空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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想い続けた幼馴染編

ep65 タケゾー「とんでもない誤解を解くのに必死になった」

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「それじゃあ、別に武蔵が隼ちゃんに不貞を働いて、無理矢理交際させてるわけじゃねえんだな? それならよかったな~」
「これは失礼しました。それにしても、お二方とも正式に交際を始めたのですね。おめでとうございます」

 玉杉さんと洗居さんにとんでもない勘違いをされたせいで、流石にあの喫茶店内には居辛くなってしまった。
 仕方がないので、俺達四人は洗居さんが本日拠点として使っていた用務室に集まり、再度俺から事情を説明した。
 二人ともようやくこうなってしまった理由も理解してくれて、俺と隼の交際についても好意的な言葉を述べてくれた。

 ――ただ、常識的に考えて欲しい。
 仮に隼に纏わりついていたクリームが本当に俺のいかがわしいアレだったとしても、あんな公衆の面前でそういう行為に及ぶ鬼畜がいるだろうか?
 俺は隼にそんなことは絶対にしない。むしろ、隼がそんな目に遭っていたら、俺がそんなことをする奴をぶっ飛ばす。

 ――もっとも、隼なら逆に殴り飛ばせそうだけど。

「いやー、みんなごめんねー。アタシもついつい取り乱しちゃってさぁ」
「そもそもの話、お前があそこまで取り乱さなければ、こんなにこじれた話にもならなかったんだよ……」
「そこはアタシも悪かったって。……でも、やっぱりキーホルダーを失くしたのは、ショックなんだよね……」

 隼もようやく落ち着きを取り戻し、玉杉さんと洗居さんにも事情を説明してくれた。
 ワンピースについていたクリームも、洗居さんがうまく洗剤で目立たないように拭き取ってくれた。
 ただ、キーホルダーを失くした件については、今でもショックが残っている模様。
 そこまで気にしてくれる隼の気持ちはありがたくも感じてしまうが、そこはまた俺がプレゼントするなりして、どうにか納得してもらおう。

「それにしても、隼ちゃんが武蔵からプレゼントしてもらったキーホルダーを失くしたぐれえで、あそこまで取り乱すとはな~」
「だって……本当にショックだったもん」
「ここまでしおらしい隼ちゃんも初めて見るな……」

 一通り落ち着いたとはいえ、今の隼の姿は玉杉さんからしても異様なようだ。
 おふくろからもらった清楚なワンピースを身に纏い、俺がプレゼントしたツバ付き帽子を両手で押さえる、黒髪ストレートないかにもなお嬢様。
 落ち込んでいるせいで物静かになっていることも相まって、お嬢様感に拍車をかけている。

「そういえば、玉杉さんはどうしてあの喫茶店にいたんですか?」
「このショッピングモールには家族連れで来てたんだが、実は俺もちょっとキーホルダーを拾ってな。その持ち主を探すために、さっきの喫茶店に立ち寄ってたんだ」
「まさか、それが隼の失くしたキーホルダーだってオチじゃありませんよね?」
「そんなわけはねえよ。こいつは娘の恩人の落とし物だからな。まあ、俺も流石に当人に会えるとは、そこまで期待してねえけど」
「そういや、妻子持ちでしたね……」

 隼のことも気になるが、俺としては玉杉さんがここにいる理由の方が気になって尋ねてみた。
 すると玉杉さんはポケットから落とし物だというキーホルダーを取り出し、俺達にも見せてくれる。
 人相こそ警察官に会えば職質待ったなしなほど凶悪だが、妻子がいるあたりも含めてなんだかんだでこの人も普通にいい人だ。
 それにしても、その娘さんの恩人というのもどんな人で――



「ついさっき、そこで暴漢が女子中学生を人質にとる騒動があっただろ? あの時の人質が俺の娘でな。で、この空色の宝石みたいなキーホルダーは、その時に空色の魔女が落としていったものらしくて――」
「あー!? それ、アタシがタケゾーにもらったキーホルダー!?」



 ――その人物の正体は話の内容からすぐに分かった。てか、あの人質が玉杉さんの娘さんだったのか。
 隼も知らずだったとはいえ、知り合いの娘さんを助けていたとは、なんとも奇妙な縁ではある。

 ――ただ、それを語る玉杉さんが手に持ったキーホルダーを見て、隼が盛大にボロを出してしまった。

「……え? これが隼ちゃんの失くしたキーホルダー? てことは、まさか隼ちゃんが……?」
「え? あ!? いや!? ちょ、ちょっと待って!? ア、アタシハ、ソライロノマジョナンテ、シリマセンヨ?」

 こうやって一度ボロを出してしまった時、隼は狼狽えてそのままズルズルとボロを出し続けてしまう癖がある。
 今でも目を泳がせながら、片言で弁明しているが、最早肯定しているのと変わらない。

