BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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教師の眼差し

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あのイベントから数日。
特に事件が起こるでもなく、俺は相変わらず授業を受け、廊下を歩き、シリウスやラス等と食堂で飯を食っていた。

――けれど。

(またや……)

シリウスと目が合った瞬間、胸元のペンダントが微かに光り、視界の端に数字が浮かんだ。

【シリウス・スプリング 80%】

(……毎回毎回チラつくんや。これ、バグやんな? 攻略対象やなくて“主人公”のはずやのに……)

慌てて視線を逸らす。
だが数字は余韻のように残り、消えるまでに少し時間がかかる。
俺だけに見えて、シリウスには見えていない。
その不自然さが、じわじわと神経を蝕んでいた。




放課後、教室に残って黒板を拭いていたとき。
背後から低い声が落ちてきた。

「……アリエス。放課後、職員室に来い」

振り返ると、ジェミニ先生が教卓に手を置き、眼鏡の奥で俺を見据えていた。
その目は冷静さを保っているはずなのに、どこか硬い。

「えっ……あ、はい」

不意を突かれて返事が遅れる。
別に悪いことをした覚えはない。
けれど、胸の奥で小さなざわめきが広がる。

(なんやろ……今回は、なんの用や……)





夕暮れの職員室は静まり返っていた。
窓から差し込む光が赤く沈み、机の上に長い影を落としている。

ジェミニ先生は机の前に立つ俺を見つめ、低い声を落とした。

「……アリエス。最近、少し上の空だな」

「え……」

思わず目を瞬かせる。
確かに、ペンダントが光るたびに気を取られて、授業中に意識が飛ぶことはあった。

先生は腕を組み、少しだけ息を吐いた。

「別に罰するつもりはない。……ただ、授業中にお前が上の空だと、教師としては気になる。
 体調が悪いなら早めに報告しろ。何かあってからでは遅い」

「……っ」

胸の奥がざわめく。
叱責ではなく、心配。その響きが、かえって重くのしかかった。

(……俺なんかを、こんなに気にする必要あるんか? 脇役のはずやのに)

「……はい。気をつけます」

小さく頭を下げると、先生は短く頷き、机上のノートに視線を落とした。

「……それだけだ。行け」

冷静を装った声。
だが、その奥に隠しきれない柔らかさと揺らぎが確かにあった。



廊下に出ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
群青に沈みかけた空の下、シリウスとラスが並んで歩いてくる。

その瞬間、シリウスの胸元のペンダントが淡く光り、視界に数字が浮かぶ。

【ジェミニ・アスター 65% → 68%】

「……っ!?」

足が止まった。
呼び出される前に確認したときは、確かに65%だった。
俺がいないうちに、いつの間に3%も上がったのだろう。

(……先生とシリウス、いつ接点を持ったんや? そんな時間なかったはずやろ。
 ……やっぱこれ、主人公補正ってやつか……?)

疑問が渦を巻く。
けれど胸の奥には、不思議と温かさが残っていた。
自分が気にされている、その事実だけは――どうしても嫌じゃなかった。

「アリー、お疲れさま。帰ろ?」
「鞄持とうか? 俺とは同じ部屋だしさ」

シリウスとラスが並んで笑いかけてくる。
俺は曖昧に頷き、二人と歩き出した。



ジェミニside


職員室にひとり残り、机上のノートを整えながら、俺は深く息を吐いた。

(……最近、あまり笑わなくなったな)

思い返すのは、以前のアリエス。
友人たちと他愛もなく笑っていた姿。
だがここ数日、その笑顔は少なくなり、代わりにどこか遠くを見ているような顔が増えた。

「授業に集中しろ」と叱ることは簡単だ。
だが、それで彼がまた笑えるわけじゃない。
だから俺は、あえて「友人が心配する」と建前で包んだ。

――本当は、俺が心配で仕方なかっただけなのに。

(……また、あの柔らかい笑顔が見たい)

胸の奥に浮かぶ思いを押し殺しながら、眼鏡の奥でそっと瞼を伏せる。
窓の外には群青の空が広がり、沈む陽が残光を落としていた。
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