空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
117 / 465
魔女と旦那の日常編

ep117 パンドラの奥底を覗き見てしまった。

しおりを挟む
「俺も身に着けてた、ジェットアーマーの制御回路の完成版? それがパンドラの箱に? でも、それっておかしくないか?」

 アタシがパンドラの箱から見つけた技術について口にすると、タケゾーも興味を持って反応してくる。
 それもそうだろう。タケゾーはかつてこの技術による精神汚染で、空色の魔女アタシと戦ったこともある。

 ――あの時はアタシもボコボコにやられちゃったけど、そんな人が今は旦那様だなんて、人の縁とは奇妙なものだ。

 それはさておき話題に上がった脊椎直結制御回路なんだけど、これはタケゾーが以前に装備していたジェットアーマーに搭載していたものと種類的には同じだ。
 だが、性能面は全くと言っていいほど違う。
 プログラムされたAIが人体への悪影響を及ぼすことはなく、課題であった神経インターフェースによる精神汚染も解消されている。
 この脊椎直結制御回路ならば、タケゾーが装着した時のような暴走も起こらないだろう。
 まさに完成版。パーフェクトエディションと言うものだ。

 ――だからこそ、アタシもタケゾーと同じように不可解なものを感じてしまう。

「こんな完成版があったのなら、ジェットアーマーにも搭載すればよかったのに……」
「やっぱり、隼もそこが気になるか。事前に完成版があったのなら、とっくに搭載してないとおかしかったよな」
「もしかすると、実稼働時の問題点はまだ何か存在するのかもね。それにこの脊椎直結制御回路だけど、これ自体はジェットアーマーに搭載することが最終目的ではなかったと見える」
「それこそがケースコーピオンに繋がってくる話ってことか」

 思うところは多々あれど、今の本題は別にある。
 この脊椎直結制御回路なのだが『脊椎に直結させることで動作精度と制御速度を向上させる』ことを目的としているが、回路自体はもっと汎用的な用途を持っている。
 言うなれば、人間が持つ神経の代用。この回路を利用すれば神経麻痺の医療手術や、人間が持つ手足と同等の動きを持つ義肢だって作れる。
 さっき見た人工骨格技術と併用すれば、人間に新たな腕だって生やせそうだ。

 ――それこそ、アタシが戦ったケースコーピオンの尻尾と同じように。

「ただここまで高度な回路があっても、それを迅速かつ応用的に判断できるメインAIがないと、実際にケースコーピオンみたいな動きはできないね」
「だとすると、そいつも中に人が入ってたってことか?」
「いやー……そうは見えなかったと言うべきか、そうも見えたと言うべきか……」

 そうしてケースコーピオンの正体に迫れそうな技術を繋いでいくが、どうにも全部を結び付けられない。
 アタシが戦った時に見たケースコーピオンの動きは機械的に命令に従いながらも、どこか人間のように応用する判断力があった。
 近くにあったものを即座に投擲可能な武器と判断した場面なんか、アタシ的にはただのAIの動作には見えないんだよね。
 AIなんてものは所詮プログラム。空想の世界のように、そんなに都合よく判断できるAIなんてそうそうあるものではない。
 ああいいった動きは、人間レベルの思考能力があってこそできるものだ。

 ――でももしかすると、このパンドラの箱にはそういう『人間と同レベルの思考能力を持つ人工知能AI』が眠っていてもおかしくはない。

「ここまで来ると、ケースコーピオンのことを徹底的に調べたくなるよね」
「まだ一回しか会ってないけど、あの大凍亜連合も絡んでるんだ。そこは空色の魔女様としても気になるか」
「まあね~。敵さんもかなりのスペックを秘めてるし、こっちも先に打てる対策があれば、打ってはおきたいからね」

 アタシは再びパソコンを操作し、パンドラの箱の中身を覗いていく。
 ケースコーピオンの裏に大凍亜連合が潜んでいるのは確かだ。大凍亜連合ともデザイアガルダや牙島といった因縁がある。
 何よりアタシも空色の魔女という正義のヒーローとして、反社組織を野放しにはしたくないのよね。
 敵を知るためにも、何か有益な情報は掴んでおきたいものだ。

「お? 『精神のAI転移』だって? これとかそれっぽいかな?」

 そんな中でアタシが見つけた一つの研究データ。『AI』とタイトルに書いてるだけでも、どこか匂ってくる。
 その項目にカーソルを合わせると、思うがままにクリックして中のデータを閲覧してみる――



「ハァ!? な、何よこれ!?」
「ど、どうしたんだ!? 急に血相を変えて!?」



 ――そうして覗いてみたデータなのだが、その概要を目にしてアタシは目玉が飛び出るかと思った。
 技術や理論については難しくてすぐには読み解けないが、それでもこのデータが指し示す目的は見えてくる。

「それって、どういう研究なんだ?」
「ひ、人の脳信号をそのまま記録媒体に移植して、AIとして機能させる技術とでも言うべきか……」
「つまり、人の脳をベースにしたAIの作成か?」
「いや……これはそんな簡単な話じゃないかもね」

 ヒトゲノムまで解析していた両親ならば、脳信号までプログラムのように解析していてもおかしくはない。
 それをベースにAIを組み立てれば、アタシがケースコーピオンに感じた『人のようで人ではない』感覚を帯びたAIだって実現できそうな話ではある。

 ――ただ、これは単純に『人の脳をベースとしたAIを生み出す』という枠組みにも収まらない。

「この技術で完成したAIは、もうAIなんてレベルじゃない。これで作られるのは『ベースとなった人間と同じ人間の誕生』と言っても過言じゃない。言うなれば『魂のトレース』とでも言うべきか。もしもこの技術と人工骨格や神経伝達回路を併用すれば――」
「それは『人間の複製』にもなりえる……!?」

 アタシはタケゾーにも分かるように、おおまかな表現で説明してみる。
 それを聞いたタケゾーもだが、説明したアタシ自身も思わず寒気を感じてしまう。

 この技術を使えば人の脳をベースにAIを組み立てるだけに収まらず、人の脳そのものをプログラムとして扱うこともできる。
 パンドラの箱にあった他の技術と併用すれば、それは人間のクローンを生み出すことだって不可能じゃない。

 ――そうなればまさしくもって『新人類の誕生』と言ってもいいレベルの話だ。
 GT細胞と同じように、この技術も創造主たる神への挑戦状だ。

「……タケゾー。この研究はアタシが口で説明するより、よっぽどヤバいものだってことは事実だよ。下手をすれば、人類の歴史さえ塗り替えかねない」
「隼の言いたいことは、俺にも何となくだが分かる。パンドラの箱の技術はすでに世界に出回ってるものもあるらしいが、まさかこれもその一つだったりするのか……?」
「正直、考えたくない話だね。……だけど、これもまた父さんや母さんがアタシに託したかったものの一つだってのは確かさ」

 一度パンドラの箱をパソコンから取り外し、アタシは少し考えこむ。
 最初はケースコーピオンという新たなヴィランを調べる目的だったけど、どうにも簡単な話で終わりそうにはない。
 ケースコーピオンは本当にこれらの技術を使って生まれたのか? 大凍亜連合は何が目的であんなバケモノを生み出したのか?
 疑問は膨らむばかりだが、一つだけ確実に言えることがある。



 ――アタシ達の敵は、想像よりはるかに強大だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...