空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep82 都合よく情報が手に入った!

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「あんたがあの工場を売り飛ばしたせいで、ただでさえ余計な手間がかかってるんだぞ?」
「あ、あの時はそっちが金を早急に用意するよう、せがんで来たからだろう?」

 アタシが排気口から下にある部屋を覗いてみると、なんとさっきのジャラジャラ男と鷹広のおっちゃんが話をしていた。
 何という幸運。こんなことって、本当にあるもんだね。
 こっそり聞き耳を立てる限り、どうにもおっちゃんが怒られている様子。それと、あのジャラジャラ男もそれなりの地位にはいるみたいだ。もしかすると幹部とかかな?

「とにかく、今は空鳥夫妻が遺した研究データの入手を優先しろ。大凍亜連合と関わった以上、途中で抜けることは許さないぞ? いざとなればあんたにだって、牙島を差し向ける」
「わ、分かっておる……」

 おっちゃんは一通り怒られると、一人で部屋から出て行った。
 それにしても、狙いはやっぱりアタシが持ってるUSBメモリみたいだね。大凍亜連合に引き渡すというのも、タケゾーの推理通りだ。
 あの極秘研究データについては、どうあっても大凍亜連合に渡すわけにはいかないか。

「チッ。せっかく力を与えてやったのに、使えないおっさんだ」

 部屋に残ったジャラジャラ男は一角にあったソファーに座りながら、グチグチ言いつつタバコを吸い始めている。
 部屋の様子を一通り見た感じ、ここはあのジャラジャラ男の専用部屋ってとこかな? 幹部的な立場の人間の部屋なら、有益な情報も手に入りそうだ。
 そして机の上に置いてあるのは、これまた都合のいいことに仕事用っぽいパソコン。
 ダクトに隠れたアタシには全然気づく様子もないし、こんなの『どうぞご覧ください』と言ってるようなものだ。

「そいじゃ、ちょーっとパソコンの中にお邪魔しますね~。LAN線、LAN線~」

 というわけで、まずはダクト内の配線からLAN線の端子を拝借。規格には合わないけど、生体コイルからの電磁波を使えば、腕時計型ガジェットにも接続できる。
 そこから後は簡単。パソコンの画面にも映らないように、バックグラウンドでハッキングだ。

「チッチッチ~。最新式のセキュリティパッチが適用されてないね~? この情報社会において、そいつは迂闊なんじゃな~い? 反社組織だったら、尚更見られたくないものだってあるし……さ!」

 ホログラムディスプレイにフリック入力しながら、アタシはどんどんとセキュリティを破っていく。
 ファイヤーウォールもなんのその。この程度のハッキングなんて、空を飛ぶ次ぐらいに簡単だ。
 そうやってハッキング自体はなんともあっけなく成功。ジャラジャラ男にも気付かれてないし、早速中を見せてもらおう。

「なになに~? 『空鳥に極秘研究データの入手を命令中。後から分かったことだが、空鳥が金を用意するために売却した工場にデータが隠されていたため、余計な手間がかかっている』……と。どうにも、おっちゃんは大凍亜連合に関わってはいれど、無計画にことを進め過ぎてるみたいだねぇ」

 まず目についたのは、ジャラジャラ男が記したと思われる業務日記。軽く目を通してみるが、事態そのものはおっちゃんや大凍亜連合にも想定外の方向に動いているようだ。
 アタシの工場を勝手に売り飛ばした件についても、色々と愚痴のように記されている。
 アタシ個人の思いとは別として、やっぱり工場を勝手に売り飛ばすのは失態だったんじゃないかな?

「ん? ここにアタシの両親の借金のことも書いてるけど、玉杉さんはあくまで他の融資元への返済窓口にすぎないってことか。一部は大凍亜連合も融資元になってるけど、おっちゃんが返済を焦ったのもこれが原因なのかな?」

 ただ、その他にもおっちゃんが勝手に返済した借金についても記載がある。
 借金回収の窓口を玉杉さんに一本化することで、複数の融資元を一元管理。こうやる方が回収もしやすいみたいな話を聞いたことがあるような、ないような。
 玉杉さんもこういう背景があるならそう言って欲しかったけど、たぶんアタシに心配をかけたくなかったんだろうね。
 今でこそここまで関わっちゃってるけど、大凍亜連合なんて反社組織となんて、普通は関わらないのが一番だ。

