空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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紅い闇編

ep419 タケゾー「恐ろしい背景が見えてきた」

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「……フロストの旦那。それは本当の話かい? クジャク様はソラッチャンの叔母さんっしょ? そんな人が天鐘に加担して、挙句の果てにソラッチャンへ危害を加えたってのかい?」
「情報を整理する限り、そーゆーことだろーよ。空鳥がクジャク様のタワーから向かってきたことだって、そーでもねーと説明がつかねーしよ。まー、クジャク様からしてみれば、姪っ子の空鳥を次期ウォリアール王位に据えたくて仕方ねーのかもな」
「だ、だからって……!?」

 フロスト博士が語る話を聞いて、俺も思わず言葉を失う。フクロウさんも『信じられない』といった様子で真相を確かめるが、フロスト博士が嘘をついている様子もない。
 この場においてウォリアールの重鎮であるフロスト博士が嘘で場を乱すはずもない。それでも、あのクジャクさんが天鐘についたとは考えづらい。

「クジャク様が天鐘の派閥についたってーことは、他の有象無象が味方するのとはわけが違う。あのお方は『マーシャルクイーン』とも呼ばれ、ウォリアールにおける『戦闘権力の象徴』とでも言えばいーか」

 クジャクさんが天鐘に加担したことによるマズさは、フロスト博士の言葉で理解できる。
 つまるところ、クジャクさんは『一人で大半の票を握っている』といったところか。ウォリアールという国家において、戦いの強さが有力視されるためだろう。
 ただ、あの人だって隼が王族に戻るかどうかは、本人の意思に託していたはずだ。
 それなのに、急にこんな派閥争いを始めるとは――



「フ、フロスト博士の言ってることは多分本当だよ……。天鐘の奴もそう言ってたからね……」



 ――俺も一緒になって話の真意を疑っていると、隼が目を覚まして会話に割り込んできた。
 上体をなんとか起こしているが、まだ回復には程遠い。弱々しく体を起こしているのを見て、俺もすぐさま傍に寄り添って支えにはいる。
 あまりに儚く、今にも壊れてしまいそうだ。

「隼、無理するな。今は休んで、必要な話はまた回復してから聞かせてくれ」
「その言葉はありがたいんだけど、アタシも聞いちゃったからには話す必要があると思ってね……。クジャクさんの件については、確かに天鐘も『自分達の味方になった』って言ってたさ。……正直、信じたくなんかないけどね」

 それでも、隼はなんとか自らの知ることを語ろうとしてくる。
 無理はしないでほしいが、言っても聞かないのは隼の責任感の強さゆえか。

「アタシも話が少し耳に入っちゃったからね……。知ってる限りで天鐘に加担してる人間だと、クジャクさん以外にもラルカさんと牙島、さらにはデザイアガルダまでもさ……」
「デザイアガルダもだって……!? 隼の叔母さんだけでなく、あの叔父さんまでもが……!?」
「うん……。ただ、デザイアガルダは自らの意志で加担したとは言いづらいかな。……いや、むしろもうあの人に『自らの意志』なんてものはない。完全に天鐘の操り人形だよ……」
「あ、操り人形って……?」

 隼の語り口はどこか重苦しい。一時的に捕らえられていただけに詳しい情報を知っているが、逆に知っているからこそ辛い現実が見えているのだろう。
 事実、あの隼の叔父さんまでもが叔母さん同様に悪意ある計画に加担しているなど、肉親からしてみれば苦痛でしかないだろう。
 その中で気になるのは、デザイアガルダの現在について。隼も語り辛そうだし、ふとフロスト博士の方に目線を送って伺いを立ててみる。

「……俺様も察するに、デザイアガルダにも新型GT細胞アポカリプスが投与されたってーことだな? あいつは牙島ほどではねーにしろ、元々GT細胞への適応力はあった。ただ『自らの意志がない』なんてなると、投与されたアポカリプスは空鳥みてーな外部デバイス型じゃーねーな。完全に体の奥底にまで植え付けられ、もはや人間とは言えねーほどの変異を遂げてるだろーよ」
「……うん、フロスト博士の言う通りだよ。もうデザイアガルダは――鷹広のおっちゃんは人間じゃない。これまで色々あって、恨んでることだっていっぱいある。だけど、あんな人外に成り下がった姿を見せられたら、アタシもなんて言ったらいいのか分かんないよ……」

