空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep141 狂戦たる爬虫人類:バーサクリザード

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 アタシに対して狂った笑みを浮かべながら声を荒げ、ついに牙島が襲い掛かって来た。
 その動きはやはり人間と言うか、哺乳類のそれではない。完全に爬虫類の動きだ。
 頭を下げた前屈姿勢をとり、恐ろしいスピードで両手の爪をこちらへ振るってくる。

「本当に速いね! 見た目だけじゃなく、筋肉も爬虫類と同じってこと!?」
「そういうこっちゃ! 元々の人間の姿を捨てた分、ワイの体のGT細胞の強化率は半端やない! 中途半端に人間らしく生きるのがアホらしなる力やで? キーハハハ!」

 アタシも生体コイルの稼働率を上げて反応速度を上げるも、牙島のスピードはそれを上回ってくる。
 爬虫類特有の圧倒的な瞬発力。いくらアタシが超人的なパワーを発揮しても、相手はそもそも人間の枠組みを超えている。
 どうにかしてデバイスロッドで捌きながら戦うが、こちらの方が劣勢。どんどんと後逸しながら押し込まれてしまう。

「ほれ、どないした!? いつもは軽口挟みながら、チャキチャキ戦っとるんやろ!? もうちっと気張って、ワイを楽しませてくれやぁあ!!」
「く、くっそ!? こいつ、見た目も中身も正真正銘のバケモノだ……!」

 顔をしかめながら立ち向かうアタシと違い、牙島はこの戦いを楽しむように笑っている。
 牙島には自らが人外の存在となってしまったことへの後悔はない。あるのはただ、戦闘への渇きを満たす欲求だけ。
 GT細胞がそうさせたのか、はたまた牙島が元々そういう人間なのか。アタシと戦うこと自体に喜びを感じている。
 こっちにそんな戦闘狂な性分はなく、圧倒的な脅威に襲われる恐怖が勝ってしまう。

 ――ここまで追い込まれたのはジェットアーマー以来か。
 いや、牙島はタケゾーとは違う。アタシの正体を知ることで手を止めたりはしない。

「でもアタシだって……ここで散るわけにはいかないもんでねぇぇええ!!」

 それでも、アタシは自らに喝を入れるように奮い立つ。
 ここで牙島を打ち倒し、ケースコーピオンと居合君を連れてタケゾーの待つ工場に帰る。アタシ自身の日常へと戻る。
 牙島相手に加減を考えている余裕はない。デバイスロッドに高圧電流を帯電させ、超強化されたスタンロッドで反撃とばかりに殴りかかる。


 バチギィィイイン!!


「おぉ? ちーっとは根性見せてくれたみたいやが、その程度じゃまだまだワイには届かへんなぁ……!」
「なっ……!? き、効いてない……!?」

 その一撃はなんとか牙島の脳天を捉え、アタシの手にもロッド越しに確かな手ごたえがあった。
 だが、肝心の牙島はまるでダメージを受けていない。打撃の衝撃も電流も、頭に食らいながら普通に耐えている。
 スタンロッドの一撃も『痒くもない』と言いたげなぐらいに余裕を見せている。

「ワイの皮膚は人間とは違うんやで? あらゆる爬虫類をベースとした鱗やぞ? 人間相手にすんのとは、一緒と思わんこったなぁあ!!」
「うぐぅ!?」

 まるでアタシの困惑に答えるような言葉を口にしながら、牙島はその迫った間合いを活かしてアタシに爪で斬りかかってくる。
 確かに牙島は人間ではない。だが、それを言うならアタシがこれまで戦ってきた相手とて同じことだ。
 それでも、牙島にはこれまでの相手と決定的に違うところがある。

 GT細胞によって、牙島の肉体表面は亀の甲羅のように固く構築されている。その影響なのか、人間の肉体よりもはるかに電気抵抗値も高いと見える。
 そのパワーどころか肉体構築の隅々に至るまだ、アタシの予想なんてまるで通用しない。

 なんとか後ろに下がって爪の直撃は避けるも、あらゆる面での脅威がアタシの想像を完全に超えてくる。

「ハァ、ハァ……! あんたみたいな怪物、他にいないだろう――ぐぐぅ!?」
「ワイ以外の怪物の存在を気にするより、まずは我が身を気にするこっちゃな」

 そして、アタシはさらなる窮地に追い込まれてしまう。
 躱したと思った牙島の爪だったが、わずかに頬をかすめて傷が入ってしまった。
 それだけならば大したダメージでもない。だが、アタシの体は傷の深さと裏腹に、突如として重くなる。

「こ、これって……毒……!?」
「ああ、せやで。ワイの体内で生成した爬虫類由来の毒が、この爪にはたーんと仕込まれとる。致命傷までは打ち込めんかったみたいやが、体の自由は効かへんようになってきたかぁ?」

