空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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将軍艦隊編・急

ep340 現天に飛来せし電脳戦艦:コメットノア

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「コ、コメットノアの記憶領域を破壊する……? そ、それってつまり……?」
「……ああ、そういうことさ。オレッチはもう、どんな形でも時音が暴力に利用される姿を見てられない……!」

 アタシにコメットノアの破壊を要望したフクロウさんは、涙を流しながら声を振り絞ってくる。
 確かにアタシ一人ならば、コメットノアに乗り込んで記憶領域を破壊することぐらいはできるかもしれない。簡単ではないけど、今取れる手段はそれぐらいだ。
 ただ、それはフクロウさんの本来の目的を台無しにしてしまうこととなる。この人は奥さんだった星皇社長を救う意味で、今この場にいると言ってもいい。
 それでも目的を『救うこと』から『破壊すること』にシフトした意味は、アタシよりもフクロウさんが理解してる。

「本当にどうか……頼む! オレッチは結局、愛する女の一人も救えなかった……! だけど、あいつが望まない結末だけは回避させてやらないと……!」
「……分かった。言葉はもう十分だよ。後はアタシに任せといて」

 アタシだって、星皇社長自身がこれ以上の暴虐を望まないことは理解できる。アタシもまた、あの人にヒーローとしての責務を託された人間だ。
 託してくれた人の旦那さんにも託され、やるべきことを考えて選ぶ場面でもない。

 ――コメットノアをアタシの手で機能停止させる。頭の中にはそのことだけ考えておけばいい。

「フクロウさんは大丈夫? ガンシップももうじき墜落しそうだけど?」
「安心しな。海面への不時着ぐらいはできる。……それより、時音のことを頼んだ」
「……うん、任せて。後は正義のヒーロー、空色の魔女のお仕事ってね!」

 言葉を交わして覚悟を決めると、アタシはガンシップから飛び降りてデバイスロッドに腰かける。
 ガンシップはどんどん墜落していくけど、あっちの方はもうフクロウさんに任せるしかない。
 アタシはアタシの役目を完遂する。コメットノアの記憶領域を破壊し、この空中戦艦を機能停止させてみせる。

「くうぅ!? 本当に手厳しい弾幕だ! だけど、アタシだって想いを託されたヒーローだ! どんな状況だろうと、役目を果たさせてもらうよ!」

 コメットノアからのビームライフル機銃と電撃魔術玉大砲による弾幕は続き、アタシも必死に空中で回避しながら目を凝らす。
 コンタクトレンズに内蔵した機能とアタシの『電気を扱い慣れた』ことによる第六感があれば、コメットノア全体の電流を感知できる。
 弾幕を回避しながらの観察は疲れるけど、弱音を吐いてる場合じゃない。今ここでコメットノアを止めないと、固厳首相が何をしでかすか分からない。

「艦尾の辺りから伸びる巨大な動力線……あれは白陽炉の方か!? あっちじゃない。探るべきなのは信号線の方で……!」

 回避と観察を同時に行う分、労力だって半端じゃない。アタシの能力でも防御不能な攻撃を前に、あらゆる神経を最大限まで研ぎ澄ます。
 電流の大きさから電線の役目を判断し、電流の向きから脳内による即席の回路解析を行う。
 電気工学には自信がある。いや、今はその自信に頼るしかない。
 根性論になっちゃうけど、そうでもしないとこの状況に耐えられない。

 ――今のアタシに心折れることなど許されない。



「ッ!? 艦首付近に集中する信号線!? コメットノアの記憶領域はあの位置か!?」



 そして、アタシはなんとか目的の位置を探し当てることができた。
 艦首に近い甲板の下。コメットノアの記憶領域――正真正銘の本体がある場所は分かった。
 後はあそこに乗り込んで、アタシの手で破壊するのみだ。


 バシュゥウンッ!


「マ、マズい!? 砲撃がこっちに……!?」

 いよいよ乗り込もうと向きを変えて飛行していると、向こうもこちらの思惑に気付いたのだろうか。コメットノアの電撃魔術玉大砲がこちらを狙いすまし、今までよりも強大な一撃を放ってくる。
 アタシの電撃魔術玉を最大出力にしても、あそこまでの威力にはならない。あんなものを食らえば、命がいくつあっても足りない。
 これはもう、アタシも終わったかも――


 ヒュゥゥウン


「あ、あれ? 弾道が逸れた? な、なんで?」

 ――と思ったけど、砲弾はアタシには当たらず、そのまま空の彼方へと消えていった。
 おかげで目的地へは一気に近づくことができている。だけど、どうにも不自然だ。
 さっきの砲撃はアタシを狙ったはずなのに、どこか『わざと外した』ようにも感じ取れてしまう。

 ――そういえば、以前にも似たようなことがあった。
 VRワールドでフロスト博士の操るコメットノアと対峙した時も、途中で攻撃の手が緩んでいた場面があった。
 フロスト博士にしても固厳首相にしても、コメットノアの機能を完全に掌握しきれてないってこと? おそらくはそうなんだろうけど、アタシが気になるのは『どうして掌握できていないのか?』という部分だ。
 星皇社長のデッドコピーともなれば、機能不全と言い切るのは難しいけど――



「デッドコピー……星皇社長の意志が宿ってる……。ま、まさか……!?」



 ――そう考える中で、アタシの中に一つの可能性が芽生えた。
 もしかすると……本当にもしかすると、この誤作動のような動きはフロスト博士や固厳首相でも制御できるものじゃない。
 いや、そもそもが制御できるできないの話でもない。
 こうなったら、アタシもその真相を確かめないと気が治まらない。


 バギャァアン!


「よし! なんとか辿り着いたか! ここがコメットノアの記憶領域で間違いないね……!」

 弾幕の嵐を抜けて甲板を突進で突き破り、ようやく目的であるコメットノア本体と対面できた。
 どんなスパコンよりも高度な媒体で作られたサーバー。間違いなく、これこそがコメットノアの記憶領域――星皇社長のデッドコピーそのものだ。

「……一か八かだけど、やってみる価値はありそうか。サーバーアクセスを分析して、デバイスロッドをコネクタとして応用すれば……!」

 サーバーの回路も読み取り、アタシはある一ヶ所へデバイスロッドの先端を構える。さっきの違和感から、破壊するよりも前にどうしても確認したいことがある。
 いつも思うんだけど、アタシってぶっつけ本番でいろんなことをやりすぎだよね。今からすることも一度は経験してるけど、流石にデバイスロッドで再現できる保証などない。
 だけど、このデバイスロッドは星皇社長から託された力でもある。今はその機能を信じるしかない。

 ――これをサーバー内部にアクセスできる回路に介入させ、アタシは今一度電子の海の中へと潜り込んでみせる。



「プログラムが生んだゴーストでも構わない。星皇社長、もう一度あんたと話をさせてもらうよ……!」
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