空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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星皇カンパニー編・転

ep195 ここまで企んだ意図が見えてしまった。

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「とりあえず酒を飲めば治るらしいが、本当に大丈夫なのか?」
「ンク、ンク――プハァ。まあ、体の傷はなんとかなるんだけど、ちょいと心の傷の方が辛いかな……」
「国家直属傭兵団、将軍艦隊ジェネラルフリートか……。まさか、そんなとんでもない組織まで出てくるとはな……」

 タケゾーのバイクに乗せられて、アタシ達は自宅へと帰って来た。
 ラルカさんにやられたダメージもアルコールで生体コイルの稼働率を上げ、回復細胞の機能でだいぶ良くなってはいる。
 だが、ここまでに至る急激な戦いと絡み合った事実で受けた心痛は、たとえ酒で酔えても誤魔化しきれない。

 ――星皇社長の野望、その裏に潜む将軍艦隊ジェネラルフリートという国家直属の傭兵集団、その先兵であるラルカさんへの惨敗。
 先行きの見えない恐怖と、アタシが『一般人の中でのヒーロー』であることを突き付けられたことで、心の中にはどうしようもない不安が渦巻いてしまう。

「隼さん、ごめんなさい。ボクが捕まったせいで、パンドラの箱を奪われた……」
「ショーちゃんのせいじゃないよ。アタシもかなり油断しちゃってたからさ」
「俺も作戦を立てておいて、こんな結末になったことについては申し訳ない……。ただ、隼とショーちゃんが無事だったのは本当に良かった……」
「アタシも今はショーちゃんとタケゾーが無事だったことが一番だよ。ショーちゃんには怖い思いをさせてごめんね……」

 今回はアタシ達の完全敗北。ラルカさんの手の平で踊らされ、パンドラの箱まで奪われてしまった。
 それでも幸いなのは、人質にされたショーちゃんが無事に帰ってきてくれたことか。
 タケゾーにも声をかけられながら、アタシはショーちゃんの体を優しく抱きかかえてその喜びに浸る。

 ――かつての同級生の生まれ変わりの人造人間であるショーちゃんだが、今のアタシにとってはまごうことなき我が子だ。
 こうして抱きかかえると体温だって感じるし、こうやって無事である事実に思わず涙を流してしまう。

「……隼。パンドラの箱については、俺からも言いにくいんだが……」
「『諦めた方がいい』……って、言いたいのかな? 正直、アタシもここまで完膚なきまでやられちゃうと、そう思いたくもなるよ」
「星皇社長がパンドラの箱を使って何をするかは俺にも読めない。だがここまで来たらパンドラの箱を奪い返すよりも、これから起こる事態に身構えておいた方がいいのかもな……」

 それでも気になってしまうのが、パンドラの箱の行方。今頃はもう、ラルカさんの手で星皇社長に渡されてしまった頃合いか。
 アタシも星皇社長の野望は気になるが、今はまだ精神的な疲れからかまともな思考も働かない。
 これからの事態に身構えつつも、今は休息をとるしかなさそうだ。

「タケゾーもショーちゃんも、今日はもう寝よっか」
「そうだな。隼が一番疲れてるだろうし、まずは体を休めてくれ」
「隼さん、武蔵さん、おやすみなさい」

 アタシ達一家三人はそれぞれの寝室へと向かい、今日はもう休むことにする。
 夕食もお風呂も飛ばしちゃったけど、それ以上の疲労が全員に積もっている。星皇カンパニーの偵察から今まで神経を張りっぱなしだったのだから、無理もない。

「……星皇社長は一体、何を考えてるんだろ? パンドラの箱の技術に、時間を逆行させる理論の完成まで目指して……」

 とはいえ、アタシはベッドの上でどうしても星皇社長のことを考えてしまう。
 休もうと思ってベッドに入った時に限って、どうにも頭は素直に休んでくれないものだ。

「星皇社長はアタシやタケゾーといった人達には危害を加えたくないみたいだけど、それでもお義父さんやショーちゃんという犠牲者は出してる……。そこまでやることに意味があるのか、はたまたもう引き返せないところまで来てるのか、それとも――」

 ベッドの上でアタシは両手を頭の下に回しながら、天井を眺めて思考を続けてしまう。
 本当は今のうちに休んだ方がいいのは分かってる。星皇社長のワームホールがあれば、それこそ明日には世界規模の異変が起きてたっておかしくはない。

 ――いや、そう考えるのは浅はかか。
 星皇社長は犠牲者こそ出しているが、それは大凍亜連合という委託していた外部組織の勝手な判断と見える。
 本当の目的は別のところにあり、それだけの犠牲を出しても歩みを止めたくないほどの目的ではあるのだろう。

 だが、別に世界征服とかそんなことを考えてるようには思えない。
 そんなことを考えているのなら、もうとっくにアタシのことなんて始末してる。



「父さんや母さんも、なんで最初はそんな技術開発に協力したのかね? 鷹広のおっちゃんの口車に乗せられたんだろうけど、そんなことを娘のアタシが知れば――……娘?」



 色々とベッドの上で寝そべりながら考えていたら、アタシの中にあった疑問が歯車のように噛み合い始める。
 そもそもの話、アタシの両親はどうして星皇社長の研究に乗ったのだろうか? 鷹広のおっちゃんが言いくるめただけとは考えにくい。
 こんな研究は始める前から、とんでもない危険性をはらんでいることは承知だったはずだ。

「神経伝達回路、ヒトゲノム、人工骨格、精神移植……人造人間の誕生……。メビウスの輪による時空の逆行、過去の閲覧と受信……。そして、自分の子供……」

 だが、アタシの頭の中ではそれらがパズルのピースのように合わさり始め、一つの可能性へと導いていく。
 パンドラの箱の技術を組み合わせることで、ショーちゃんのような人造人間を生み出すことはできる。
 ワームホールによって過去への干渉はできずとも、その過去に存在する情報は受信することはできる。

 ――そして、人造人間に『別の人間の魂』を宿すことも可能だ。
 ショーちゃんの時はハッキングされた研究データが不完全だったが、今はその研究データも全て星皇社長の手中にある。

 さらに星皇社長が今のアタシと同じように考えているのならば――



「ま、まさか……そんな……!? 星皇社長の目的って……!?」



 ――アタシの中で組み合わさった仮説が、一つの結論へと辿り着かせた。
 もしもこの仮説が事実ならば、アタシはその断片を知らずにはいられない。

 ――今のアタシには、星皇社長がここまでの凶行に及んだ意図が理解できてしまう。

「タケゾー、ショーちゃん……ごめん。アタシちょっと、早くこのことを調べないと気が済まない……!」

 理解できてしまった以上、アタシはもう居ても立っても居られない。
 ベッドから飛び起きて空色の魔女へと変身し、自室の窓から一人で工場を抜け出す。

 タケゾーとショーちゃんに黙って出る無礼は承知の上だが、アタシはすぐにでも星皇社長の目的を知りたい。
 打ち立てた仮説が事実かどうかを確認し、星皇社長がどういう想いを抱いているのかを知りたい。



 ――そのためにも、アタシはただ一人で星皇カンパニーへと向かう。
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