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第36話
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谷崎さんが頭を下げていた?
どういうことですか──と喉まで出かかったところで、気づいた。
当たり前のことだ、と。
会社にとって、三年間の記憶が欠落している人間なんて厄介なはずだ。そんな私が普通に仕事復帰して、事故前と同じように働いている──普通に考えたらおかしい。それができているってことは、そうなるように裏で動いてくれた存在がいるってことだ。
多分、会社の人達は私の仕事復帰を渋っていたはずだ。その人達に頭を下げてお願いしている谷崎さん……容易に想像できるのに。
何で気づかないかな?
私はそんなことを考えもせず、何の疑問も持たず会社に来ていた。
……自分の浅はかさに腹が立つ。
「そうだったんですね。色んなところって……人事とか部長ですよね」
苛立つ感情を抑えて何とか言葉を絞り出した。
自分が情けなくて腹立たしくてしょうがないけど、今はそこじゃない。今の私がすべきことは谷崎さんを知ること。
「そうだね。あとは林田さん。それと柏原さんが仕事で関わっている部署の人にも事情を説明してたな。ああ……あかりもか。菓子折り持って家に来て、あかりに頭下げてたのは驚いた」
「そこまで……」
充分すぎるぐらいの行き届いた配慮。……スムーズに仕事復帰できたわけだ。
「驚くよね……聞かされて無いんだから」
呆然としている私をフォローするように、大路さんは声をかけてくれる。けれど、それに甘えてはいけない。
「はい。でも、気づくべきでした。記憶喪失の人間の仕事復帰があんなにスムーズに行くなんておかしいって。会社にしてみれば迷惑な話なんだから……谷崎さんが頭を下げてくれたことくらい……普通に考えたら、わかることなのに……」
泣く気はないけど、やっぱり声が震えてしまう。そんな私に大路さんの表情が曇っていくのがわかる。
「ごめん……誤解させた。そうじゃないんだ」
「誤解?」
「柏原さんの復帰が迷惑って話じゃないから。林田さんやあかりも、今の柏原さんは立派な戦力だって認めてる」
「だったら……」
「会社が困惑したのは、復帰が早すぎるってことだよ」
「え?」
「記憶喪失になって二週間で仕事復帰ってキツくなかった?」
そっか……私が仕事復帰した日って事故から二週間後だったんだ。
あの時は、病院から実家、実家から谷崎さんのマンションと移動してたから気づかなかった。確かに……慌ただしかった。
「いえ……バタバタしてて、キツいとか思ったことは無かったです」
「そっか……谷崎さんの狙い通りだったわけだ。でもさ、皆はキツいと思っていたんだよ。だから、柏原さんの早期復帰に反対だった。特に林田さんはね」
「どうして林田課長が?」
「柏原さんが事故にあった取引先の用事って、本当は林田さんが行く予定だったんだ。急なトラブル対応等で余裕がない林田さんを見かねて、書類を届けるだけだったら行きますよって、柏原さんが代わりに行ったんだって。だから責任を感じてる」
そうだったのか。でも、お使いに行ったのと事故にあったのと記憶喪失になったのは別の話だ。
「林田課長が気にすることじゃないのに」
「谷崎さんもそう言ってた。事故とそれとは別だって。でもさ、林田さんとしては自分が頼まなければって思いはあったんだよ。記憶喪失って聞かされてからは尚更ね」
自分がしたことは間違ってはいないと思うけど、何だか林田課長に悪いことをしてしまった気分になる。
ただ、私が知ってる林田課長からそんな様子を感じ取ったことがないのが救いだ。
「だから、林田課長は柏原さんだけじゃなくて、谷崎さんも休ませたかったんだ」
「えっ、谷崎さんまでですか?」
「しばらく、奥さんの側についてて、記憶を取り戻すのを手伝ってやれって。谷崎の分まで俺が働くからって」
「そんな……無茶な」