 ――しかし、これはマズいことになったかもしれない。
 隼もあまり空色の魔女という正体がバレることで、悪目立ちすることを嫌っている。
 俺もどうにかして、玉杉さんの考えを逸らしたいのだが――

「玉杉店長、お待ちください。空鳥さんが空色の魔女なわけがありません」
「あ、洗居さん!」

 ――そうこう悩んでいると、洗居さんが助け舟を出してくれた。
 隼からも聞いたが、この人も空色の魔女の正体と事情は知っている。
 俺ではいい対処法が思い浮かばないが、超一流の清掃用務員と呼ばれる洗居さんならば、何か都合よく誤魔化して――



「空鳥さんは空色の魔女ではありません。その……うまく言えませんが……とにかく違います。私の清掃魂セイソウルに懸けて違います」
「あ、洗居さん!?」



 ――と思ったが、全然駄目だった。弁明に理由も根拠も何もない。
 思い返してみれば、この人は偽ったり誤魔化したりというのが、とんでもなく苦手な人だった。
 この間も俺から隼が何をしているのか尋ねると『仕事を途中で抜け出したりしてますが、何もおかしなことはしてません』という返答をしたせいで、俺と隼は口論にまで発展してしまった。
 そもそもよく考えると、超一流の清掃用務員とか何も関係ない。俺も焦っておかしな期待を抱いてしまった。

 ――『清掃魂セイソウルに懸けて』というのもよく分からない。

「……分かった。ここは俺も何かを察して、これ以上は言及しねえでおいてやる」
「ホント!? 玉杉さんって、顔に似合わず話の分かる人だよね~!」
「流石です、玉杉店長。顔に似合わないその空気の読み方は参考になります」
「おい、女ども。『顔に似合わず』は余計だっての」

 結局、玉杉さんも空色の魔女の正体が隼であることには気付いてしまった。
 ただ、そこは実に大人な対応。知りはしても、余計な詮索はしてこない。

 ――ある意味、この場にいる誰よりも落ち着いた対応だ。
 俺も失礼ながら、顔に似合わず話の分かる人だと感心してしまう。

「ただ……武蔵。お前は隼ちゃんの全ての事情を知ったうえで、真っ当な交際を続ける気なんだな?」
「ええ、それについては俺も揺るぎません。俺は隼が何者であろうとも、その傍で支えられる男になってみせます」
「なら、それでいい。俺も武蔵や隼ちゃんとはそれなりの付き合いだし、そこまで覚悟が決まってんのなら、余計な口は挟まねえさ」

 そんな玉杉さんなのだが、俺にも一つ忠告のような確認を入れてきた。
 無論、俺は隼の全てを受け入れるつもりで交際を申し出ている。そもそも、隼が空色の魔女だからって告白しない理由になんてならない。



 ――幼い頃からずっと抱き続けてきた想いは、そう簡単には崩れない。



「ねえねえ、洗居さん! さっきのタケゾーのセリフ、聞いた? キザったらしいことを言うけど、そういうところもカッコイイんだよねぇ」
「タケゾーさんは容姿も整っておりますし、ああいうセリフでも絵になりますね」
「でしょでしょ~? いやー、アタシもまさかタケゾーと付き合うことになるとは思わなかったけど、こうやって恋人同士ってなると、どこか特別感が出てきてねぇ」

 ただ、女二人で揃って、俺の密かな決意に茶々を入れるのはやめて欲しい。俺の羞恥心は簡単に崩れる。
 気がつけば、玉杉さんや洗居さんといったいつものメンバーにも空色の魔女の正体はバレてしまったが、特にそれで問題が起こる様子はなさそうだ。
 それでも、隼は周囲が自分の正体に気付くことで、危険に巻き込んでしまうことを誰よりも嫌っている。
 そこについては俺も協力し、隼が気負い過ぎないように工夫する必要もありそうだ。

 ――今日のようなデートも、また息抜きの機会として考えてみよう。



「ところで、空鳥さん。私の方で一通りワンピースのクリームを拭き取ったとはいえ、早いうちにしっかりと染み抜きするのをオススメします。衣装を脱いで私に預けてくだされば、この場ですぐにお洗濯もできますが?」



 そうこう考えていると、洗居さんが隼のクリームの染みついたワンピースについて、なんとも綺麗好きらしい発言を述べてきた。
 確かに目立たなくなったとはいえ、これ以上はデートを続けるよりも隼の服を綺麗にする方が先決か。
 隼自身も体にクリームが染み込んで、あまり気持ちのいいものではないだろう。



 ――ただ事情を知らないとはいえ、洗居さんの厚意は隼にとって、かなり都合の悪い話だ。



「……ごめん、洗居さん。アタシ、人前で服を脱ぎたくない……」
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