空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
75 / 465
怪鳥との決闘編

ep75 世界的大企業に勧誘された!?

しおりを挟む
「……へ? ア、アタシが星皇カンパニーで……?」
「ええ、その通りよ。私としても、あなたほどの人材がくすぶったままというのは、見ていていい気がしないのよ」

 何の話題をされるのかと身構えていたら、驚くことに星皇社長はアタシのことを星皇カンパニーに勧誘してきた。
 正直、驚きすぎて軽く頭が真っ白だ。星皇カンパニーなんて、それこそ一流の名門大学でも出てないと入社できたものじゃない。
 高校時代は主席だったとはいえ、アタシの最終学歴は高卒だ。とても通用するレベルじゃない。

「い、一応言っておくと、アタシって高卒なんだけど?」
「学歴なんて関係ないわよ。あなたの技術力についても、こちらで少し調査させてもらったわ。ハッキリ言って、ウチのエンジニアと比較しても、間違いなくトップクラスでしょうね」
「そ、そそ、そこまで評価されちゃってもね~……」

 どうにも唐突な話過ぎて、アタシも思わず及び腰になってしまう。
 星皇社長もアタシのことをベタ褒めしてくるし、なんだかくすぐったくなってくる。

「それに、空鳥さんは何よりもエンジニアとしての姿勢が素晴らしいわ。私に技術関係で啖呵を切った人間なんて、ここ数年であなたぐらいよ?」
「あ、ああ……!? あ、あの時はアタシも火がついちゃって……!」
「そう。それで構わないのよ。技術の革新を行うのは、あなたのように時として周囲に意見を物申し、起爆剤となれる人間よ。だからこちらからお願いしたいの。是非とも、我が社で働いてくれないかしら?」

 以前に保育園で星皇社長に啖呵を切ってしまったことも含め、もう褒められすぎて頭がどうにかなってくる。
 でも、星皇社長がアタシのことを買ってくれているのは確かだ。この話に裏があるとは思えない。

「タ、タケゾー……どうしよう?」
「これは隼の問題だ。隼が選びたい方を選べばいい。俺はどっちでも構わないさ」
「そ、そうは言ってもさ……」

 思わずタケゾーにも助けを求めてしまうが、流石にこればっかりはアタシがどうにかするしかない。

 ――よし。ここは落ち着いて整理しよう。
 確かに星皇カンパニーへの勧誘は魅力的だ。アタシも技術者として、最高の環境で研究開発ができる。
 ただ、それでも心のどこかで引っかかってしまうのは『これまでの日常が変わってしまう』ということだ。

 今のアタシは裕福ではないけど、自分ではかなりの幸せ者だと思っている。
 両親から受け継いだ工場はなくなっちゃったけど、タケゾーの保育園や洗居さんの清掃の仕事もあるおかげで、なんとか生活はできている。
 空色の魔女という力も手に入れて、ちょっとした正義のヒーローにだってなれた。
 おまけに最近だと、幼馴染のタケゾーと交際まで始めてしまった。



 ――今でも十分すぎるこの現状を、アタシでははかりにかけることができない。



「……星皇社長。申し出はありがたいけど、アタシはやっぱやめとくよ」
「あら? どうしてかしら? こちらとしても、あなたには最高の環境を提供するつもりよ?」
「確かに『技術者として最高の環境』ってのに興味はあるけど、今のアタシは『空鳥 隼という人間にとって最高の環境』があるからね。それを捨ててまでっていうのは……アタシにはできないや」

 アタシ自身も技術者として見た場合、どこか弱気な姿勢だとは思う。それでも、今のアタシにはとても選べない。
 技術者としての理念は今でも持ってるけど、タケゾーを始めとした色々な人と出会ううちに、アタシの中でもいつの間にか優先順位が変わっていたようだ。

