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夏祭りの夜 前編
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夜の空に、色とりどりの提灯が浮かんでいた。
ゆらゆら揺れる灯りは赤や橙に染まり、屋台から漂う焼きそばやたこ焼きの香りと混じって、夏祭り特有の賑わいを生み出している。
(……うわ。これ、前に画面で見たやつやん。でも実際はこんなに眩しいんか)
俺は胸の奥がそわそわするのを抑えながら歩を進めた。
横を見れば、仲間たちもそれぞれ浴衣姿で揃っている。
シリウスは紺地に白の文様が映えて、まるで月明かりを纏ったみたいに真っ直ぐ。
ラスは深緑の浴衣を着崩して、帯もゆるく結んでいるのに、不思議とサマになっていた。
スコーピオは黒一色。けれど細身の浴衣に鋭い目つきが合わさって、妙に迫力がある。
キャンサーは白地に藍の模様、きっちり着こなし、眼鏡の奥から涼やかに光る瞳。
(……やっぱすごいな。画面越しじゃ分からん空気感がある)
対する俺は落ち着いた浅葱色に細い縞模様の浴衣を選んでいた。
彼らの視線がふっとこちらに集まる。
「アリー、その浴衣……似合ってるな」
最初に口にしたのはシリウスだった。真っ直ぐな褒め言葉に、思わず耳が熱くなる。
「へぇ、意外。もっと子供っぽいの選ぶかと思った」
ラスが片眉を上げる。軽口なのに、少し照れ隠しのようでもあった。
「……悪くない」
スコーピオは一言だけ。けれど視線は逸らさず、不器用な肯定に胸がくすぐったくなる。
「色合いがあなたに合っています。落ち着いた雰囲気が出ていて」
キャンサーは冷静に分析するように告げた。言葉は真面目なのに、どこか柔らかさを帯びていた。
(……あかん。褒められる側の選択肢なんてなかったはずやのに。なんで俺までドキドキせなあかんねん)
⸻
「わぁっ!」
真っ先に駆け出したのはやっぱりシリウスだった。
金魚すくいの屋台へ飛び込み、子供みたいに目を輝かせている。
波打つ銀髪が灯りを反射して、やけに鮮やかに見えた。
「……子供かよ」
そうぼやきながらもラスはちゃっかり射的の列に並び、サングラス越しに的を睨む。
そして――パンッ、と乾いた音。
「おっしゃ、景品ゲット!」
景品の駄菓子が次々と積まれていく様子に、店主が苦笑いしていた。
「……あいつ、地味に何やらせても器用やな」
俺が呟くと、隣でスコーピオが腕を組んで「チッ」と舌打ちする。
「くだらねぇ……」と言いながらも、なぜか次の瞬間には輪投げの屋台に向かって歩き出していた。
その後ろ姿に俺は吹き出しそうになる。
一方キャンサーは――
「……人混みは苦手ですね」
と小声で呟きつつ、几帳面にハンカチで眼鏡を拭き直していた。
普段どおり冷静に見える。けれど時折、その視線がちらりとシリウスの方へ流れていく。
(……やっぱりな。キャンサー君、気になっとるんやろな)
⸻
ひとしきり遊んだあと、みんなでかき氷をつつく。
「ブルーハワイはやっぱり王道だな!」とシリウスが嬉しそうに笑う横で、ラスは「舌が青くなるだろ」と呆れ顔。
スコーピオは黙ってイチゴ味を平らげ、キャンサーは「……冷たすぎると頭が痛くなりますね」と真顔でぼそり。
それがツボにはまり、俺は腹を抱えて笑ってしまった。
笑い声が重なる中、ふいにキャンサーが俺の肩にそっと触れた。
「……アリエスさん、少しシリウス君と話をしてきてもいいでしょうか」
「え?」
思わず聞き返す。
けれど、キャンサーの横顔は真剣で、決意がにじんでいた。
(……ま、まさかこれ……!)
俺の予感を裏切らず、キャンサーはシリウスの前に立ち、静かに声をかけた。
「……シリウス君。よければ、少し二人で歩いていただけませんか」
シリウスは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
二人は人混みの奥へと並んで歩き出す。
俺は慌てて屋台の影に隠れ、心臓を抑えながら小声で叫んだ。
(……っ! き、来た……! これは絶対“告白イベント”や!)
