空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep76 知り合いで揃って飲もう!

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「こんばんはー! おっじゃましまーす!」
「こんばんは。お疲れ様です」

 陽も暮れ始めた頃、アタシとタケゾーは玉杉さんが経営するバーへとやって来た。
 今日はお客さんの入りも多いようで、一際店内が賑わっている。

「お~? 幼馴染カップルのご来店か~? まあ、こっちに来て座りな」
「どうも~、玉杉さん。とりあえず、濁酒どぶろくね~」
「彼氏ができても、酒飲みは相変わらずか……」
「アタシの燃料、お酒だから」

 カウンター席の方から店長である玉杉さんの声が聞こえたので、席に腰かけながらまずは一杯注文。
 別に酒で流したい気分じゃないけど、アルコールがないと生体コイルも稼働できないからね。仕方ないね。

 ――こんな体になったものだから、車が苦手とか関係なく免許は取れそうにない。

「お二方とも、お疲れ様です。タケゾーさんは何か注文なされないのですか?」
「俺は帰りがバイクなので、アルコールは遠慮しておきます」
「タケゾーさんはバイクを運転されるのですか? 私も初耳です」
「まあ、今日の隼とのデートで初めて出しましたから」

 洗居さんも相変わらずこの店での業務用メイド服を身に纏い、タケゾーへと声をかけてきた。
 普段は清掃ばかりしてるイメージのある洗居さんだけど、この店ではちゃんと接客もするんだよね。

 ――本人はそれを『清掃用務員としての修行の一環』と言ってたけど、本当に役立つ場面ってあるのかな?

「空鳥さん。デート後にぶしつけではありますが、こちらは次の清掃業務ミッションのシフト表です」
「洗居さん、ありがと! それにしても、今日はお客さんが多いね」
「近くでコスプレイベントがあったのです。私も今日の昼間はそちらに参加させていただきました」
「あー……。そういや、洗居さんのメイド服って元々はコスプレ趣味だったね」

 洗居さんからシフト表を受け取りながら尋ねてみると、どうやらこの近くでコスプレイベントが行われていたのが理由のようだ。要するにイベントの打ち上げってことか。
 お客さんをよく見てみると、確かに髪型や上着の下の服がそれっぽい感じの人もいる。
 洗居さん自身も参加していたとのことだが、そういえばこの人って『超一流の清掃用務員』の他に『有名メイドコスプレイヤー』の肩書も持ってたんだっけ。
 一応はアタシも仕事上は洗居さんの部下だけど、いまだにこの人の全容が見えてこない。結構な謎である。


 ガシャン!


「あー!? 頼んだ酒をこぼしてしまったー!?」

 謎の上司、洗居さんのことを考えていると、お客さんの集まったテーブル席の方でトラブルがあったようだ。
 男性客が注文したお酒をこぼし、テーブルの上が酒まみれ。なんだかもったいない。

「失礼します。こぼれたお酒をお掃除いたします」

 そんな状況であっても、洗居さんの対応は早い。
 アタシの傍からいなくなったと思うと、次の瞬間にはもうお酒をこぼしたお客さんのテーブルまで移動していた。
 そしてそのまま、布巾で素早くテーブルを磨き上げて綺麗にする。
 流石は洗居さんだ。超一流の清掃用務員は伊達じゃない。

 ――てか、さっきの動きが速すぎて、アタシも目で追えなかったんだけど?
 洗居さんって、普通の人間だよね? 清掃関連の時だけ、異様に能力が上がり過ぎてない?

「おお……! 本当に洗居様がお掃除してくれた……!」
「この店ならば、洗居様がお掃除する姿を間近で見れると踏んだ僕の計算は完璧でしたね」

 そしてもう一つ気になるのは、洗居さんが掃除したテーブル席にいたお客さんの反応だ。
 どうにも、洗居さんに掃除してもらいたくて、わざとお酒をこぼしたような様子が伺える。
 確かにメイド服で掃除する洗居さんの姿は絵になるが、そのためにわざとお酒をこぼすのはあんまりではないだろうか?

