空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
319 / 465
将軍艦隊編・破

ep319 月華暗行の右舷将:ルナアサシンⅡ

しおりを挟む
「流石はミス空鳥です。電気工学に関してはお詳しいようで」
「そ、そんな細工までしてたなんて……!?」

 アタシ的には決まったと思った放電デバイスロッドも、ラルカさんは完全に読み切っていた。
 電気を生み出す能力を持ち、電気工学にも自信があるアタシからすれば、電気の流れなんてすぐに読める。
 ラルカさんが装備しているライフルもコートも、果てはバイクに至るまで電気が表面を這うようにコーティングされ、地面に突き刺さりながら回転するスパイクタイヤへ電気が誘導される仕組みなっている。
 スパイク部が地面に突き刺さることで、アースとしての機能を持たせているのか。
 タイヤの素材もよく見ると、普通のゴムとは思えない。おそらく、導電性を持った素材だ。

「本当にアタシの相手をするのを計算に入れてるね! そんなに給与査定の恨みが大きいの!?」
「別に給与査定に関係なく、これぐらいの準備はして当然です。あなたの能力に対する正当な評価と捉えてください」
「嬉しいけど嬉しくない! 本当にこの人、隙も容赦もなさ過ぎて怖い!」

 ラルカさんは牙島のような超人パワーがあるわけでもなければ、ベレゴマのように変則的な武器を使っているわけでもない。
 フレイムのようなとんでもサイボーグなわけでも当然ないのに、準備や計算による策略と磨き上げた『人間の技』だけでアタシを追い詰めてくる。

 ――最強のヴィランってのは、もしかするとこの人なのかもしれない。

「く、くそ! 包囲も厳しくて、これじゃ突破できない!」
「ごめん、タケゾー! もう少し踏ん張って!」
「ドライバーのミスター赤原も精神的に限界なようですね。こちらもそろそろ、任務完了といたしましょうか」

 バイクを運転してくれてるタケゾーの限界も近い。こんな緊迫した状況で、ずっと運転しているのだから当然だ。
 タケゾーのためにも早くこの戦況打開したいけど、アタシには到底思いつかない。
 ラルカさんは再び銃剣付ライフルを振り上げてくるし――



「と、ところでラルカさん! 俺、ずっと気になってたんですけど、将軍艦隊ジェネラルフリートの給料ってそんなに安いんですか!?」
「……安くはないのですが、色々と不満はありますね」



 ――そんな時、タケゾーが運転しながら唐突な質問をラルカさんへ投げかけた。
 確かにアタシも気にはなってたけど、今する話かな? アタシ達、この人に殺されそうになってるんだけど?

「命がかかった仕事ですし、国家規模がクライアントになることも多いので一回の収入は多いです。ですが、裏で大きな仕事というのはそこまで多くもありません。一般的な企業と違い、安定した収入とは言い難いです。そもそも自分は最高幹部の一人ではありますが、特別手当の恩恵もありません。ミスターベレゴマなどは妻子持ちのため子育て支援手当をもらっていますし、ミスター牙島には人外支援手当というものがあります。ですが、自分は結婚もしてませんし普通の人間ですので、何の手当の対象ともならず――」

 そう思ってたんだけど、意外にもラルカさんはタケゾーの質問へ丁寧に答え始めた。
 いや『丁寧に答える』ってより『愚痴ってる』って感じかな? 振り上げたライフルも下ろし、バイクの上で立ちながら天を仰ぎ見ている。
 どことなく哀愁を感じる姿だ。

 ――ただ、ラルカさん視点じゃなければ意外と将軍艦隊ジェネラルフリートって待遇は良さそうだよね。
 子育て支援だけじゃなく、牙島みたいな人外にまで支援が行き届いてるのか。ボスのフロスト博士も組織運営自体はしっかりしてるんだ。
 ラルカさんはその恩恵にあずかれてないみたいだけど。

「自分としてはもう少し、安定した定期収入や将来的な年金制度を安定させてほしいですね。星皇カンパニーで社長秘書をしていた時も、社長から『もう少し若い世代を含む広域的な福利厚生が必要じゃないかしら?』なんて言われてましたし――」
「は、はあ……。ラ、ラルカさんも大変なことで……」
「……おい、隼。今だ」

