
 空色の魔女の時はアイシャドウでかなり雰囲気が変わっているが、あれも目に入れてるコンタクトレンズの副作用らしい。化粧の仕方を知っているのかも危うい。
 確かに隼は元々がスッピンでも通用するレベルの美人ではあるが、おふくろに少しでも化粧してもらえば、また印象も変わるだろう。

 ――俺も彼氏として、隼のファッション関係への無関心さは心配になってくる。

「タ、タケゾー! タケゾー!!」
「おっ? 終わったみたいだな?」

 そうこう考えていると、隼がどこか慌てた声をしながら部屋から出てきた。
 それにしても、着替えやら化粧やらが終わったにしても、何をそんなに慌てて――



「さ、さっき鏡を見たら……とんでもない清楚系美人が鏡の中に……!?」
「それ! お前のことだよなぁああ!?」



 ――こっちにやって来た隼の姿を見て、俺も思わず目を丸くする。
 そこにいたのは、いつもの作業着にボサボサポニーテールのガテン系女子ではない。
 服装はいかにも清楚な白いロングスカートのワンピース。髪型も毛先まで整えられたストレートロングで、空色の魔女の時の帯電で浮かび上がったロングヘアとはまた印象が違う。
 顔もそれに合わせたナチュラルメイクが施されており、率直な印象として清楚なお嬢様がそこに立っていた。

 ――もちろん、それは俺のよく知る隼の姿である。
 ただ、こんな隼の姿は俺も知らない。おふくろは一体、どこまで本格的に隼をおめかししたのだ?

「やーっぱり、隼ちゃんは素体がいいから、こうやっておめかしすると化けるわね~」

 そんな隼の姿を見て、同じく部屋から出てきたおふくろは非常に満足そうだ。
 確かに隼はそもそもがかなりの美人だし『女は化ける』とも言う。だが、こんな短時間でここまでできるものだろうか?
 しかもこれ、完全におふくろが自己満足でやってるよね?

 ――二十年間親子を続けていたが、俺も知らないおふくろの裏の顔を初めて見た。

「こ、これって、本当にアタシなんだよね? 鏡の方に細工とかされてないよね? タケゾーのお母さんって、魔法使いか何か?」
「本物の魔女が言うセリフかよ……。おふくろは普通の人間のはずだ。……一応」
「一応って何よ? タケゾーも知らなかった、母親のもう一つの素顔みたいな?」
「……そんな感じだ」

 隼も隼で自らの姿を素直に受け入れられず、誰よりも困惑している。
 おふくろには聞こえないように二人でコソコソと話をするが、確かにおふくろもおふくろで魔女みたいなことをしたものだ。
 空色の魔女である隼にそう言われるのももっともだ。

「これでどこからどう見ても、デートするカップルに見えるわね~。武蔵ももうじきお仕事に復帰するんだし、隼ちゃんとのデートで息抜きしてきなさいね~。いつまでも落ち込んでたらダメよ~」
「もうここに至るまでのあれこれで、親父の件については立ち直れたよ。……今度はおふくろ含めた別の件で気が重くなってるけど」

 妙な気疲れこそあるが、おふくろもおふくろで俺のことを気遣ってくれている。
 これまでは親父の死のショックから立ち直れずに仕事も休んでいたが、俺もそろそろ復帰しないといけない時期だ。
 保育園の園児達は大丈夫だろうか? まあ、新人の俺一人がいない程度で、そう変わるものでもないか。

「とりあえずはありがとね、タケゾーのお母さん。履物まで借りちゃったけど、またきちんと返しに来るから」
「それは隼ちゃんにプレゼントするね~。私も若い頃に着てたものだけど、今はもう使ってないからね~。武蔵の彼女に使ってもらえるなら本望よね~」

 隼の方もひとまずは自らのイメチェンに納得し、俺と一緒に家を出る。
 服に関してもおふくろは隼に快くプレゼントし、これで『服を買いに行くための服がない』という状況は今後も避けられそうだ。

 ――ただ、おふくろが本格的に隼を着飾ったせいで、こっちのハードルが上がってしまった。
 正直、俺には今の隼を上回るコーディネートが思いつかない。これ以上のお洒落なんて、俺のセンスでは無理だ。

「タケゾーのお母さん、機嫌よかったね。アタシが彼女になったことにも納得してくれたみたいで安心したや」
「まあ、おふくろは昔から隼のことを気に入ってたからな。それにしてもおふくろにも言われたが、俺も職場復帰を考えないとな。……園児達、俺のことを忘れてたりしないよな?」
「忘れられてるわけないじゃん。アタシがちょっと立ち寄ったら『タケゾーせんせーはどうしたの?』って、みんな心配してたぞ?」
「そ、そうなのか? だったら、俺もいつまでも休んでいられないな」

 俺の自宅を出た後、隼と少し話しながら駅へと歩いて行くのだが、こいつはなんだかんだで世話焼きだ。
 俺のことを心配性だなんだと言っているが、それなら隼だって同じようなものだ。
 保育園の話を聞かせてもらえると、俺も安心できる。

 ――俺には隼のように特別な力はない。
 俺では隼のように大勢の人間を救えずとも、その大勢の人間を救える隼の力になれるのならば、そういう人間になりたい。
 隼が危険な目に遭い続けるのは不安でもあるが、こいつ自身は空色の魔女として人々を救うことを望んでいる。
 俺がそれを止めるのは野暮であり、俺自身も隼が望む道を進ませてやりたい。



 ――俺だって、空色の魔女として人々を救う隼の姿に、かつてと同じヒーローの姿を夢見ているのだから。



「あっ。なんだったらさ、タケゾーもアタシみたいな服装で女装しても良かったんじゃない?」
「なんで俺が女装しないといけないんだ……!?」
「タケゾー、女装も似合いそうだしさ。それにペアルックでデートって、カレカノっぽくない?」
「『カレ』要素がなくなってないかな……!?」

 ただ、俺も望んで隼との交際を始めたのだが、一つだけ不安なことがある。

 ――こいつ、今まで以上に俺で遊ぶつもりだろ。
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