⸻
祭囃子が高鳴り、夜空に花火が一輪咲く。
二人の背中が提灯の灯りに照らされ、遠ざかっていく。
ざわめきにかき消されて言葉までは聞き取れない。
ただ、キャンサーが立ち止まり、真っ直ぐシリウスに向き合ったのだけは分かった。
深く息を吸い込むその仕草。
固く結ばれた唇。
そして花火の閃光が空を裂く瞬間、確かに彼の口が動いた。
「……好きです。シリウス君」
夜風に溶けてしまいそうなほど小さな声。
けれど、その想いは真剣そのものだった。
ゆらゆら揺れる灯りは赤や橙に染まり、屋台から漂う焼きそばやたこ焼きの香りと混じって、夏祭り特有の賑わいを生み出している。
(……うわ。これ、前に画面で見たやつやん。でも実際はこんなに眩しいんか)
俺は胸の奥がそわそわするのを抑えながら歩を進めた。
横を見れば、仲間たちもそれぞれ浴衣姿で揃っている。
シリウスは紺地に白の文様が映えて、まるで月明かりを纏ったみたいに真っ直ぐ。
ラスは深緑の浴衣を着崩して、帯もゆるく結んでいるのに、不思議とサマになっていた。
スコーピオは黒一色。けれど細身の浴衣に鋭い目つきが合わさって、妙に迫力がある。
キャンサーは白地に藍の模様、きっちり着こなし、眼鏡の奥から涼やかに光る瞳。
(……やっぱすごいな。画面越しじゃ分からん空気感がある)
対する俺は落ち着いた浅葱色に細い縞模様の浴衣を選んでいた。
彼らの視線がふっとこちらに集まる。
「アリー、その浴衣……似合ってるな」
最初に口にしたのはシリウスだった。真っ直ぐな褒め言葉に、思わず耳が熱くなる。
「へぇ、意外。もっと子供っぽいの選ぶかと思った」
ラスが片眉を上げる。軽口なのに、少し照れ隠しのようでもあった。
「……悪くない」
スコーピオは一言だけ。けれど視線は逸らさず、不器用な肯定に胸がくすぐったくなる。
「色合いがあなたに合っています。落ち着いた雰囲気が出ていて」
キャンサーは冷静に分析するように告げた。言葉は真面目なのに、どこか柔らかさを帯びていた。
(……あかん。褒められる側の選択肢なんてなかったはずやのに。なんで俺までドキドキせなあかんねん)
⸻
「わぁっ!」
真っ先に駆け出したのはやっぱりシリウスだった。
金魚すくいの屋台へ飛び込み、子供みたいに目を輝かせている。
波打つ銀髪が灯りを反射して、やけに鮮やかに見えた。
「……子供かよ」
そうぼやきながらもラスはちゃっかり射的の列に並び、サングラス越しに的を睨む。
そして――パンッ、と乾いた音。
「おっしゃ、景品ゲット!」
景品の駄菓子が次々と積まれていく様子に、店主が苦笑いしていた。
「……あいつ、地味に何やらせても器用やな」
俺が呟くと、隣でスコーピオが腕を組んで「チッ」と舌打ちする。
「くだらねぇ……」と言いながらも、なぜか次の瞬間には輪投げの屋台に向かって歩き出していた。
その後ろ姿に俺は吹き出しそうになる。
一方キャンサーは――
「……人混みは苦手ですね」
と小声で呟きつつ、几帳面にハンカチで眼鏡を拭き直していた。
普段どおり冷静に見える。けれど時折、その視線がちらりとシリウスの方へ流れていく。
(……やっぱりな。キャンサー君、気になっとるんやろな)
⸻
ひとしきり遊んだあと、みんなでかき氷をつつく。
「ブルーハワイはやっぱり王道だな!」とシリウスが嬉しそうに笑う横で、ラスは「舌が青くなるだろ」と呆れ顔。
スコーピオは黙ってイチゴ味を平らげ、キャンサーは「……冷たすぎると頭が痛くなりますね」と真顔でぼそり。
それがツボにはまり、俺は腹を抱えて笑ってしまった。
笑い声が重なる中、ふいにキャンサーが俺の肩にそっと触れた。
「……アリエスさん、少しシリウス君と話をしてきてもいいでしょうか」
「え?」
思わず聞き返す。
けれど、キャンサーの横顔は真剣で、決意がにじんでいた。
(……ま、まさかこれ……!)
俺の予感を裏切らず、キャンサーはシリウスの前に立ち、静かに声をかけた。
「……シリウス君。よければ、少し二人で歩いていただけませんか」
シリウスは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
二人は人混みの奥へと並んで歩き出す。
俺は慌てて屋台の影に隠れ、心臓を抑えながら小声で叫んだ。
(……っ! き、来た……! これは絶対“告白イベント”や!)
⸻
祭囃子が高鳴り、夜空に花火が一輪咲く。
二人の背中が提灯の灯りに照らされ、遠ざかっていく。
ざわめきにかき消されて言葉までは聞き取れない。
ただ、キャンサーが立ち止まり、真っ直ぐシリウスに向き合ったのだけは分かった。
深く息を吸い込むその仕草。
固く結ばれた唇。
そして花火の閃光が空を裂く瞬間、確かに彼の口が動いた。
「……好きです。シリウス君」
夜風に溶けてしまいそうなほど小さな声。
けれど、その想いは真剣そのものだった。
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