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そして迫る春
しおりを挟む三月。学園の廊下に差し込む光は、もう冬のそれじゃなかった。
外の桜並木はまだ蕾のままだけど、風の匂いは確かに春に近づいている。
ラスとは、気づけば毎日のように一緒に行動していた。
通学路で肩を並べ、くだらない冗談を言い合い、夜には寮の部屋で宿題を見てもらったり逆に相談に乗ったり。
「ルームメイトだから当たり前」みたいな顔をしていたけど、俺は知っている。
ラスは以前よりも確実に、俺を気にかけるようになっていた。
ジェミニ先生は、相変わらず授業中は厳しい。
けれど、授業後にノートを返す時なんか、ほんの一言「よく書けてるな」と声をかけてくれることがあった。
周囲の生徒には“鬼教師”で通っているけれど、俺にだけ見せる柔らかさを感じて――あの人の不器用さをますます実感してしまう。
スコーピオは、多くを語らない。
でも、廊下ですれ違えば一瞬視線が合う。
昼休み、中庭の端に座っていた彼がちらりとこちらを見やった――そんなささいな出来事に、妙な緊張が走る。
あの日の「ありがとな」という一言は、まだ俺の耳に残っている。
そして俺は、他のクラスメイトたちとも自然に繋がりを作っていた。
頼まれてノートを貸したり、一緒に購買へ行ったり。
アリエスという“誰とでも話せる脇役”のポジションは、思った以上に便利で、心地よかった。
(……これでいい。少しずつ、土台はできてきた)
本来の物語は高校から始まる。
そこに至るまでの一年は、人間関係を編み直すための“準備期間”だったはずだ。
けれど――気づけば俺の周りには、すでにいくつもの糸が結びつき始めていた。
窓の外、風に揺れる蕾がわずかに膨らんでいる。
春はもうすぐだ。
(……来るんだ。主人公が)
物語の中心で輝く存在。
この世界の光であり、すべての攻略者を惹きつける磁石。
俺が“最初の友達”として隣に立つことになる、シリウス・スプリング。
窓の外、蕾が風に揺れた。
次の春には、きっと花開く。
そして――物語もまた、大きく動き出すのだ。
(脇役の俺に、どんな席が用意されているんやろな……)
胸の奥に灯った小さなざわめきは、もう消えなかった。
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