「そうかな? 柏原さんが早期復帰するほうが無茶だと思うけどね。それに、俺らも協力するつもりだったし」
「でも……私がこうして働いているってことは?」
「そっ。谷崎さんは首を縦に振らなかった。最初は迷惑かけると思うけど、絶対に大丈夫だからと言い張って聞かなかった。何か問題が起きたら? って聞かれた時は、その時は自分が全て責任を取りますって退職届まで準備しちゃってさ……」
「た、退職?」
「そう、そこまで言うならって柏原さんの早期復帰が決まったんだよ」
何も言えない。
ここまでされたら、申し訳ないとか感謝とかを通り越してしまう。
「言っとくけど、退職届は問題なんて起きないって谷崎さんの自信の裏付けだから、気に病まないでね」
「でも……」
「現に何の問題も起きてない。最初は戸惑ってたみたいだけど、今じゃ事故に遭ったのを感じさせない仕事っぷりって評判だし。さっきだって、うちの近江さんのトラブルをフォローしてくれたでしょ」
「そうですけど……」
「柏原さんが仕事復帰するのに谷崎さんが色々動いたのって、柏原さんならできるって信頼してたからだよ。柏原さんは谷崎さんの信頼に見事に応えた。それって凄いことだよね」
大路さんはそう言ってくれるけど、そんなかっこいいものなんかじゃない。私は谷崎さんに与えられた課題をこなしていただけに過ぎない。
それにしても……何で谷崎さんは私を仕事に復帰させたのだろう。
「大路さん、ご存知だったら教えて頂きたいんですけど、谷崎さんが私をすぐに仕事復帰させたのには何か事情があるんですか?」
そう尋ねたら、大路さんは来たかという顔をした。
「そうだよね……俺だったら絶対に林田さんの好意に甘える。そっちの方が記憶を取り戻せる気がするし。だから、家に来た日に聞いたんだ。そしたら、何て答えたと思う?」
「仕事をしていた方が頭を使って、記憶を取り戻すのにいいからとか?」
絶対違うだろうなと思ったけど、それしか思いつかなかったから答えた。予想通り、大路さんは首を横に振ってゆっくりとした口調で言った。
「今を生きて欲しいからって」
「は?」
「うん、俺もそう言った。優先順位は記憶を取り戻すことだろって思ったから。今を生きて欲しいって……何だそれって感じでしょ。だから、思い出して欲しいと思わないのかって問い詰めたよ」
「それで?」
思わず前のめりになって聞いてしまう。谷崎さんは、思い出して欲しいという素振りを私には見せなかった。大路さんには本音を言えたのだろうか?
「思い出して欲しいに決まってるって」
その答えにほっとした。
「そうですか……でも、じゃあどうして?」
「思い出して欲しい……だけど、それに囚われて欲しくない。記憶が戻る保証なんてどこにもない。必ず記憶が戻るっていうなら、側にいて何でも手伝う。でも、戻らなかったら? って聞かれて……俺は何も言えなかった」
大路さんが答えられないのも無理はない。記憶が戻らなかったら? それは私だけじゃなく、谷崎さんにも残酷な話だ。
「口にするのも嫌なことだと思うけど谷崎さんは淡々と、残るのは記憶を失った喪失感だけだと言った。それでも彼女は生きていかなくてはいけない。だったら追うべきは過去じゃなくて今だって」
「……」
「ついでにこんなことも言ってた。仕事復帰は無茶かもしれないけど、彼女ならできる。記憶喪失になっても、普通に仕事できたのなら、それは自信になる。大変かもしれないけど、記憶のことだけをずっと考えて後ろ向きになるよりかはマシだからって。それに……仕事をしている柏原さんが好きなんだって。深いでしょ」
「何で……」
話してくれないかな。
いや、話したりする人じゃない。そういう人なんだ。
だから……。
胸の中が温まっていく。
空っぽだった胸の中に温かいものがいっぱい注ぎ込まれてきて、溢れ出しそうだ。
ぽたり、ぽたりと手の甲に水滴が落ちている。
泣いてる。
……だめっ!
大路さんがいる前でしょ!
まだ、勤務時間は終わってないでしょ!
泣くなら後で!