 ラルカさんは器用にバイクの上で立ち続けたまま、組織内部での待遇不満を漏らし続ける。
 アタシも思わず聞き入っちゃうけど、そこにタケゾーが小声を挟みながらアイコンタクトを送ってくる。

 ――その様子を見て、アタシもようやく理解できた。
 今のラルカさんって、完全に隙だらけじゃん。撃退するチャンスじゃん。
 タケゾーの奴、これを狙って話題を持ち出したのか。確かにラルカさん、職場待遇に不満があるっぽかったし。流石は策士タケゾー。
 だけど、アタシとしてはまだ足りない感じなのよね。洞窟に突撃した時だって、奇襲のパチンコ魔女キックを躱されちゃったし。
 もう少し『こっちと話をしてる』って意識まで逸らせればいいんだけど――



「……あっ! フロスト博士だ!」
「ッ!? ボ、ボス!? 丁度良かったです。今、自分は将軍艦隊ジェネラルフリート内での処遇改善について話を――」



 ――そんな時、アタシの脳内にもナイスアイデアが流れ込む。
 ちょっと明後日の方角に指を向け、あたかもフロスト博士が近くにいるように声を上げる。
 もちろん、本当にいるわけではない。それでもラルカさんは思わずその言葉通りに振り向いてしまう。

 ――ライフルの銃口を向けながらだけど。仮に本当にフロスト博士がいたらどうしたつもりなんだろ?

「……だけど、今がチャンスだぁぁあい!!」
「なっ!? し、しまった……!?」

 とはいえ、これでラルカさんの注意は完全に逸れた。
 後ろを向いているうちに背後からデバイスロッドをぶん回して脳天を狙う。
 流石のラルカさんも反応できず、無防備なままの脳天へデバイスロッドが直撃する。


 バキャァアアンッ!!


「ぐうぅ……!?」
「ラ、ラルカ右舷将!? しっかりしてください!」

 まともに食らったラルカさんはバイクの上に座り直し、一気に後逸していく。
 あの人にまともなダメージを与えられたのって、これが初めてじゃないかな。ラルカさん最大の武器である冷静さを崩せたおかげか。
 とはいえ、まだ完全に逃げ切れたわけじゃない。ラルカさんの部下達が背後からバイクごと支え、失速しながらも追い続けてくる。

「や、やってくれましたね……! ヒーローが騙し討ちなどして、恥ずかしくないのですか!?」
「それぐらいやんないと、ラルカさんの相手はできないってことだよ! これは評価の一つとして受け取っておくんなよ!」

 それでも差はかなり開いた。隊列も崩れたし、逃げ切るなら今しかない。
 ラルカさんは恨み言を吐いてくるけど、こっちもここでやられるわけにはいかない。
 タケゾーはバイクのギアを上げ、アタシはビームライフルで追走の相手をする。

「あなた達もあなた達です! ああいう場面ぐらい、臨機応変に割り込んで対応してください!」
「す、すみません……。ラルカ右舷将の将軍艦隊ジェネラルフリート内での待遇を考えると、こちらも悲しくなってしまいまして……つい……」
「気持ちだけ受け取っておきます……! とにかく、今はあの二人の追走を続けましょう。処遇改善の話は後でボスに直談判します……!」
「そ、そうですね……。我々もラルカ右舷将に落ち着いてもらわないと、統率が取れません。今は任務優先でお願いします……」

 ラルカさん達五台のバイクは何やら内輪のあれこれを語りながらも、追走自体をやめる気配はない。
 とはいえ、一度距離が開いたことは大きい。アタシもビームライフルで応戦すれば、簡単に差を縮めることなどできない。

「隼! もうすぐ公道に出るぞ! またひとっ飛び頼む!」
「あいよ! 街まで出ちゃえば、連中も簡単には追って来れないはずさ! もう一息、頑張るとしますか!」

 ラルカさんを完全に撒くことはできなかったけど、将軍艦隊ジェネラルフリートの戦力はかなりやり過ごしつつある。
 ここで将軍艦隊ジェネラルフリートから逃げ切ることに成功すれば、また反撃の機を伺うことも――



「……仕方ありません。後詰の部隊に連絡願います。公道へ出てきたところに集結させ、最後の勝負に出ます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...