空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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星皇カンパニー編・結

ep217 ヴィラン狂騒曲:決戦のワームホール

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 ズドォォオン!


「くうぅ!? な、なんとか着地はできたか……! 隼は大丈夫か!?」
「アタシは大丈夫さ。だけどそれ以上に、この光景は……」

 滑空していたバイクは保育園の前で無事に着地し、アタシとタケゾーは眼前の光景に目を向ける。
 正直、目を疑いたくなってくる。タケゾーも働いていて、アタシも馴染み深い保育園。

 ――そんなアタシにとっても大切な日常の場所が、ワームホールという時空の狭間に飲み込まれている。



「……本当にここまで来たのね。どうやら、あなたは死なない限り、私のことを追って来るようね」
「せ、星皇社長……!?」
「こ、これが星皇社長……!? だが、この蜘蛛のような姿は……!?」



 あまりの光景に唖然とするアタシとタケゾーのもとに、このワームホールを生み出した張本人も姿を見せてきた。
 もうアタシが技術者として尊敬した面影もなく、我が子の復活という目的のためにその身さえも捧げた最後のヴィラン。

 ――星皇カンパニー代表取締役社長、星皇 時音。アタシが名付けたヴィランネームをプレジデントスパイダ。

 その人は背中から生えた蜘蛛のような六本のアームで体を支え、アタシ達を冷たい目で見下ろしてくる。

「これまでの空色の魔女の衣装と違うけど、それは私への対抗策か何かかしら?」
「ああ、そうさ。アタシはあんたを止めるために――いや、助けるためにパンドラの力を使い、こうやってまた会いに来たのさ」
「私を助ける……ですって? 一体、私を何から助けると言うの? 私の目的はただ一つ。この場所で失った時を――我が子を取り戻すことだけ。そのためならば、どんな犠牲だって払う……!」
「その囚われた過去から、アタシは星皇社長を救いたくて――」
「黙りなさい! そういった詭弁はもう聞き飽きたわ! 私は何があってもこのワームホールを使い、息子を蘇らせる! それを成さないことには、私に未来なんてないのよ!」

 アタシは星皇社長に呼びかけるが、聞く耳など持ってはくれない。
 やはり、星皇社長には我が子の復活以外は見えていない。どれだけ犠牲を払おうとも、その過去を取り戻すことしかもう頭には残っていない。

 ――この人のこんな姿は見たくなかった。技術者として尊敬した人が過去に縛られ苦しむ姿を、アタシもこれ以上見ていられない。
 だからこそ、アタシは意地でも星皇社長を止めてみせる。

「……星皇社長。アタシはとにかくあんたを止める。そのためにこうして両親が託してくれた力を使い、みんなの想いを背負ってまで、ここにやって来たんだ」
「……そう。あくまで私の敵として立ちはだかるつもりなのね。……止められると思うなら、止めてみなさい。私の計画はもう、最終段階まで来てるのよ……!」
「せ、星皇社長!? どこへ!?」

 そんな星皇社長はアタシ達に構ってなどいられないとばかりに、その六本のアームで身を跳ねさせながらワームホールの中へと飛び込んでいく。
 保育園全体を覆い、今ワームホールの中は星皇社長が望む『息子さんが亡くなった過去の時間』へと接続されているはずだ。
 ただ、その規模もアタシの身に感じる圧力のようなものも、以前に大凍亜連合が作り出したものとは比べ物にならない。
 このワームホールの中はもうアタシでも想像もつかないような時空の乱れにより、星皇社長が目指すもののための別世界が構築されている。
 星皇社長自身も我が子の復活以外を考えていない今、中に入って無事に帰って来れるかも分からない。



「……タケゾー。ここで待ってて。アタシ、星皇社長を追うよ」
「ほ、本当に行くのか? 隼?」



 それでも、アタシはこのワームホールの中へ入らないといけない。
 星皇社長がどれだけ過去を求めようとも、このままワームホールを放置すればこの街一帯さえも飲み込まれてしまう。
 規模がここまで拡大してしまった以上、もはやダムの中に貯まった時空の乱れという濁流も、いつ溢れ出すか分からない。
 そのためにもアタシは一人でワームホールへ飛び込もうとするが、それを横にいるタケゾーは不安そうに眺めてくる。