 アタシも直感で我が身に起きた変異の正体に気付く。
 牙島の尖った爪に仕込まれた毒。わずかに食らった程度だが、それでもこちらの神経を蝕み、動きも意識も奪ってくる。

「く、くっそ……! まさか、タケゾーの時も……!?」
「ああ、思うとる通りや。あん時はラルカが予定変更でちゃちゃ入れおって、あの坊主を助ける羽目になってもうたがな」
「た、助ける羽目……? な、何を言って……?」

 思った通り、以前にアタシをデザイアガルダとのゲームに誘い出した時、その材料としてタケゾーに打ち込んだ毒と同じものだ。
 あの時のタケゾー程症状は重くないが、それでもこうして戦いの場に身を置いている最中での毒は辛すぎる。
 ただでさえこちらが押されていたのに、この毒はまさにこの戦局を決定づけるトドメにもなりうる。
 左手で顔を押さえ、どうにかして毒の回る体を振るわせようとするが、意識が朦朧としてそれも叶わない。

 こうなったら、多少は無茶でもさらに燃料を投入し、細胞を強化して一か八かで無理矢理デトックスを――



 シュルルゥゥウ!!


「あぐぅ!?」
「何をするつもりなんかいのぅ? その酒を飲んで、さらにパワーアップでもできんのかいなぁ? まあ、させへんけどなぁあ!!」



 ――そう思って懐から酒瓶を取り出したところで、アタシの首元に何かが巻き付いてくる。
 牙島が素早くアタシとの間合いを詰め直し、その蛇やトカゲのような尻尾を巻きつけてきたのだ。
 息が苦しくなるほどの締め付けだ。そのパワーもケースコーピオンの尻尾アームと遜色ない。

「い、一日に二度も首を絞められるなんて、そうそうある体験じゃないよね……!」
「軽口叩いとるみたいやが、そうも言うてられへん状況やろ? 魔女の姉ちゃんは中々味のある相手やったが、まだまだワイが全力を出すには及ばへんなぁ!」

 締め付けられる首の息苦しさから、デバイスロッドも酒瓶も落とし、必死に尻尾に掴みかかってアタシも抵抗する。
 だが毒で弱ったアタシのパワーでは、とても抵抗にすらならない。
 牙島はそんなアタシの姿を見て、ニタニタ笑いながら口を開けてその長い舌をチラつかせてくる。

「残念やが、ここいらでしまいにしよか。最後は姉ちゃんの脳髄に舌をぶっ刺して、その脳みそをジュルジュル吸い尽くして味わうとすかのぅ……!」
「こ、この……! バケモノが……!」

 恐ろしいことを口にしながら、牙島はその長い舌の先端をアタシの頭へ狙いすましてくる。
 ケースコーピオンの時のように、今回はこのままおとなしく殺されるわけにはいかない。それでも、牙島の圧倒的なまでの力に抵抗する術がない。
 このままむざむざ殺されるなんて嫌だ。せっかくショーちゃんのことも分かったんだ。
 家ではタケゾーが帰りを待ってくれてるし、居合君の面倒もアタシは見ないといけない。
 空色の魔女としても、牙島や大凍亜連合のような悪党を野放しにはできない。



 ――それらの後悔が連なっても、アタシがこの窮地を脱する方法はない。



「さあ! 今回こそはワイの手ぇで、赤い血の華を咲かせてもらうでぇえ!!」
「うぅ……ぐぅ……!」

 牙島はアタシへのトドメの言葉を叫びながら、ついに舌の先端を鋭く突き刺すように動かしてくる。
 このままアタシはこのバケモノに脳髄を吸われて死ぬのか。これがアタシでは到底及びのつかない、狂気の世界の洗礼というものか。

 ここで諦めたくはない。どうにか力を振り絞り、最後の抵抗を示すが――



 ズバァァアンッ!!


「あんぎゃぁあ!? な、なんやぁあ!? ワ、ワイの尻尾がぁあ!?」
「ゲホゲホッ!? ハァ、ハァ……! こ、今度は何が……?」



 ――舌がアタシの脳天に届くより前に、牙島が突如叫び声をあげた。
 それと同時にアタシの首も拘束から解放され、床へと崩れ落ちる。
 咳込んで空気を求めながらも、一つだけ理解できることがある。牙島の尻尾はそれこそトカゲのように切断され、そのおかげでアタシは助かったのだ。

 だが、ならば誰が牙島の尻尾を切断したのだろうか?
 尻尾も牙島の体表面と同じく、硬い鱗に覆われている。簡単に切れるものではない。
 それでも切断面はあまりに綺麗で、牙島の守りをも上回る斬撃で斬られたことが伺える。



 ――ただ、アタシはここまでの斬撃を放てる人間を一人だけ知っている。



「お姉さん! 隼さん! ボク、助けに来た! もう大丈夫!」
「い、居合君……?」
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