空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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狂月明ける空編

ep456 さあ、始めよう! ラストダンスだ!

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「自分と……決闘? あなたは何を言ってるのですか?」
「言葉そのまんまの意味だよ。台本通りの勝利なんてアタシは望まない。ラルカさんだって、負けるための戦いなんて嫌じゃない?」
「まあ……。正直に言えば、そうではありますが……」

 手袋を相手に投げつけて決闘の合図にするのって、中世ヨーロッパの風習だったっけ? まあ、そんなことはどうでもいいか。
 ともかく、アタシは八百長みたいな勝ち方はしたくない。たとえそれが相手の役目でもだ。
 そもそも、ラルカさんにとってもこんな役目は面白くないはずだ。いくら任務とはいえ、個人として思うところはあるに決まってる。

「勝ち負けの結果なんて、正直今は大した話にもならないでしょ。天鐘一派は完全に壊滅。総大将代理の牙島も敗走。ラルカさんの敗北はあくまで保険みたいな感じじゃん」
「それはそうとも言えますが……これが自分の役目です。あなたに勝ってもらわないと困ります」
「個人的には『負けるだけの任務』ってのに不満があっても? ラルカさんはアタシにヒーローとして戦ってほしいんでしょ? だったら、なおのこと言われた通りにはできないね」

 アタシが決闘を申し出ても、ラルカさんはまだ踏ん切りがつかない様子。この人の性格を考えれば仕方ないか。
 だけど、今はアタシの意見を通させてもらう。アタシもヒーローとして、この国の他に救いたいものがある。



「アタシはヒーローとして、ラルカさんの心を救う。定められた敗北なんかじゃなくて、正々堂々と敗北してもらう。……この決闘に乗ってはもらえないかな?」
「……クフ。クフフフ……!」
「……え? あれ? ラルカさん?」



 その想いをそのまま言葉にすると、ラルカさんは突如顔を押さえてうつむいてしまう。
 てか、今笑ってなかった? この人、今でも笑いをこらえてない? そこまで変なこと言ったかな?
 むしろ勝手に台本を変更してるんだし、怒ってもいいような気もするんだけど?

「クフフフ! クーハハハハ! ひ、久しぶりにここまで笑いました! ここまで利用された身でありながら怒りを示さず、むしろ『相手を助けたい』とは……本当に面白いお人ですよ! あなたは!」
「え? ええぇ!? ラルカさん、爆笑しすぎじゃない!? 一体どこにツボったの!?」
「ぜ、全部ですよ! クフフフ……! お、お腹が痛いです……! あなたは本当に、こんな時でも変わりませんね……! ですが、だからこそヒーローで在り続けたということでしょうか。クフフフ……!」

 でも、やっぱりラルカさんは笑ってた。それも嘲笑とかじゃない、腹を抱えての大爆笑。
 こんなラルカさんの姿は初めて見た。てか、こんな笑い方をすること自体が意外だ。
 いつものクールビューティーなんてどこ吹く風。殺し屋の冷たい殺気も何もない。

「……ただ、自分もようやく分かって来ましたよ。あなたのことはずっと、心のどこかで気にかけていました。ボスからツバメ様の娘であることを聞かされた時も、衝撃と同時に妙な納得を感じましたからね」
「え、えーっと……何が分かったっての?」
「自分はきっと、ツバメ様の背中を追っていたのです。あなたの背中にツバメ様を見ていたのです。戦災孤児だった自分を保護してくださった時と同じ姿を、空色の魔女というヒーローに抱いていたのでしょう」
「アタシの背中に……母さんの背中を……か」

 ただ、これでようやくラルカさんの本心に触れられた気がする。
 今までどんな時――ああ、給料の件は別か。とりあえず、こんな風に明るく心根を吐露する姿は初めて見た。
 思えば、アタシもずっとラルカさんとはこんな空気で話をしたかったんだよね。最後の最後ってタイミングだけど。

 ――それにしても、ラルカさんにはアタシと母さんが重なって見えてたのか。そういうの、なんだか誇りに思う。

「……ミス空鳥、少々お待ちください。――ボスですか? こちらの様子も聞こえていたでしょうが――はい。ここからは――ええ。自分はそうしたく願います。どうか許可を――」

 ひとしきり大爆笑と心根の吐露を終えると、ラルカさんは耳元に手を当てて何やら会話を始める。
 聞いてる感じ、フロスト博士と話してるみたいだ。さっきまでの大爆笑も含め、アタシ達の会話は全部イヤホンマイク越しに聞かれてたってことね。
 でも、そんなことは気にならない。ラルカさん自身も笑顔で応答しており、一通り話が終わるとイヤホンマイクを外してこちらへ語り掛けてくる。

「ボスからも了承は得ました。多少、無理矢理ではありましたがね。ですがこれにて、準備は整いました。……あなたの決闘に自分も応じましょう。空色のサイエンスウィッチ……空鳥 隼!」

 ラルカさんはイヤホンマイクを投げ捨てると、手袋を外しながらその意志を述べてくれた。
 わざわざ律儀な人だ。まあ、そこに関してはラルカさんらしい。

 ――向こうも外した手袋を眼前へと投げ捨ててきた。アタシの手袋と重なり、これにて決闘は承諾された。

「ここは日本じゃないから、決闘罪の心配もないよね。あっ、ウォリアール的にも大丈夫?」
「ご安心ください。ウォリアールに決闘罪はありません。ただ、その質問は無粋ではありませんか?」
「ニシシ~、それもそっか。……そいじゃ、お互いに覚悟は決まったね」
「クフフフ、もちろんです。……あなたが与えてくださったこの機会、存分に楽しませていただきますよ」

 もう大局は決している。この決闘で何かが大きく変わるわけでもない。
 だけど、ここまで来たらやるっきゃないってね。後味悪い結末なんて、アタシもラルカさんも望まない。

「じゃあ、始めよっか。アタシとラルカさんだけの――」
「ええ、始めましょう。自分とあなただけの――」

 お互いに地を踏みしめて拳を構え、気合十分臨戦態勢。この戦いの結末は、台本なんかじゃ示せない。
 欲するのは正々堂々とした結末のみ。アタシ達二人の長きに渡る戦いは、この決闘にて定めたい。

 さあ、始めよう。声を合わせて開戦合図としよう。
 正真正銘、これが本当の――



「「最後の決闘ラストダンスを!!」」
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