空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
64 / 465
想い続けた幼馴染編

ep64 タケゾー「恋人が汚れてしまった」

しおりを挟む
「うへ~……。ベトベトだ~……」
「本当に何をやってんだよ!? ああ、もう! とにかく拭き取るから、少しジッとしてろ!」

 隼が思わず眼前のハードクリームに拳を突っ込んだせいで、ものの見事に崩壊したハードクリームの山。
 俺には幸いかからなかったが、隼の方はおふくろにもらったワンピースごとクリームまみれだ。
 とりあえずは俺も布巾を手に取り、隼の手や足に付着したクリームを急いで拭き取っていく。

「ねえ、タケゾー。胸元が一番クリームついちゃってるんだけど?」
「そこは自分で拭き取れ! お、俺だって、いくらなんでもそこは無理だ! 手のクリームもなくなったんだから、この布巾でやってくれ! ほれ!」
「えー……ケチな男だね。別に付き合ってるんだから、そんなに気にすることでも――あれ?」

 隼は俺に胸元のクリーム拭き取りをねだるが、流石にそこは俺としても避けなければいけない一線だ。
 自覚があるのか危うくなるが、隼の立派な胸は男相手にはとんでもない凶器。その凶器に触れてしまえば、幼馴染兼彼氏の俺でも狂気に駆られてしまう。

 そんなわけで、そこは隼自身に任せていたのだが――



「胸ポケットに入れてたキーホルダー……ない」
「……え?」



 ――胸ポケットを漁っていた隼の顔色が、急に青ざめ始めた。

「え? あ、あれ? アタシ、確かにここに入れてたんだけど?」
「もしかして、さっき暴漢と戦ってた時に落としたとか?」
「え? ええ? そ、そんな……そんな……!?」

 どうやら、俺がプレゼントした空色のキーホルダーを、空色の魔女として戦っている時に落としてしまったようだ。
 いくら変身はしていても、そういうことはあるものなのか。俺では原理は理解できないが、落としてしまったものは仕方ない。
 そもそもは隼が人のために身を挺していた時の出来事だ。残念ではあるが、あれぐらいならまた買ってやろう。



「うわぁぁああん!! タケゾー! ごめぇぇええん!! アタシ、もらったキーホルダー、失くしちゃったぁあああ!!」
「お、おい!? そこまで泣くほどのことか!?」



 ただ、この事実を認識した隼なのだが、盛大に大声を出しながら泣き始めてしまった。
 ちょっと待って欲しい。確かに俺も残念ではあるが、そこまで泣いて謝られるほどのことだろうか?
 隼も普段からここまで泣く奴ではないが、これは裏を返せば俺のプレゼントをそこまで喜んでくれていたということなのだろう。

 ――しかし、ここまで泣かれてしまうと、俺の方が反応に困る。

「大丈夫だから! な!? 俺がまた、同じ奴を買ってやるから!」
「で、でも……あれはタケゾーが帽子と一緒にアタシに初めて彼女として買ってくれた、特別な一品だよ? そんな大事なものを失くして、おまけにこんな白いベトベトで汚れた女なんて……うわぁぁああ……!」
「その言い方はやめろ! 変な誤解を生むだろ!?」

 隼にとっては余程ショックだったのか、泣き止まずに錯乱を続けてしまう。
 しかも周囲にとんでもない誤解をされそうなことまで言い始める始末。クリームの白いベトベトが、いかがわしい違うものに見えてしまう。
 ただ店の中にいる他の客も、俺と隼の一部始終については理解しているのか、見て見ぬフリを貫いてくれている。

 これで客の中に知り合いがいた日には、本当にたまったものでは――



「あ、あれ? もしかして、武蔵と隼ちゃんか~!? 隼ちゃんの様子が一変してるし、こいつはどういう状況だ~!?」
「何でいるんですか!? 玉杉さん!?」



 ――そう考えている時に限って、本当にそういうことが起こって困る。
 丁度喫茶店の扉を開けて入店してきたのは、俺が行きつけのバーのマスターだったり、以前に副業で隼の借金を取り立てていた玉杉さんだ。
 しかも最悪なことに、玉杉さんは今さっき店に入って来たばかり。どうして隼がクリームまみれで泣いているのかなんて知らない。