「このワームホールってものの中に入ると、もう戻ってこれないような圧みたいなのを感じるんだ……。これはドーム球場で大凍亜連合が作ったものとは次元が違う……」
「タケゾーの直感通りだよ。アタシだって宇宙規模のエネルギーがここまで拡大した先に、何が待ってるのかなんて予測しきれない。……だけど、これを止めないといけないのは確かだし、アタシでないと止められないのも事実さ」
「だ、だったら、俺も連れて行ってくれないか? 俺だってせめて、隼の傍にいたいと言うか……」

 タケゾーのような知識に疎い一般人でも、このワームホールの脅威は十分すぎるほどに感じ取れている。
 もしかすると、星皇社長自身も目的を優先するあまり、その後のことまで考えられていないのかもしれない。

 ――いや、後のことを考えてないのは当然か。
 ヴィランを脱獄させ、世間に混乱を招いている間にこんな計画を実行してるんだ。もう大企業の社長としての地位だって、かなぐり捨てる覚悟なのだろう。
 目先の目的のために、後も周囲も見えているはずがない。
 そんな脅威がこの先に待ち受けているからこそ、タケゾーは自らも一緒に行くとまで言い出してくれる。

 ――その気持ちはありがたい。アタシのような奥さんを本気でここまで心配してくれる旦那様なんて、世界中どこを探してもタケゾー以外にいないだろう。
 だけど、そんな『死ぬ時は一緒だ』みたいな同伴はアタシも嫌なんだよね。そもそも、アタシだって死ぬ気はない。
 タケゾーにだってここに残り、アタシの帰りを待ってもらうという、何よりも重大な役目があるからね。



「……ねえ、タケゾー。ちょっとこっち向いて」
「え? な、何をす――むぐぅ!?」



 だからそんな湿っぽい気分を吹き飛ばす意味でも、アタシはタケゾーの首に両腕を回して互いの顔を近づける。
 そしてアタシの方が少し背伸びして、その唇同士を合わせてキス。タケゾーは目を丸くしてたけど、アタシの方は目を閉じてその感触をよく味わう。

 ――こんな危機的な状況で、随分とロマンチックなキスじゃないかって?
 まあ、それはそうかもね。でもさ、決戦前はロマンチックもお約束じゃないかな?

「――プハァ。言っとくけど、これは別れのキスとかじゃないからね? アタシなりのゲン担ぎって奴さ」
「……本当に唐突な奴だ。その言葉、俺は本気で信じるぞ?」
「ああ、信じて頂戴な。またこうしてキスしたり、一緒に出掛けたり、喧嘩したり悩んだり……。そんなアタシとタケゾーの日常のためにも、アタシは必ず帰ってくる」
「……ああ! 俺は待ってる! 隼がその役目を成し遂げて、必ず俺のもとへ帰ってくれることを……!」

 唇を離すとお互いの目を見てしっかりと言葉で約束を交わし、その後にお互いの体を強く抱き寄せ合う。
 空は酷く曇っており、ワームホールという脅威だって眼前にある。とてもではないが、愛し合うなんて場所には似つかわしくない。

 ――だけど、そんな光景の中でもアタシは心から誓うことができる。
 星皇社長も助け出し、ワームホールも収束させてここへと帰ってくる。



 ――アタシの目的も帰るべき場所も、タケゾーが用意してくれる。



「……よし! じゃあ、アタシは行って来るよ!」
「ああ! 行ってこい! 俺は隼の勝利を信じて、ここで待ってるからな!」

 そんな二人だけの誓いを終えてタケゾーの体から離れると、アタシはワームホールへと体を向ける。
 もう迷ってもいられない。迷う必要すらない。



 ――アタシはタケゾーに見送られながら、星皇社長が待つ時空の狭間へと飛び込んだ。
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