自分を抑えようとしたけど、溢れてくる感情を止めることができない。
谷崎さんのせいだ。
忘れられて辛かっただろう
思い出して欲しくてしょうがなかっただろう。
色々な葛藤があったはずなのに、それを抑え込んで私のことを一番に考えてくれた。
そんな谷崎さんの優しさが、嬉しくて、愛しくて……悔しい。でも、私の心をこんなに激しく揺さぶっているのも彼の優しさだ。
会いたい。
谷崎さんに会いたい。
心の中で何度も叫んだ。
どういうことですか──と喉まで出かかったところで、気づいた。
当たり前のことだ、と。
会社にとって、三年間の記憶が欠落している人間なんて厄介なはずだ。そんな私が普通に仕事復帰して、事故前と同じように働いている──普通に考えたらおかしい。それができているってことは、そうなるように裏で動いてくれた存在がいるってことだ。
多分、会社の人達は私の仕事復帰を渋っていたはずだ。その人達に頭を下げてお願いしている谷崎さん……容易に想像できるのに。
何で気づかないかな?
私はそんなことを考えもせず、何の疑問も持たず会社に来ていた。
……自分の浅はかさに腹が立つ。
「そうだったんですね。色んなところって……人事とか部長ですよね」
苛立つ感情を抑えて何とか言葉を絞り出した。
自分が情けなくて腹立たしくてしょうがないけど、今はそこじゃない。今の私がすべきことは谷崎さんを知ること。
「そうだね。あとは林田さん。それと柏原さんが仕事で関わっている部署の人にも事情を説明してたな。ああ……あかりもか。菓子折り持って家に来て、あかりに頭下げてたのは驚いた」
「そこまで……」
充分すぎるぐらいの行き届いた配慮。……スムーズに仕事復帰できたわけだ。
「驚くよね……聞かされて無いんだから」
呆然としている私をフォローするように、大路さんは声をかけてくれる。けれど、それに甘えてはいけない。
「はい。でも、気づくべきでした。記憶喪失の人間の仕事復帰があんなにスムーズに行くなんておかしいって。会社にしてみれば迷惑な話なんだから……谷崎さんが頭を下げてくれたことくらい……普通に考えたら、わかることなのに……」
泣く気はないけど、やっぱり声が震えてしまう。そんな私に大路さんの表情が曇っていくのがわかる。
「ごめん……誤解させた。そうじゃないんだ」
「誤解?」
「柏原さんの復帰が迷惑って話じゃないから。林田さんやあかりも、今の柏原さんは立派な戦力だって認めてる」
「だったら……」
「会社が困惑したのは、復帰が早すぎるってことだよ」
「え?」
「記憶喪失になって二週間で仕事復帰ってキツくなかった?」
そっか……私が仕事復帰した日って事故から二週間後だったんだ。
あの時は、病院から実家、実家から谷崎さんのマンションと移動してたから気づかなかった。確かに……慌ただしかった。
「いえ……バタバタしてて、キツいとか思ったことは無かったです」
「そっか……谷崎さんの狙い通りだったわけだ。でもさ、皆はキツいと思っていたんだよ。だから、柏原さんの早期復帰に反対だった。特に林田さんはね」
「どうして林田課長が?」
「柏原さんが事故にあった取引先の用事って、本当は林田さんが行く予定だったんだ。急なトラブル対応等で余裕がない林田さんを見かねて、書類を届けるだけだったら行きますよって、柏原さんが代わりに行ったんだって。だから責任を感じてる」
そうだったのか。でも、お使いに行ったのと事故にあったのと記憶喪失になったのは別の話だ。
「林田課長が気にすることじゃないのに」
「谷崎さんもそう言ってた。事故とそれとは別だって。でもさ、林田さんとしては自分が頼まなければって思いはあったんだよ。記憶喪失って聞かされてからは尚更ね」
自分がしたことは間違ってはいないと思うけど、何だか林田課長に悪いことをしてしまった気分になる。
ただ、私が知ってる林田課長からそんな様子を感じ取ったことがないのが救いだ。
「だから、林田課長は柏原さんだけじゃなくて、谷崎さんも休ませたかったんだ」
「えっ、谷崎さんまでですか?」
「しばらく、奥さんの側についてて、記憶を取り戻すのを手伝ってやれって。谷崎の分まで俺が働くからって」
「そんな……無茶な」
「そうかな? 柏原さんが早期復帰するほうが無茶だと思うけどね。それに、俺らも協力するつもりだったし」
「でも……私がこうして働いているってことは?」