 話の筋はフロスト博士にも見えているらしく、隼が見聞きしたことへの推察も交えながら話を進めていく。
 自身の目的のため、天鐘はデザイアガルダを完全な人外へと変異させたってことか? 俺にとっても因縁深い相手だが、そこまで尊厳を汚されるというのはいい気がしない。
 隼も俺と同じ気持ちなのがよく分かる。相手が肉親ならばなおさらか。

「正直、天鐘のことは許せない。デザイアガルダにしたって、アタシはどう向き合えばいいのか分かんない。今だって心のどこかで、ラルカさん達が裏切ったことも認めたくない。洗居さんのことだって心配」
「おいおい、ソラッチャン……。気持ちは分かるが、ちょいと抱え込みすぎっしょ? 今はやっぱ少し休みなよ?」
「うん……分かってる。フクロウさんにも心配かけてごめんね。だけど、アタシはまず一つだけ、どうしても確認したいことがあるんだ」

 まだ目が覚めたばかりで体力は戻っていないのに、隼は眼前の問題を急いでいる。
 だが、そんな焦りは本人も分かっているようだ。分かったうえで、まず優先して知りたいことがあるらしい。



「アタシ……クジャクさんと話をしたい。あの人が本当に天鐘に加担して、こんな真似を認めてるのかどうか。そこをどうしてもハッキリさせたい」



 話を聞く限り、隼もクジャクさん本人と話ができたわけではないようだ。だからこそ、今回の騒動に関する真意を本人の口から聞きたいのが本心か。
 今回俺達夫婦がウォリアールにやってくることとなった理由であり、隼が抱える王位の問題を提唱した人間。そんな人の真意を知らないことには、俺だって納得はできない。

「フロスト博士。どうにかして、クジャクさんと話をすることはできませんか?」
「『話の場を設ける』ってーのは無理だな。クジャク様は国王陛下と同格と言ってもいー人だ。流石の俺様でも取り次げねーよ」
「そうなってくると、やっぱカチコミみたいにするしかない感じ?」
「フクロウの言ー通りだな。今はタワーにもいねーで居場所をくらましてるが、俺様の方で場所を割り出してみるか。空鳥が休んでる間にやっておいてやるよ」

 目下の問題が多い以上、まずは優先順位を決めてやるべきことをやるしかない。隼も不安がっている通り、まずはクジャクさんとの接触が一番か。
 もしもあの人が本当に天鐘と繋がっているのなら、そこから洗居さん救出の糸を手繰り寄せることはできる。

 ――できることなら繋がっていないのが一番だが、それは流石に温い世迷い事か。いずれにせよ、何かの手掛かりは得られる。

「そいじゃ、オレッチ達は退散と行きましょうかね。若い夫婦の寝床にいつまでもお邪魔ってのは忍びないっしょ?」
「クーカカ。そーだな。ただ、オメーらもしっかり休んで、体力を回復しておけってーんだ。……夫婦の営みがしたけりゃ、全部終わってからにすりゃーいーさ」
「え、ちょ……ま、まあ……はい」

 方針も見えたところで、フクロウさんとフロスト博士は俺達の宿泊部屋から退室していった。
 その際に何やら夫婦に関するあれこれを突かれ、俺も思わず反応に困ってしまう。

 ――玉杉さんといい、この辺りの世代の人はそういう話が好きなのだろうか? だが、今は体力回復が優先なのは事実か。

「隼、お前はそのままベッドで寝てるといい。俺も少しだけソファで休ませてもらう」

 俺も疲れたので休みたいが、この部屋にあるベッドは二人用の大きなベッドが一つだけ。隼の方がはるかに体力が落ちてるし、一人で使ってもらうのが好都合だ。

 ――別にこれは隼を思ってのことで、俺が恥ずかしがって逃げたわけじゃない。
 確かに今でも隼と一緒に寝るのは恥ずかしいが、すでに一線は越えた間柄だ。遠慮してるだけで、俺がチキンなわけじゃない。



「……ごめん、待って」
「うおぉ!? ど、どうしたんだ、隼? 急に服の裾を引っ張るなよ?」



 そう自分に言い聞かせてソファに向かおうとすると、隼に後ろから服の裾を掴まれてしまった。
 驚きながらも振り返ってその顔を見ると、なんだか泣きそうな表情をしている。

 ――ヤバい。よく分からないが、ここから先が見えてしまう。
 この保護欲全開のオーラは隼らしくないが、おそらくは――



「アタシと一緒のベッドで……寝てほしい」
「……マジか?」
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