BLゲームの脇役に転生したはずなのに

春、そして開幕

四月。
星ヶ丘学園の校舎は、真新しい制服に袖を通した生徒たちのざわめきで満ちていた。
窓の外、桜は枝いっぱいに花を咲かせている。

中学三年間をここで過ごした俺にとっても――この春は、何かが変わる気配を運んでいた。

「アリー、教室あっちだよ」

ラスが軽く肩を叩いてくる。
その手は相変わらずあたたかく、落ち着いた声には、不思議と緊張を解く力がある。
俺は頷き、列に並んで歩き出した。

⸻

新しいクラスの教室。
席に着くと、出席を取り始めたのはやはりジェミニ先生だった。
厳しい声で名前を呼んでいくが、ふとしたときに俺と目が合うと、ほんのわずかに表情が和らぐ。
誰も気付かないほど小さな変化。
けれど、それだけで胸の奥がざわついた。

（……ほんまに、持ち上がり来たな）

そう思っていると、先生が手元の名簿を置き、教室を見渡した。

「今日からこのクラスに編入生が加わる。入ってきなさい」

廊下の扉が開く。
教室の空気が、一瞬で張りつめる。

「……シリウス・スプリングです。よろしくお願いします」

低くも澄んだ声。
一歩踏み出したその姿に、思わず息をのんだ。

淡い光を纏ったような髪。
澄み渡る瞳。
立っているだけで、周囲の視線を自然に引き寄せる想像していた通りの美しさ。

――まるで、最初から“物語の中心”であることを告げているかのようだった。

心臓が跳ねる。
やっとだ。
この世界の磁石。すべてを動かす存在。

俺の視界に、ついに主人公――シリウス・スプリングが現れた。