「大凍亜連合としても、あの借金は早々に回収したかったんだろうね。てか、間に玉杉さんが入ってて助かったや。もしも玉杉さんがいなかったら、あのUSBメモリがアタシの手元に渡ることもなかったね」

 ただ、改めて玉杉さんには感謝する。巡り巡って玉杉さんがいなければ、空色の魔女も今のように活躍できなかったわけだ。
 アタシが今ハッキングに使っているこの腕時計型ガジェットだって、USBメモリに入っていた研究データを参考にしたもの。
 パンドラの箱のような極秘データも眠っていたし、大凍亜連合だって狙っていたわけだ。そこは不幸中の幸いと言うべきか。



「……あれ? なんだこれ? 研究データっぽいけど……『GT細胞』?」



 そんな簡単ハッキングしたパソコンの中身だが、反社のフロント企業には似つかわしくないものまで入っていた。
 『GT細胞』と言うものの研究データらしく、思わずそっちに気が行ってしまう。
 本命である鷹広のおっちゃんの捜査はできているのだが、こうやって研究データがあるとそっちに気が行くのは、技術者の性だよね。
 ただ、問題なのはその内容の方で――

「『ゲノムトランス細胞』……。略してGT細胞……。これってまさか、父さんや母さんの研究と同じもの……?」

 ――少し見ただけでも、そこに記されているものがパンドラの箱にある研究データと関連ありそうなことが伺える。
 一通り目を通すが、このGT細胞というものもヒトゲノムを変異させ、人間を別の存在に作り変える技術と見える。
 それでも両親のものほどヒトゲノムを解析できていないのか、ここにあるのは劣化版とも言える。
 GT細胞自体がウィルスに近く、適合しない人間によっては最悪命を落としそうな設計だ。

 ――大凍亜連合がパンドラの箱を狙ってたのも、このGT細胞を改良するためだったのかな?

「それにしても、こっちはすでに実用例もいくつかあるのか……。現状で二件、被験者のコードネームが上がってるけど――」

 もうここまで来ると、技術への恐怖心も麻痺してくる。すでに昨日の段階で、両親が遺したパンドラの箱を見た影響もあるのだろう。
 こっちもダクトの中で潜入捜査中だし、下手に大声を上げるわけにはいかないのだが――



「――ッ!? コ、コードネーム『バーサクリザード』に……『デザイアガルダ』……!?」



 ――続きに記されていた被験者のコードネームを見て、思わず大声を上げそうになる。
 なんとか右手で口を押えて堪えるが、まさかこんなところでデザイアガルダの名前が出るとは思わなかった。
 だが、よく考えてみればあり得る話か。大凍亜連合がヒトゲノムについてのデータも入ったパンドラの箱を狙っているのなら、それと同類のGT細胞を使ったデザイアガルダがいてもおかしくはない。
 元々は警察組織で付けたコードネームだったけど、大凍亜連合でも定着しちゃったのか。

「もう片方の『バーサクリザード』はアタシも知らないや。直訳すると『狂戦士トカゲ』? 名前だけ聞くと、デザイアガルダよりもショボく感じちゃうね」

 知らないコードネームも載っているけど、今は気にしなくてもいいか。
 デザイアガルダみたいなバケモノがまだいるみたいだけど、アタシも一度にあんなバケモノを何体も相手にはできない。

 ――それよりも、仇敵であるデザイアガルダが大凍亜連合と繋がっていたのは思わぬ収穫だ。
 もっと調べたいところだけど、アタシも一応は清掃業務でここに来てるわけだし、一度洗居さんの元に戻って――



「ギィヤァアア……!!?」

「え!? な、何!? この悲鳴!?」



 ――そう思ってダクトを引き返そうとした矢先、廊下の方から振り絞るような悲鳴が聞こえてきた。

「お、おい!? 何があった!?」

 部屋にいたジャラジャラ男も悲鳴を聞き、慌てて廊下へと出てくる。
 アタシも息を殺し、恐る恐る廊下の上にあった排気口から下を見てみると――



「ッ!? き、牙島!? お前、なんでウチの人間を殺した!?」
「あぁ、すんまへんな。こいつが余計なことするもんやから、つい嚙み殺してもうたわ」
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