BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

文字の大きさ
34 / 46

編入生の登場

しおりを挟む
喧嘩事件から一夜明けた放課後。
俺とスコーピオは並んで職員室の前に立たされていた。

(……やっぱり、こうなるよなぁ)

昨日の騒ぎは小さくない。校門前で上級生が下級生を囲み、不良が吠えたんだ。教師たちの耳に届かんはずがない。

扉を開けると、待っていたのはジェミニ先生だった。
眼鏡の奥から鋭い視線を投げ、低い声で切り出す。

「……スコーピオ。お前の乱暴な行動は、もう少しで大事になるところだった」

「……あんな奴ら、弱い者いじめとかダセェことしてるからだ」
スコーピオはそっぽを向いて吐き捨てる。

先生は小さく息をつき、それから俺へと目を向けた。

「……アリエス。なぜ庇った」

「え、えっと……」
言葉が喉で詰まる。
本当は「シリウスが殴られるのを見たくなかった」だけ。けれどそんなこと言えるわけもなく。

「……友達やし。ほっとけへんかっただけです」

口にした途端、先生の表情がさらに険しくなる。

「つい昨日言ったはずだ。無理をするな、と」

声は冷たく響いた。けれどその奥にあるのは、叱責ではなく――心配。
俺にはそう思えた。

「……お前が無茶をすれば、周りはどう思う。
 心配して駆け寄った友人たちの顔を忘れたか?」

ラスの必死な手。シリウスの叫ぶ声。
思い出すと胸が熱くなる。

「……先生、ほんま優しいな」

俺は思わず微笑んだ。教師として生徒を気にかけてくれる――そう勘違いしたまま。
けれど先生は目を伏せ、心の奥を隠すように言葉を閉じた。

(……俺が案じているのは“お前だけ”なんだ、アリエス)

本音は決して声にされなかった。




職員室を出た瞬間、冷たい空気が頬を撫でた。
昨日の痛みがまだ残っていても、不思議と足取りは軽い。

「アリー!」

声をかけてきたのはシリウスだった。
彼は俺を見るなり、眉を下げて駆け寄る。

「良かった……待ってたんだ。昨日のこと……どうしてもお礼がしたくて」

「え、お礼? そんな大げさな……」

苦笑する俺に、シリウスは真剣なまなざしを向ける。

「お願い、断らないで。僕の気持ちなんだ」

その必死さに負けて、結局ついて行くことになった。

(……まぁええか。本来ならこれは“スコーピオのお礼イベント”のはずやけど……数値もう高いし、大丈夫やろ)

呑気にそう思い込みながら。





夕暮れの商店街。
近くの喫茶店でシリウスに食事をご馳走になり、その帰り道。
橙色に染まる通りの文具店の前で立ち止まり、俺とシリウスが並んでショーウィンドウを覗いていたとき――不意に、細い声が耳に届いた。

「……っ」

視線を向けると、道端で本を抱えた少年がよろめき、荷物をばらばらと落としていた。
眼鏡の奥の瞳が怯えたように揺れている。

「大丈夫? ……俺、拾うから」

思わず駆け寄り、本を集めて差し出す。
少年は驚いたように瞬きをして、やがて小さく微笑んだ。

「……ありがとうございます」

少年は慌ただしく本を抱え直し、小さな声で「すみません」と告げて足早に去っていった。

「……繊細そうな子やな」
「でも、いい子そうだったね」
シリウスと顔を見合わせ、ほんの些細な出来事としてその場は過ぎた。



そして翌日。

「今日から新しい生徒がこのクラスに編入する」
担任の声とともに扉が開く。

入ってきたのは――昨日の眼鏡の少年。
大きな鞄を抱え、緊張した面持ちで前に立つ。

「……キャンサー・ユラークです。よろしくお願いします」

ざわめく教室。
俺は思わず目を見開いた。

(……え、昨日のメガネくん!? まさか、)

そのときだった。
教室の後方、シリウスと視線がぶつかった瞬間――キャンサーの頬が赤く染まり、目を逸らすのも忘れて見つめ続けていた。
分かりやすいほどの「一目惚れ」。

シリウスの胸元のペンダントが、かすかに光を放つ。

【キャンサー・ユラーク 10%】

(……っ! やっぱり! これでキャンサー編入ルート開放や!)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

原作を知らないblゲーに転生したので生きるため必死で媚びを売る

ベポ田
BL
blゲームの、侯爵家に仕える従者に転生してしまった主人公が、最凶のご主人様に虐げられながらも必死に媚を売る話。

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

処理中です...