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夏祭りの誘い
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冷房の効いた図書館で過ごした数日が、ふとした拍子に思い返される。
ページをめくるたびに揺れるキャンサーの横顔。
「夏の間に答えを出してみせます」と言った声の熱。
――あれは確かに本気の表情だった。
気づけば、もう七月も終わりに近い。
外は蝉の声がひときわ騒がしく、夜風すら蒸し暑さを含んでいる。
課題の進み具合に追われながらも、日常はゆるやかに夏の色を深めていた。
そんなある日の午後。
夏休みの課題を広げてラスと適当に愚痴をこぼしていたときだ。
机に座っていたキャンサーが眼鏡を押し上げ、控えめに口を開いた。
「……あの」
普段より少し緊張を含んだ声だった。
俺とラス、そして隣にいたシリウスとスコーピオも顔を向ける。
キャンサーは小さく咳払いして、持っていた紙を机に置いた。
それは地域の夏祭りの案内。鮮やかな花火の写真と「来週開催」の文字。
「……夏祭りの告知を見かけまして。屋台や花火も出るそうです」
一拍置き、彼は静かに続ける。
「せっかくの夏ですし……もしよければ、皆さんと一緒に行けたらと思いまして」
⸻
「えっ! 祭り? 本当に?」
真っ先に反応したのはシリウスだった。
ぱぁっと表情が輝き、声のトーンまで一段跳ねる。
「いいね、行こうよ! 皆で!」
その笑顔に当てられたみたいに、キャンサーの耳がほんのり赤くなる。
眼鏡の奥の瞳がかすかに揺れ、すぐに視線を伏せた。
(……おお。やっぱりシリウスのためやな。あの反応見て照れてる顔……分かりやす)
俺は思わず頬を緩める。
ラスは腕を組み、わざとらしく唸った。
「ほぉ~……キャンサーが自分からイベントごとに誘うなんて、珍しいじゃん」
「ち、珍しいって……!」
キャンサーはわずかに眉を寄せ、困ったように返す。
けれどその声音もどこか柔らかい。からかうラスに対して、完全に否定するでもなく受け止めている。
スコーピオはと言えば、横で腕を組みながら鼻を鳴らす。
「……人混みなんざ面倒なだけだろ」
相変わらずの不機嫌オーラ。だが、その目は本気で拒絶しているようには見えない。
(あー、これはもう来るやつやな。結局、面倒言いながら付いて来るんやろ)
俺は苦笑を飲み込む。
⸻
「でもさ、花火とか見られるんだよ?」
シリウスは食い気味に言う。
「せっかくの夏だし、皆で行ったらきっと楽しいよ」
無邪気な笑顔に、キャンサーがこくりと頷いた。
小さな仕草だけれど、真剣さがにじむ。
「……はい。僕も、そう思います」
(……やっぱり。シリウスに向ける顔、ほんまに分かりやすいな)
胸の奥で小さく笑いながら、俺も自然に口を開いた。
「ええやん。せっかくやし、全員で行こか」
ラスが「決まりだな」と肩をすくめ、スコーピオは「ちっ」と舌打ちしながらも何も言わない。
その反応に俺は確信する。――こいつら全員、結局来る気満々や。
⸻
こうして、夏の夜を彩る祭りへの約束が静かに交わされた。
ただの友人たちの遊びの予定。
けれど、その裏で揺れる気持ちは、誰にも気づかれぬまま、少しずつ大きくなっていく。
俺は気づかないふりをして、心の奥で密かにワクワクしていた。
(……来た来た。“夏祭りイベント”。これはもう萌える展開確定やろ!)
次の週末が、待ち遠しくて仕方なかった。
ページをめくるたびに揺れるキャンサーの横顔。
「夏の間に答えを出してみせます」と言った声の熱。
――あれは確かに本気の表情だった。
気づけば、もう七月も終わりに近い。
外は蝉の声がひときわ騒がしく、夜風すら蒸し暑さを含んでいる。
課題の進み具合に追われながらも、日常はゆるやかに夏の色を深めていた。
そんなある日の午後。
夏休みの課題を広げてラスと適当に愚痴をこぼしていたときだ。
机に座っていたキャンサーが眼鏡を押し上げ、控えめに口を開いた。
「……あの」
普段より少し緊張を含んだ声だった。
俺とラス、そして隣にいたシリウスとスコーピオも顔を向ける。
キャンサーは小さく咳払いして、持っていた紙を机に置いた。
それは地域の夏祭りの案内。鮮やかな花火の写真と「来週開催」の文字。
「……夏祭りの告知を見かけまして。屋台や花火も出るそうです」
一拍置き、彼は静かに続ける。
「せっかくの夏ですし……もしよければ、皆さんと一緒に行けたらと思いまして」
⸻
「えっ! 祭り? 本当に?」
真っ先に反応したのはシリウスだった。
ぱぁっと表情が輝き、声のトーンまで一段跳ねる。
「いいね、行こうよ! 皆で!」
その笑顔に当てられたみたいに、キャンサーの耳がほんのり赤くなる。
眼鏡の奥の瞳がかすかに揺れ、すぐに視線を伏せた。
(……おお。やっぱりシリウスのためやな。あの反応見て照れてる顔……分かりやす)
俺は思わず頬を緩める。
ラスは腕を組み、わざとらしく唸った。
「ほぉ~……キャンサーが自分からイベントごとに誘うなんて、珍しいじゃん」
「ち、珍しいって……!」
キャンサーはわずかに眉を寄せ、困ったように返す。
けれどその声音もどこか柔らかい。からかうラスに対して、完全に否定するでもなく受け止めている。
スコーピオはと言えば、横で腕を組みながら鼻を鳴らす。
「……人混みなんざ面倒なだけだろ」
相変わらずの不機嫌オーラ。だが、その目は本気で拒絶しているようには見えない。
(あー、これはもう来るやつやな。結局、面倒言いながら付いて来るんやろ)
俺は苦笑を飲み込む。
⸻
「でもさ、花火とか見られるんだよ?」
シリウスは食い気味に言う。
「せっかくの夏だし、皆で行ったらきっと楽しいよ」
無邪気な笑顔に、キャンサーがこくりと頷いた。
小さな仕草だけれど、真剣さがにじむ。
「……はい。僕も、そう思います」
(……やっぱり。シリウスに向ける顔、ほんまに分かりやすいな)
胸の奥で小さく笑いながら、俺も自然に口を開いた。
「ええやん。せっかくやし、全員で行こか」
ラスが「決まりだな」と肩をすくめ、スコーピオは「ちっ」と舌打ちしながらも何も言わない。
その反応に俺は確信する。――こいつら全員、結局来る気満々や。
⸻
こうして、夏の夜を彩る祭りへの約束が静かに交わされた。
ただの友人たちの遊びの予定。
けれど、その裏で揺れる気持ちは、誰にも気づかれぬまま、少しずつ大きくなっていく。
俺は気づかないふりをして、心の奥で密かにワクワクしていた。
(……来た来た。“夏祭りイベント”。これはもう萌える展開確定やろ!)
次の週末が、待ち遠しくて仕方なかった。
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