BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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友の証

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なぜか今日に限って放課後の校門前は、人のざわめきで騒がしかった。
数人の上級生が道を塞ぎ、その前に怯えた下級生が立ち尽くしている。

その輪の中――制服を着崩し、鋭い眼光を放つ少年がひとり。
空気を支配するその存在感に、俺は思わず息を呑んだ。

(……スコーピオ・ワイツマン!

 そうか、これが“バトルイベント”!
ゲーム内だとハーレムルートに発展させるために欠かせないチェックポイント...!)

心臓が高鳴る。
本来の筋書きでは――シリウスが狙われる。
そこへスコーピオが割って入り、庇って好感度が上がる。
その展開を俺は、何度も前世で見て知っていた。


「おい、新入生」
低い声がシリウスに突き刺さる。
「生意気なツラしやがって。痛い目に遭わせてやる」

拳が振り上げられた。
スコーピオがわずかに動く――が、間に合わない。

(……!)

気づけば、俺の足が前に出ていた。

(俺が庇う役ちゃう。でも……シリウスが殴られるの、見たくない)

次の瞬間、頬に衝撃が走り、視界が揺れた。

「アリー!!」
シリウスの声が震える。
ラスが血相を変えて駆け寄ってきた。




倒れ込んだ俺を見て、空気が一変する。

ラスの拳が震えながら握り締められる。
シリウスは怒りに顔を歪めて前に出る。
そして――スコーピオの低い声が場を切り裂いた。

「……テメェ今、何した?」

その一言で上級生たちは動きを止めた。
場の空気の変化の方が鋭く伝わってくる。
三人の気配が、一斉に牙を剥く。

スコーピオが相手の胸ぐらを鷲掴みにし、顔を近づける。
その声は押し殺した低さで、俺には届かない。
だが上級生の顔色が真っ青に変わったのを見れば、何を囁かれたか察せられる。

「……内臓引きずり出して犬の餌にしてやろうか」

ラスもまた、俺の肩を支えながら、隣の上級生を睨み据えた。
いつもの温厚な声は影もなく、冷え切った呟きが零れる。

「……今すぐ謝れ。さもなきゃ骨の一本残さず叩き折る」

そしてシリウス。
俺を庇うように前に立ち、はっきりと「やめろ!」と声を張った。
だがその直後、唇だけがわずかに動いた。

「……アリーに触れたその手、切り落として地面に這わせてやる」

聞き慣れない、正義感の仮面をかなぐり捨てた声音。
だが確かに本気で、容赦なく残酷だった。

俺には、三人が小さく何かを呟いていたようにしか見えなかった。
(……? なんやろ。なんか口動いてたけど……)

次の瞬間。

「す、すみませんでした!」
「もう二度としません!」
「ほんとに悪かった!」

勢いよく謝りながら、上級生たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

ぽかんと口を開ける俺。
(……え、俺が謝られる側? なんでや?)



「アリー! 大丈夫!?」
ラスが肩を支え、シリウスが焦ったように覗き込む。

頬はじんじん痛む。
けれど、二人の顔があまりに必死で――つい笑顔を作ってしまった。

「へ、へへ……平気やって。ちょっとかすっただけや」

無理に笑ってみせた瞬間、シリウスの胸元のペンダントが淡く光った。
視界の端に、鮮明な数字が並ぶ。

【スコーピオ・ワイツマン 62% → 67%】
【シリウス・スプリング 80% → 83%】
【トーラス・チェルナー 72% → 76%】

「……っ!?」

息が詰まる。
呼び出される前に見た数値と比べれば、明らかに跳ねている。
しかも三人同時に。

(なんでや……? 俺が殴られただけやのに、全員分アップって……)

脳裏をよぎるのは、前世で遊んだあの画面。
“庇うイベント”で主人公の株が一気に上がる、あの仕組み。

(……あぁ、そうか。これはシリウスを庇った結果や。
 主人公補正で数値が動く……つまり仕様や! バグやない!)

そう結論づけ、必死に自分を納得させる。

だが――

「アリー、本当に大丈夫か?」
ラスが低く問いかける声は、いつになく強張っていた。
「無茶するなよ……お前が倒れたら、俺……」

「……俺、絶対にお礼がしたい」
シリウスは真剣な顔で俺を見つめる。
「庇ってくれたこと、忘れないから」

スコーピオは鼻を鳴らし、視線を逸らした。

「……バカか」

低く吐き捨てると、乱暴に俺の鞄を拾い上げ――そのままぐいっと胸に押しつけてくる。
受け取った拍子によろめいた俺の肩を、がしっと荒っぽく掴んで支える。
強すぎるほどの力に思わず息が詰まる。

「……巻き込んで、悪かった。……それと、前に変な風に見ちまった。疑ったのも、悪かった」

肩に残る熱と重さ。
荒っぽいのに、まるで離す気がないみたいに指が食い込んでいた。

「でもな」
さらに力を込め、顔をぐっと近づけてくる。吐息がかかる距離。

「これからは……俺が守る。だから二度と、無茶して庇うんじゃねぇ」

鋭い瞳に射抜かれて、言葉を失った。
次の瞬間、スコーピオはふっと手を離し、何事もなかったようにポケットへ突っ込む。
乱暴に背を向け、歩き去っていった。

その背中を見送りながら、胸元のペンダントがふっと光った。

【スコーピオ・ワイツマン 67% → 71%】

(……え、また上がった!?
 でもこれは“好きな人の友達が助けられたから一安心”っていう補正やろ。むしろ友達思いなシリウスにキュン、てとこか?

 ……うん、そういうことにしとこ)

頬の痛みに指を当てながら、俺はぎこちなく笑った。
知らぬ間に――不良との間に、確かな“友達の線”が結ばれていた。
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