 ――お酒に謝れ。後、ついでに洗居さんにも。

「隼ちゃんも色々と思うところはあるだろうが、洗居も特に気にすることなく仕事してんだ。ああいう客でも、大目に見といてくれ」
「そうは言ってもだよ。この店の店長として、お酒がもったいないとか思わないの?」
「お代はもらってるから、店が潤うならそれでいい。正直、洗居目当ての客もいるから、それで酒を注文するならいくらでも注文してくれ」
「現金だ……!」

 アタシが少し顔をしかめてさっきの様子を見ていたのに気づかれたのか、玉杉さんが注釈のように言葉を挟んでくる。
 まあ、この店は玉杉さんの店で、洗居さんもこの店の従業員だ。知り合いとはいえ客でしかないアタシが首を挟むことでもなし。

「……あっ、そうだ。この話、玉杉さんにもしておいた方がいいよね」
「お~? 何かあったのか~?」

 洗居さんは相変わらず接客&清掃中だが、アタシは濁酒を口に運びながら一つ思いつく。
 鷹広のおっちゃんが持ち出した縁談の件だが、あの話の裏にはアタシが失った工場を取り戻すという話もあった。
 それならば、差押人である玉杉さんにも当然話が行ってるはずだが――

「隼ちゃんの叔父さんが工場を取り戻すだって? 何の話だ? 俺はそんなこと、何も聞いてないぞ?」
「え? 玉杉さんも知らないの?」

 ――意外なことに、玉杉さんは何も知らされていなかった。
 アタシがこれまでの一件を語っても、チンプンカンプンといった様子で首をかしげている。

「あの叔父さん、かなり一人で勝手に話を進めてたんだな。玉杉さんに話を通さないと、工場のことはどうにもならないだろ」
「どうにも、あの鷹広とかいう叔父さんは焦ってんのかもな。下手に交渉を先延ばしにしちまえば、俺があの工場と土地を他所に売っちまう可能性だってあると思ってんだろよ」

 タケゾーと玉杉さんはその話について、それぞれが思うところを語ってくれる。
 いずれにせよ、鷹広のおっちゃんの勝手さが目立つよね。おっちゃんなりに工場を取り戻す考えはあるんだろうけど、こうも勝手をされるのは迷惑だ。
 たとえそれでうまく工場が戻って来たとしても、その前提条件が縁談って時点でお察しだけどね。

「あーあ。やっぱ、すんなり美味しい話ってないもんだよね。工場が戻ってくる話かと思えば、縁談なんて持ちかけられるし。星皇カンパニーに勧誘されたとしても、断った方がよかったし」
「まあ、人生なんてそんなもんだ。全部が全部甘い話なんて、それこそ裏を勘ぐるべきだ。若いうちからそういう経験をしておくのも、いい勉強にはなんだろよ」
「流石に妻子持ちであっち系の人相な人が言うと、説得力が違うねぇ」
「人相は余計だっての」

 口にする濁酒とは違い、人生と言うものにそこまで甘い道はない。今日一日のあれこれを振り返ると、酒のように身に染みて分かる。
 でも、それもまた経験だ。簡単に甘くはならない道であっても、別に全く甘味がないわけでもない。

 ――今だってこうして、彼氏のタケゾーを含む人々との日常は、アタシにとって甘いひと時だ。
 今はこれで十分。熱燗のようなスパイスの中に、ほんのちょっぴり甘味があればそれでいい。

 ――なんて詩は、アタシのガラに似合わないかな?



「……この店だ。わしが交渉するから、あんたは隣で見ててくれ」
「キハハハ……! それで構わんでぇ。ワイかて、ただの付き添いに過ぎへんからなぁ」



 そうやってちょっと甘い気分に浸っていると、店に新しいお客さんが来たようだ。
 入って来たのは男二人。片方の男は迷彩柄のロングコートにフードを被り、顔にマスクとサングラス、手袋も身に着けて肌を全く見せていない。
 あまりに怪しさマックスな風貌。関西弁のような口調も耳に新しい。

 ただ、片方の声はアタシにもよく聞き覚えがある。
 というか、この声ってさっきから話題に出てた――



「なんだ? 隼もこの店にいたのか?」
「た、鷹広のおっちゃん……?」
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