空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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星皇カンパニー編・結

ep216 ヴィラン狂騒曲:ターニングベヒモス

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 保育園へ続く最後の一本道で雄たけびを上げて待ち構えるのは、大凍亜連合総帥の氷山地にして、星皇社長の計画の鍵にもなるヴィラン、ターニングベヒモスだった。
 あいつはワームホール生成のために星皇社長と一緒にいるものだと思ってたけど、もうそれも必要ないってこと?

 ――まさか、過去に逆行するワームホール自体はもう完成してて、氷山地も足止めに回って来たってこと?
 だとしたら、なおのことここで足止めなんて食らっていられない。ワームホールを止めるためにも、こいつの相手なんてしてられない。

「とは言っても、あいつは厄介なんだよね……! 運動に伴う熱ベクトルの反転――向かってくる運動エネルギーの無力化能力。この一本道で待ち構えられると、それだけでバイクを止められちゃうか……!」
「かと言って、迂回路なんてないぞ!? どうする!?」

 氷山地の体内に仕込まれたナノマシンは星皇社長の計画の要であると同時に、純粋な戦闘能力としても恐ろしい。
 こちらもバイクを飛ばして近づいていくが、このままだと交戦は必須だ。倒さずに突破というのは無理がある。
 まだその後ろに星皇社長も控えてるし、こんなところで消耗はしたくないけど、ここはアタシが一度相手をして――



「……隼さん、武蔵さん、先に行ってて。ここはボクが相手する」
「ショ、ショーちゃん?」



 ――アタシもバイクから飛び降りて交戦を覚悟していると、サイドカーに乗ったショーちゃんが瞳に力を宿しながら語り掛けてきた。
 そしてこちらの返答を聞くよりも早く、持っている高周波ブレードを使ってサイドカーとバイク本体の連結部分を――


 スパァアン!


「ショ、ショーちゃん!?」
「ひ、一人は危ないぞ!?」
「大丈夫! ボク、あの人の相手する! 二人は先を急いで!」

 ――切断することで、この一本道で二手に分かれた。
 アタシとタケゾーが乗ったバイクも氷山地のいる方角へと向かうが、ショーちゃんが連結を切り離した反動で車体は大きく逸れて、こちらは道の脇へと逸れてしまう。。
 ショーちゃんの乗ったサイドカーだけが氷山地へと突っ込んでいき、そのショーちゃん自身も居合の構えで交戦態勢に入っている。

 本当はアタシもここで加勢したい。だけど、それはショーちゃんの想いを無駄にしてしまうことになる。
 ここはショーちゃんを信じよう。たとえそれが母親として恥ずべき行為でも、アタシにとってのショーちゃんは我が子以上の存在でもある。

 ――アタシとも肩を並べて戦える、信用に足る仲間だ。

「覚悟ぉおお!!」
「インサイドブレードかぁ!? おどれ一人なんぞ、儂ん能力の前では無力で――」


 ガチイィィ ――ズパンッ!


「――ガアァ!? ん、んなアホな!? 儂ん能力が通用せえへんのか!?」

 何より、ショーちゃん自身も無策で氷山地に挑んだわけじゃない。
 氷山地の両手は確かに相手の攻撃を無効化できるが、それも完璧ではない。
 ショーちゃんが振るう刀は居合によって『振動のエネルギーを纏う』ことができる高周波ブレード。その振動は氷山地に打ち消されてしまうが、居合そのものの斬撃までは消えない。
 振動のエネルギーを盾のようにして使い、居合による一閃を加える戦法。一撃の威力こそ落ちてしまうが、あれならば氷山地にも太刀打ちできる。

「こ、小癪な小童がぁあ!! 儂は大凍亜連合の総帥やぞ!? たかがかつての実験体ごときが、図に乗るんとちゃうわぁああ!!」
「実験体じゃない! ボクは佐々吹 正司! きちんとした人間で、隼さんと武蔵さんの子供! 二人のためにも、お前を倒す!」

 サイドカーから飛び降りた後も、ショーちゃんはスピードで氷山地を翻弄し、着実に攻撃を加えていく。
 アタシも後ろを見ながらその姿を見るが、もう何一つ不安になる要素もない。その力強く刀を振るう姿には、かつてアタシの同級生だった剣技の天才、佐々吹 正司の姿が重なって見える。

「タケゾー! このまま前進して! ショーちゃんなら大丈夫さ! アタシ達はショーちゃんが繋いでくれたこの道を突き進むことだけ考えよう!」

 ショーちゃんが氷山地の足止めに回ってくれたおかげで、アタシとタケゾーはその脇を抜けて前へと進むことができた。
 今のアタシにできるのは信じることだ。モデル・パンドラの力だけでなく、こうしてここまで導いてくれた仲間や家族を信じ、今はとにかく目的地へと急ぐ。

「そ、それは俺も理解した! だが、さっきの反動で車体のバランスが……!?」
「うおおぉ!? あと少し……もうこの道を下れば保育園なのに!? こうなったら……アタシもいっちょ踏ん張りますか!」

 ただ、ここで少しだけ問題発生だ。氷山地をやり過ごせたのはいいのだが、サイドカーの連結をショーちゃんが切断した時の反動で、タケゾーのハンドル捌きがおぼつかなくなっている。
 目的の保育園はこの下り坂を下った先にある。こんなあと少しのところでバイクが倒れるなんて、それはそれで縁起がない。

 ――だったら、アタシがモデル・パンドラで得た力で、このまま一気に飛んでいきますか。

「タケゾー! しっかりハンドルを握っててね!」
「何をする気だ!? 隼!?」
「ちょいとした空の旅さ! まあ、オフロードバイクでアクロバットなことをする気持ちで身構えて頂戴な!」

 タケゾーに詳細を説明する暇もなく、アタシはバランスが崩れたバイクを抱えるようにしがみつく。
 タケゾーもアタシの言葉通りにハンドルを握り、頭を下げて衝撃に備えてくれる。

 ――感覚はデバイスロッドで空を飛ぶ時に近い。
 モデル・パンドラを身に纏ったアタシならば、このバイクそのものをデバイスロッドと同じように扱うことだってできる。


 ブゥゥウン ――フワァ


「バ、バイクが飛んだ……!?」
「飛行と言うよりは、滑空って感じだけどね。だけど、これで保育園までひとっ飛びさ!」

 その力を発動させて、アタシはタケゾーも乗ったバイクごと宙を舞う。
 転倒をギリギリで回避し、バイクを滑空させたまま保育園目指して飛んでいく。
 ぶっつけ本番の連続だけど、だからって怖気てなんかいられない。

 ――アタシ達がこうして走り続けた意味は、もうその眼下に迫っている。



「見えた! あの保育園に――って、あれは!?」
「ま、まさか……以前にドーム球場で見たものと同じワームホール……!?」



 そして、ようやくアタシとタケゾーはその目的の場所を目にすることができた。
 滑空を続けるバイクの先に見えるタケゾーも勤める保育園。星皇社長の息子さんが亡くなった、全ての始まりとも言える場所。

 だが、そこにアタシもよく知る保育園の姿などない。あるのはアタシ達も以前に目にした、時間の歯車を逆回転させるワームホール。
 ただ、その規模は以前とも桁違いだ。



 ――保育園全体がワームホールに飲み込まれ、完全にその全容を消していた。
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