 星皇カンパニーの社員となれば、これまでのように洗居さんの仕事を手伝ったり、空色の魔女としてヒーロー活動したり、タケゾーとデートしたりということもできなくなるかもしれない。
 今のアタシは一人の技術者ではなく、一人の人間としての選択を取りたい。

「……フフッ。実に空鳥さんらしい、自分に正直な回答ね」
「あの……すみません。せっかくの厚意を無下にしちゃって……」
「気にしなくていいわよ。私も無理強いはできないわ。彼氏さんとお幸せにね」

 流石のアタシも申し訳なさから、頭を下げておとなしく謝罪をする。
 それでも、星皇社長は笑顔でアタシの気持ちを汲み取ってくれた。こういう対応をしてもらえると、この人の下で働けなかったことを少し後悔してしまう。

 ――でも、これはアタシが決めたことだ。
 ここで未練を残してしまえば、かえって星皇社長の気持ちを台無しにしてしまう。





「ゼノアークさん。今日はありがとね。星皇社長にも伝えてもらえるかな?」
「承知いたしました。星皇社長にも改めてお伝えしておきます。帰り道、どうかお気をつけて」

 なんだかんだで星皇社長とも長話になったけど、アタシを勧誘する話に区切りがついたところでお開きとなった。
 秘書のゼノアークさんに丁寧に見送られ、アタシ達は再びタケゾーのバイクで帰路につく。

「なあ、隼。本当に良かったのか? 星皇カンパニー社長からの勧誘なんて、そうそうあるものじゃないだろ?」
「うーん、それはそうなんだけどね。アタシはやっぱ、今の暮らしのままでいいかなーって」

 バイクのサイドカーで風を感じながら、隣で運転してくれているタケゾーとも今日のことで言葉を交わす。
 完全に踏ん切りがついたかと言えば嘘になるが、それでも今回の選択でアタシの進むべき道は決まった。

「今のアタシには空色の魔女っていう、みんなを守れるだけの力がある。偶然手に入れた力だけど、技術者としての好奇心よりも、今はこの日常を守っていきたいと思っただけさ」
「そういうところ、本当に昔からの隼らしいな」
「それにさ、アタシが星皇カンパニーに勤めたら、研究で缶詰になっちゃうかもよ? それでタケゾーに会えなくなるのは、アタシも嫌だからね」
「そ、そういう恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言うのも、実に隼らしいな」

 そんなアタシの決意を、普段通りの調子でタケゾーに語る。
 途中、ヘルメット越しでも分かるほどにタケゾーの顔が赤くなったのが見えたが、こうやって軽くタケゾーをからかうのも楽しい。



 ――今のアタシが一番やりたいのは、こういった日常を守ることだ。
 もう父さんや母さん、タケゾーの親父さんのような人々を失いたくない。



「あっ、そうだ。ついでだからさ、玉杉さんや洗居さんにも会って行かない? 何て言うか、日常成分をチャージしたい……みたいな?」
「なんだよ、日常成分って……。でもまあ、俺もあの二人に会うのは賛成だ。空色の魔女の正体を知ってるのも、俺を除くとあの二人だけだからな」
「だね~。事情を知ってる人がいると、話もしやすいってもんよ。タケゾーも今日はアタシと飲みに付き合えよな~」
「無茶言うな。俺に飲酒運転をさせる気か?」
「……あっ、そっか。バイクだったや」

 そんな日常に想いを馳せながら、アタシ達は夕暮れの道をバイクで駆けて行く。
 今回は選ばなかったけど、アタシも別に技術者としての道を閉ざすわけじゃない。



 ――ただ、今は空色の魔女としての役目を優先したい。
 デザイアガルダという倒すべき仇敵だっているのに、まだ投げ出すことはできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

桔梗の花咲く庭

岡智 みみか
歴史・時代
家の都合が優先される結婚において、理想なんてものは、あるわけないと分かってた。そんなものに夢見たことはない。だから恋などするものではないと、自分に言い聞かせてきた。叶う恋などないのなら、しなければいい。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...