「た、玉杉さ~ん……! ヒック! アタシ……タケゾーの……汚れちゃって……こんな汚れても彼女になって……!」
「ど、どういうことだ~!? 『武蔵が隼ちゃんを傷ものにして、無理矢理自分の彼女にした』ってことか~!? いくら隼ちゃんが好きだからって、無茶苦茶しやがったな~!?」
「全然違いますって! 隼! 少しは落ち着いて説明してくれ!」

 しかも錯乱状態の隼は玉杉さんに対し、とんでもなく中途半端な説明をしてしまう。
 それを聞いた玉杉さんは案の定、俺のことを完全に誤解し、ゴミでも見るかのように睨みつけてくる。

 ――俺が一体、何をしたというのだ?

「と、とにかく、まずは隼の服を拭いて――」
「これって、武蔵のアレなんだろ!? そんなものをこんな公衆の面前で――」
「ちょっと黙っててください! 店員さん! すみませんが、清掃をお願いします!」

 とはいえ、こんな状況でもまずは隼の服についたクリームをどうにかしないといけない。
 もう俺も何が何だか分からないが、今は店員さんにも手伝ってもらって――



清掃業務ミッションの気配を感じました。これより、清掃魂セイソウルの誓いのもとにお掃除いたします」
「どうしてあなたまで出て来ちゃうんですかねぇえ!? 洗居さぁぁん!?」



 ――そう思って店員さんに助けを求めたはずが、何故か裏口の方から洗居さんが現れた。
 確かに清掃面において、超一流の清掃用務員である洗居さんほど心強い人物はいない。
 だが、何故このタイミングでまたしても知り合いが現れるのか? しかも、何故かバーと同じくメイド服を着てるし。

「私が近くのメイド喫茶の清掃業務ミッションをしていて好都合でした。ご安心くださいませ。どんな汚れであろうとも、この超一流の清掃用務員である私が――」
「あ、洗居さぁぁん……! タケゾー……付き合って……汚れて……!」
「ッ!? そ、空鳥さん!? そ、それにタケゾーさん!? つまり、この白いベタベタはまさか!? ……私も状況を理解しました。タケゾーさん、自首しましょう。心の汚れは私にも洗い落せません……」
「だから! みんな揃って凄い誤解をしてるんですってぇぇええ!!」

 メイド喫茶での清掃業務だからって、わざわざ洗居さんもメイド服を着る必要があったのかは別として、洗居さんまで俺が不貞を働いたものと勘違いしてしまった。
 そんな洗居さんが俺を見る目は、例えようがないほど物悲しい。

 ――本当に一体、俺が何をしたというのだ?

「タケゾー……ごめんね……ごめんね……! うあぁああ……!」
「隼ちゃんが謝る必要なんかねえさ。さあ、武蔵。洗居も言ってた通り、早く自首するんだ。俺も警察には人相のせいでよく職務質問を受けてたし、最後ぐらい一緒に付き添ってやるよ」
「警部だったお父様の顔にこれ以上泥を塗らないためにも、どうか自ら出頭してください……」
「隼も含めて、みんな一回落ち着いてくれないかなぁぁあ!? 話がどんどんおかしな方向に進んでるからさぁああ!?」

 もうここまで知り合いが揃ってしまうと、場所がショッピングモール内の喫茶店だとか、俺と隼が交際を始めたことを報告してないこととか関係ない。
 とにかく収拾がつかなくなったこの騒動の中で、俺はもう余計なことを考えたくないが、一つだけとりあえず優先してやるべきことがある。



 ――早く隼の服にべたついたクリームを綺麗にしてやらないと可哀そうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

桔梗の花咲く庭

岡智 みみか
歴史・時代
家の都合が優先される結婚において、理想なんてものは、あるわけないと分かってた。そんなものに夢見たことはない。だから恋などするものではないと、自分に言い聞かせてきた。叶う恋などないのなら、しなければいい。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...