「そっ。谷崎さんは首を縦に振らなかった。最初は迷惑かけると思うけど、絶対に大丈夫だからと言い張って聞かなかった。何か問題が起きたら? って聞かれた時は、その時は自分が全て責任を取りますって退職届まで準備しちゃってさ……」
「た、退職?」
「そう、そこまで言うならって柏原さんの早期復帰が決まったんだよ」
何も言えない。
ここまでされたら、申し訳ないとか感謝とかを通り越してしまう。
「言っとくけど、退職届は問題なんて起きないって谷崎さんの自信の裏付けだから、気に病まないでね」
「でも……」
「現に何の問題も起きてない。最初は戸惑ってたみたいだけど、今じゃ事故に遭ったのを感じさせない仕事っぷりって評判だし。さっきだって、うちの近江さんのトラブルをフォローしてくれたでしょ」
「そうですけど……」
「柏原さんが仕事復帰するのに谷崎さんが色々動いたのって、柏原さんならできるって信頼してたからだよ。柏原さんは谷崎さんの信頼に見事に応えた。それって凄いことだよね」
大路さんはそう言ってくれるけど、そんなかっこいいものなんかじゃない。私は谷崎さんに与えられた課題をこなしていただけに過ぎない。
それにしても……何で谷崎さんは私を仕事に復帰させたのだろう。
「大路さん、ご存知だったら教えて頂きたいんですけど、谷崎さんが私をすぐに仕事復帰させたのには何か事情があるんですか?」
そう尋ねたら、大路さんは来たかという顔をした。
「そうだよね……俺だったら絶対に林田さんの好意に甘える。そっちの方が記憶を取り戻せる気がするし。だから、家に来た日に聞いたんだ。そしたら、何て答えたと思う?」
「仕事をしていた方が頭を使って、記憶を取り戻すのにいいからとか?」
絶対違うだろうなと思ったけど、それしか思いつかなかったから答えた。予想通り、大路さんは首を横に振ってゆっくりとした口調で言った。
「今を生きて欲しいからって」
「は?」
「うん、俺もそう言った。優先順位は記憶を取り戻すことだろって思ったから。今を生きて欲しいって……何だそれって感じでしょ。だから、思い出して欲しいと思わないのかって問い詰めたよ」
「それで?」
思わず前のめりになって聞いてしまう。谷崎さんは、思い出して欲しいという素振りを私には見せなかった。大路さんには本音を言えたのだろうか?
「思い出して欲しいに決まってるって」
その答えにほっとした。
「そうですか……でも、じゃあどうして?」
「思い出して欲しい……だけど、それに囚われて欲しくない。記憶が戻る保証なんてどこにもない。必ず記憶が戻るっていうなら、側にいて何でも手伝う。でも、戻らなかったら? って聞かれて……俺は何も言えなかった」
大路さんが答えられないのも無理はない。記憶が戻らなかったら? それは私だけじゃなく、谷崎さんにも残酷な話だ。
「口にするのも嫌なことだと思うけど谷崎さんは淡々と、残るのは記憶を失った喪失感だけだと言った。それでも彼女は生きていかなくてはいけない。だったら追うべきは過去じゃなくて今だって」
「……」
「ついでにこんなことも言ってた。仕事復帰は無茶かもしれないけど、彼女ならできる。記憶喪失になっても、普通に仕事できたのなら、それは自信になる。大変かもしれないけど、記憶のことだけをずっと考えて後ろ向きになるよりかはマシだからって。それに……仕事をしている柏原さんが好きなんだって。深いでしょ」
「何で……」
話してくれないかな。
いや、話したりする人じゃない。そういう人なんだ。
だから……。
胸の中が温まっていく。
空っぽだった胸の中に温かいものがいっぱい注ぎ込まれてきて、溢れ出しそうだ。
ぽたり、ぽたりと手の甲に水滴が落ちている。
泣いてる。
……だめっ!
大路さんがいる前でしょ!
まだ、勤務時間は終わってないでしょ!
泣くなら後で!
自分を抑えようとしたけど、溢れてくる感情を止めることができない。
谷崎さんのせいだ。
忘れられて辛かっただろう
思い出して欲しくてしょうがなかっただろう。
色々な葛藤があったはずなのに、それを抑え込んで私のことを一番に考えてくれた。
そんな谷崎さんの優しさが、嬉しくて、愛しくて……悔しい。でも、私の心をこんなに激しく揺さぶっているのも彼の優しさだ。
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