空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep83 正体不明のバケモノじゃんか!?

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「か、噛み殺しただと……!? ど、どうしてそんなことを……!?」
「いやな。こいつがワイの素顔が気になる言うて、しつこく付きまとって来たんや。ほんでそれにムシャクシャしたもんやから、ムシャムシャしてやった。なーんつって」

 排気口から覗いた光景を見て、アタシも思わず息を飲まずにいられない。
 アタシが昨日も見た全身迷彩関西人――牙島きばしま 竜登たつと
 その足元には首から大量に血を流し、血だまりの上で倒れこむ大凍亜連合の構成員。
 ここから見ただけでも分かる。あの男はすでに死んでいる。

 ――血の匂いがここまで漂ってきて、思わず吐き気を催してしまう。
 あの牙島という男までいたという事実よりも、今は眼下に広がる凄惨な光景が頭に焼き付いて離れない。
 そして、何よりも恐ろしいことが一つ――



 ――牙島は大凍亜連合の構成員を、本当に『噛み殺して』しまったようだ。



「あー、マッズ。やっぱこないなマズいことやっとる組織やと、血ぃまでマズくなるんやな」
「チィ……! 本当にイカれた男だ……! 総裁もよく、こんな男を用心棒として雇う気になったものだ……」

 牙島は相変わらず素肌一つも見せないが、口元に付けているマスクは赤く汚れている。
 どう見ても足元で死んでいる男の血だ。話を聞いていても、首元に噛みついて頸動脈を噛み切って殺したことはアタシにも分かる。

 ――この男は吸血鬼やゾンビといった何かだろうか?



「うっ……!? こ、これはどういう事態でしょうか……!?」

「あ、洗居さん……!?」



 そんな下手な殺人現場よりもグロテスクなことになっている場所へ、タイミング悪く洗居さんが姿を見せてしまった。
 流石に超一流の清掃用務員と呼ばれる洗居さんでも、ここまで血で汚れた現場なんて衝撃的すぎる。
 口元を両手で押さえながら、体を震わせて後ずさりしている。

「あー、見られちまったか。この掃除は内部で済ませたかったんだが、見られた以上は仕方がない。牙島、あの女はお前が好きにしていいぞ」
「ほぅ? そらぁ、ええ話でんな。ワイもこないにマッズい血ぃを口にしたから、ああいう綺麗な姉ちゃんの血ぃで口直しをしたかったとこや」
「あ……ああ……!?」

 そして当然、殺害現場を見られてしまったことを、大凍亜連合が見逃すはずもない。
 ジャラジャラ男に命じられ、牙島が洗居さんの方へとゆっくり歩み寄っていく。
 洗居さんは恐怖心により完全に体が硬直し、逃げる以前の状態だ。



 ――これは流石にアタシも無茶をするしかない。
 洗居さんを見殺しになんてできるはずない。



「変身! 空色の魔女! ここに推参!」
「そ、空色の魔女だと!? ど、どうしてここに!?」
「ほぉう? こいつが噂の正義の女ヒーローちゃんって奴か」

 余計なことを考える暇もなし。即座に空色の魔女へと変身すると、洗居さんを守るようにその眼前に立つ。
 そんな空色の魔女アタシの登場は向こうにとっても衝撃的だったのか、ジャラジャラ男は驚きながら身構える。

 ――ただ、牙島の方はどこか余裕そうで、空色の魔女アタシを見ても軽く関心を抱きつつも、顔色一つ変えていない。
 顔も完全に隠してるから、そもそも顔色なんて分からないけど。

「そ、空鳥さん……!?」
「安心して、洗居さん。軽く相手をしたら、すぐにここを逃げるからさ」

 アタシの背後で洗居さんが怯えながらも心配そうに声をかけてくれるが、今回はアタシも逃げることが優先だ。
 前日にタケゾーに言われた通り、ここは身の安全が第一。逃げるは恥というのも状況次第だ。

「チィ! どっちにせよ、テメェも逃がしがしねえ! その清掃用務員の女と一緒にここでくたばっちまいな!」


 バキュンッ! バキュンッ!


