空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep453 大局は決した。だけど――

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「キハハハ……。やっぱ、勘付いとったんやな……」
「まあ、アタシもタケゾーに教えてもらったんだけどね」
「牙島。俺の読みが正しければ、こうして決着が着いた以上は隠す必要もないだろ? 真相を教えてはくれないか?」

 アタシが投げかけた質問に対し、牙島の返事はほぼ肯定と言えるもの。やっぱり、こいつもラルカさんも何か裏があった。
 おそらくはタケゾーが推察した通り、今こうして決着が着くまでの過程さえも操作されたものだ。牙島がここで戦ったのも、言うなれば『一つの手駒として動いた』に過ぎない。

 ――その真相が何なのかは、本人の口から直接語ってもらいたい。

「……残念やが、まだワイの口から真相は話されへん。せやけど、そうやな……一つだけ胸中に眠らせとる想いだけは語ってもええな」
「それって何さ?」
「ワイもラルカも形はどうあれ、ウォリアールという国に――将軍艦隊ジェネラルフリートという組織に感謝はしとる。戦いの中で生きる術しか知らんかったワイらにとって、過ごすべき日常は確かにここにあった。広い世間で『戦争代行屋』だの『鉄砲玉』だの呼ばれようが関係あらへん。……どれだけ外道だ裏切者だと蔑まれようが、恩義だけは裏切らへん」

 牙島が真相を語ることはないものの、その胸中だけは語ってくれる。
 形は違えど、牙島にもアタシと同じような想いはあったってことか。牙島みたいに異形の怪物としてしか生きられないならなおさらだ。
 ウォリアールも将軍艦隊ジェネラルフリートも、戦いの中で生きるしかない人間にとっては代えがたい日常の世界。アタシには想像できなくても、それを守りたい想いだけは理解できる。
 そして、この話からもう一つ分かることがある。

 ――牙島もラルカさんも、天鐘のウォリアール転覆計画には賛同していなかった。

「まあ、後のことはワイの口より、まだあそこで待っとる人間に尋ねた方がええやろな」
「あそこって――あれ? 艦艇がもう一隻……?」

 牙島は語り終えると上体を起こし、海の向こうのある一点を指差す。炎の障壁もなくなり、離れた位置に一隻の艦艇が見える。
 フロスト博士が用意した三隻でも、牙島が指揮する艦艇でもない。そうなってくると、消去法で一隻に絞られる。

将軍艦隊ジェネラルフリートの右舷護衛艦。……ラルカが指揮しとる船や」
「てことは、あそこにラルカさんが……?」
「ああ。あいつ、ホンマに監視に徹しとったな。せやけど、ラルカ自身も天鐘一派の最高戦力や。……お前には行く必要があるんとちゃうか? ……空鳥 隼」

 牙島も言う通り、あの船にいるらしいラルカさんも天鐘一派においては牙島と同格に位置する。大局は決したけど、あの人とも話をする必要はありそうだ。
 それにラルカさんならば、全てを語ってくれるはずだ。

 天鐘が追い詰められていたのに助けもせず、かといってまだコメットノアから見える位置に待機してるんだ。
 その様子を見る限り、まるで誰かを待っているようでもある。その人物に対し、全ての真相を話したいような気がしてしまう。

 ――それはおそらく長きに渡って衝突し、今回の一件でも深く関わったアタシのことだ。



「……ねえ、タケゾー。アタシは今から、一人でラルカさんに会ってくるよ」
「一人で……か。分かった。俺はここで待ってるから、隼が納得いく結末を見てこい」



 アタシも心を決めた。回復用に口にしていたボトルも飲み干して空にすると、タケゾーに渡して準備にかかる。
 コメットノア艦尾側での戦闘もだいぶ落ち着いてきたようだ。クジャクのおばちゃんとフェリアさんだけでなく、将軍艦隊ジェネラルフリートの構成員も本格的に乗り込んでいる様子が見える。
 天鐘一派が補導される姿も見えるし、今ここでアタシにできることなどない。牙島や天鐘が逃げ出す様子もないし、ならば真相究明を優先したい。
 完全回復とはいかないけど、ラルカさんの船まで辿り着くぐらいは問題ない。

「そいじゃ、行ってくるね」
「ああ。一応は気を付けて行って来いよ」
「あんま気を付ける必要もあらへんと思うがな。……まあ、話ぐらいはしてこいや」

 デバイスロッドに腰かけ、タケゾーと牙島に見送られながらアタシは海へと出る。
 目指すはラルカさんの乗った艦艇。その方角に目を向ければ、朝陽が昇ろうとしている。
 まだ月の残った夜空と合わせて、どことなく幻想的な海の景色。目的なんてなければ、この光景をカメラに収めたいぐらいだ。

 ――ただ、ある意味でおあつらえ向きな光景とも言える。
 ルナアサシンと呼ばれるあの人と、太陽の力を宿すアタシの対比……なんてね。



「……見えてきた。本当にアタシのことを待ってるみたいだね」



 少し空を飛び、ポツンと一隻だけ浮かぶ艦艇の真上までやって来た。
 その甲板上に立っているのは一人だけ。赤いセミロングの髪をなびかせ、紺コートを羽織った姿。いかにも殺し屋っぽい手袋まで装着して、こちらに背を向けるように後ろで腕組しながら立っている。

 ――あの人、あの格好でアタシを待つのが好きなのかね。星皇カンパニーとかでも見た姿だ。



「……やはり、こちらに来てくださりましたか。ミスター天鐘によるウォリアールでの反乱の収束、お疲れ様です」
「やっぱ、状況自体は確認してたってことね。だったら、アタシがここに来た理由も分かるかな?」



 アタシが甲板に降り立つと、背を向けたままラルカさんは語り始めてくる。
 その語り口といい、こちらの状況は把握している。把握したうえで手を出さず、あえて静観を貫いていた。
 この人も牙島と同じく、本心から天鐘に従っていたわけじゃない。もっと別の――ラルカさんや牙島にとっては天鐘よりはるかに強大な意志によって動かされていた。

 ――そんなことは鈍いアタシでも理解できる。



「ええ、あなたがここに来た理由は見当がつきます。……自分もそれを語るため、あなたをお待ちしていました」
「だったら、全部聞かせてもらおうかねぇ。どうして、ここまで回りくどい真似をしたのかをさ」
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