BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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夏課題の隣にある迷い

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……それから数日。

海から戻った俺たちは、次の遊びの予定を立てては笑い合う、そんな日々を過ごしていた。
花火大会に行こうとか、山でバーベキューをしようとか、賑やかな話題ばかり。

けれど――現実は容赦なく目の前に積み上がっていた。
そう、夏休みの課題である。

俺は机に広げたプリントを前にして、鉛筆を咥えたまま呻いた。
(……やば。ほんまに手ぇ付けてへん)

横からラスに肩を小突かれる。
「お前は計画性がないんだよ」
サングラスをかけてない分だけ真顔がやけに鋭くて、俺は気まずく笑ってごまかすしかなかった。反論できる余地なんかない。

結局その数日後。
「……アリエスさん、一人では到底進まないでしょう。僕も課題がありますし、一緒にやりませんか」

冷房の効いた教室の廊下で、キャンサーにそう声をかけられた。
眼鏡の奥の瞳は冷静そのもので、反論を許さない理屈がきっちり添えられている。

(……うっ。なんも言い返せん)

「……お、おう。頼むわ」

断れるはずもなく、俺は素直に頷いていた。




冷房の効いた図書館は、外の蒸し暑さが嘘みたいに静かだった。
ページをめくる音と、鉛筆の走る音だけが響く。

「……うーん」
ノートに頭を抱えて唸る俺の横で、キャンサーはさらさらと数式を書き連ねていた。
無駄のないペン運びに、思わず感心する。

「キャンサー君、やっぱ頭ええなぁ。俺なんか全然進まへんわ」

ペン先を止めた彼は、少しだけ考え込むように言葉を選んだ。
「それは“習慣”の差ですよ。僕はただ、繰り返しているだけです。毎日同じ時間に机に向かえば、誰だって少しずつ積み重ねになりますから」

「……なるほどなぁ。習慣か」
俺は鉛筆を回しながら苦笑する。自分には一番足りてないもんを、あっさり言われた気がした。

そんな会話の余韻が残る中、キャンサーはふいに視線を落とした。
眼鏡の奥の瞳が、いつになく揺れている。

「……アリエスさん」
「ん?」

鉛筆を置き、彼の方を向く。

「僕は……シリウス君に告白するべきでしょうか」

低い声だった。けれど、迷いが混じっているのがはっきり分かった。
「彼は誰にでも優しい。僕が特別なんじゃなくて……その中の一人に過ぎないんじゃないかって」

ノートの上に置かれた手が、かすかに震えていた。
その横顔は真剣そのものなのに――ほんの一瞬、こちらに揺れる視線が走った。

(……き、来た! これはもう“恋愛相談イベント”そのまんまや!)

俺は思わずシリウスのペンダントの数値を思い返す。
前回会った時点で確認したときキャンサーの好感度の数値は【51%】。確かに、着実に上がってきている。

(やっぱりな! 順調にフラグは立っとる!
 今まで俺にばっかり好感度が寄ってたんは完全にバグやったんや。
 やっと、やっと正規ルートに戻ったんやな!)

心の中でガッツポーズを決めながら、俺はできるだけ自然に口を開いた。

「大丈夫や。シリウスは真っ直ぐやから、ちゃんと気持ち伝えたら分かってくれるで」

声が思ったより軽く響いてしまったのは、自分でも気づいてる。
でも、キャンサーは一瞬きょとんとした後、ふっと笑った。

「……そうですね。迷ってばかりじゃ進めない。夏の間に、答えを出してみせます」

その笑顔は柔らかいのに、どこか揺れていた。
まるで決意と不安が同時に入り混じっているように。

図書館の静けさの中で、彼の決意の声は小さくても力強かった。

(うおお……! これこれ! こういうイベントで“萌え”が生まれるんや!
 俺がヒロイン役でナンパされるバグ展開なんかより、よっぽど正しい!)

思わずテンションが上がりかける。
けれど、胸の奥にまだ引っかかる。

――なぜか、キャンサーの迷いがシリウスだけのことに見えなかった。
ほんの一瞬、自分の名前を呼ぶ声に特別な色が混じったような……そんな錯覚。

(……いやいやいや。考えすぎやろ俺。これ以上バグイベントなんかいらんて)

自分にそう言い聞かせて、俺は鉛筆を握り直した。
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