 ジャラジャラ男の方もアタシの登場に動揺はしていたが、気を持ち直すとすぐに拳銃を取り出し、こちらに二発発砲してくる。
 これはかえって好都合だ。まずは電磁フィールドを展開し、銃弾を二発とも止める。

「はい、残念! アタシに銃弾は効かないのでした! これはいらないから、あんた達に返すよ!」

 そのまま止めた銃弾を両手で一つずつ握り、その両手に電気を螺旋状に流し始める。
 お得意の即席コイルガン。狙うは敵二人の額だが、威力はしっかり調整して強めのデコピンレベルに抑える。


 バシュンッ! バシュンッ!


「あがっ!?」

 それが命中することで、ジャラジャラ男の方は見事に気絶。生憎とアタシはこれでもヒーローで通ってる。ヒーローが命を奪うのはアタシのポリシーに反する。
 これで隙を作るつもりだったのだが――



「あたっ。銃弾を飛ばし返すとか、中々やるやんけ」
「え!? き、効いてない!?」



 ――牙島の方は全く怯みもしなかった。
 並の人間なら気絶するレベルだったのに、まるで小石がちょっと額に当たったぐらいにしか感じていない。
 人間離れしたバケモノだとは思っていたが、これは本当にただ者ではなさそうだ。

「おもろいなぁ、魔女の姉ちゃん。こいつはちょいと、ワイも全力でやってみたくなるわ」
「認めてもらえたのは光栄だね。だけど、乙女のスケジュールはいつだって過密なのさ。あんた一人に時間は割きたくないのよね」
「ええやんけ、別に。それに、ワイかて興味があるんや。魔女の血ぃて人間と同じ赤色なんかとか、どないな味がするんかとかなぁ……!」

 さっきから口にする言葉といい、もはや全てが狂人の域だ。
 こんな奴の相手をしている余裕はない。こっちには洗居さんだっている。
 逃亡優先。今回の空色の魔女はクールに退散させてもらう。

「デバイスロッド、アウトプット! 洗居さん! それに掴まって!」
「は、はい!」

 まずはデバイスロッドを出力すると同時に、廊下の先にあった窓目がけて飛行を開始させる。
 洗居さんもアタシの言葉通りロッドにしがみつき、脱出を開始する。

「キハハハ! あのクールな姉ちゃんだけ逃がして、ワイとは踊ってくれるってことかいな!?」
「バーカ! アタシが一緒にダンスと洒落込む相手は決まってるよ! あんたはここでお留守番さ! アディオス!」

 アタシは笑う牙島の眼前で一人残るが、別に勝負をするつもりはない。
 アタシの第六感が告げている。こいつには一発お見舞いしておかないと、逃げ切る隙すら作れない。

 だからバックステップを取りつつ、ガジェットからのトラクタービームで近くの防火扉を引っ張り――


 ドガァァアッ!!


「キハハハ! おもろい手品やないかい! こらぁ、ワイも一本取られたかいなぁ!」

 ――牙島を壁とサンドイッチする。
 それを終えれば、後はアタシも走ってデバイスロッドに搭乗。窓ガラスを突き破って外へと逃げだす。

 ただ、さっきの一撃でも牙島には隙を作るのが精一杯だった。
 普通の人間なら挟まれて動けなくなるものを、牙島は余裕そうに笑いながら片手で支えて堪えていた。
 もしかすると、あれでも牙島には足りなかったのかもしれない。その気になれば、そのままアタシ達を追ってきていたかもしれない。
 それでも幸い、牙島がこれ以上追ってくることはなかった。

「ハァ、ハァ……。た、助かりました。空鳥さん……」
「こっちこそ、不可抗力とはいえ危険な目に遭わせちゃってごめんね。洗居さん」

 しばらくは大凍亜連合のフロント企業とも距離を取りたいので、高度を上げて洗居さんを抱えながら飛行を続ける。
 洗居さんが襲われた件については、大凍亜連合でさえも予想していなかった牙島の凶行が原因だ。
 アタシの責任ではないのだろうが、それでもどこか心苦しいものがある。

 何より気にするべきは、洗居さんがあんな光景を目の当たりにして、心に傷を負わないかだが――



「心残りなのは、あの血や窓ガラスのお掃除ができなかったことですね。超一流の清掃用務員として清掃業務完了ミッションコンクリーニングできなかったとは、情けない話です……」
「え? そっち?」



 ――全然大丈夫そうだった。
 あんな現場を目にしても、何より掃除のことを優先する。

 ――清掃用務員って、えげつねぇ。
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