コミュ障な言霊師の放浪記

永沢 紗凪

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第1章

初依頼

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 スターライトにしばらく身を置くことになったツクヨは、とりあえず当初目的としていたチシク方面での依頼を探すべくギルドの掲示板の前まで来ていた。ギルドへやってきた依頼は難易度と地域によって大まかに区分されていて比較的探しやすくなっている。
「えーっと・・・」
「何か目当ての依頼は見つかった?」
 背後からそう問いかけられた。振り返るとカナデがテオを連れて立っていた。
「あ、カナデさん、テオ、こんにちは」
「やっほー!」
 テオはなんだかんだでお姉さんっ子なのだろう。基本的にいつもカナデと共に行動している。
「そういえば、ツクヨは一人で旅をしていたのよね?どこか目的地があったの?」
「あー・・・とりあえずいろいろと情報収集をしたくて、チシクに行こうとは思ってました」
「チシク・・・なるほど、確かにあそこの図書館は大きいものね。とすると・・・これなんかどう?」
 カナデは一枚の依頼書を指さした。場所はチシク。依頼者は商人でチシクまでの護衛任務のようだ。通る道からしてそこまで凶悪なモンスターは出没しなさそうだ。難易度としても手ごろな方だろう。報酬はそこまでだが難易度的には妥当なのだろう。最初の依頼としてはこんなものだろうか。折角見つけてくれたのだからこれにしようかと半分決めかけていたとき、テオが爆弾発言した。
「僕も一緒に行く!」
「へ!?」
 ツクヨは思わず変な声を上げてしまった。カナデも驚いた様子でテオを凝視している。
「テオ、あんたにはまだ依頼をこなすのは早いわ」
「お姉ちゃんが僕くらいの頃にはもう依頼を受けてたじゃんー」
 テオがジト目でカナデを見上げる。カナデは困ったように額に手を当ててため息をついている。そういえば、テオはつい最近ツクヨについてくるという爆弾発言をしたところだったということを思い出した。なんか妙に懐かれてしまった・・・のか?
「あら、テオはもう初陣したいの?」
「あ、リンカさん」
 テオの頭に片手を置き、もう片方の手をひらひらさせた格好でリンカはこちらへ笑みを向けていた。
「やっほーツクヨちゃん。昨日はよく眠れたかしら?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 一応、仮とはいえしばらくこのギルドに身を寄せることになったツクヨはこのアジトの一室を自室として使わせもらうことになったのだ。森での野宿に比べれば何十倍もマシと言える。
「いいのよー。それにしも、もう依頼を受けようなんて、ツクヨちゃんって真面目さんなのね」
「え、いや、そんな事ないと思いますけど・・・」
 苦笑いを浮かべていると、リンカが少し深刻そうな表情をした。
「どうかしたんですか?」
 それに気づいたカナデが首を傾げる。
「いやねー・・・あなたたちが見ていた護衛の依頼だけど・・・ちょっと気を付けた方がいいと思うのよね」
 というのも、最近盗賊の動きが活発になっているらしい。今までも存在自体はしていたのだが盗賊に襲われる事例はそう多くはなく、さらに言うなら最近報告されているような高レベルな連中などはそうそう遭遇するものではなかったらしい。最近はレベルもさることながら、扱う武器まで強力になっているらしい。これが何を意味しているのかは不明だ。それにもちろん遭遇しないことだって考えられるが用心に越したことはないだろう。
「と、いうことで!テオには大人しく留守番してることをすすめるわー」
「えー!」
 テオはあからさまにふてくされた様子で頬を膨らませた。
 というか対人経験何てないんだけど、とツクヨは心中で顔をひきつらせた。
「ツクヨちゃんはあまり戦闘慣れしてなさそうだし、二人だと少し厳しいところね・・・」
 リンカがんーっと何やら悩んでいる。自分はおそらく戦力としてそんなに役に立たないと思うんだけど・・・と思ったが口には出さない。護衛の依頼で戦力外発言とか、じゃあ何しに行くんだよって感じだ。
「ツクヨさん、あなたの戦闘スタイルを聞いてもいいかしら?」
「戦闘スタイル?」
「ええ。何系の魔法を使うとか、武器は何を使うのかとか」
 ん?魔法って何系とかあるのか?防御系とか攻撃系とかのことなのだろうか。
「あ、ええっと、武器は基本大鎌で、魔法は結構いろいろまんべんなく使ってますけど」
「ふむ、中距離武器ね。とすると少なくとも近接型の人がもう一人くらい欲しいところか」
 一人というか二、三人連れて行った方がいいと思うんだけどなあ。
 もちろん口には出さない。
「僕、剣使えるよ!」
「テオはダメって言ってるでしょー?」
「誰がいいかな・・・ツクヨさん、誰か一緒に行きたい人とかいたりする?」
「え、私ですか!?いや、まだあんまり話とかもできてないので特には・・・。その、カナデさんがいつも一緒に行く人とかは・・・?」
「そうねー。慣れてる人の方が連携は取りやすくはあるのだけれど」
 なんだかメンバー探しが始まりそうで、自分一人でもこなせそうな依頼にしておけばよかったと早くもツクヨは後悔し始めている。
「ねえ、リアン。あんた暇?」
「ちょ、何だよいきなり暇?って」
 近くのカウンター席に座っていた男が振り返って眉根を寄せる。
「ツクヨさんと護衛の依頼を受けようと思うんだけど、一緒にいかない?」
「・・・ああ、新しく入った子か。いいけど・・・」
「よし、一人確保。後は・・・」
「おい、早えな。まあいいけど」
「なになに、面白そうな話してる?」
 突然すぐ後ろから声がして驚いて振り返ると、一人の青年が立っていた。
「初めまして新入りさん。僕はザカリ―。よろしくね」
「あ、どうも初めまして。ツクヨです」
 何か明るいというか飄々とした人だという印象を受けた。
「あ、ザカリー。ちょうどいいや。一緒に依頼に行かない?護衛の依頼なんだけど」
「護衛?ああなるほど。確かに最近変な噂多いもんねー。いいよー」
 という感じでメンバーはカナデ、ツクヨ、リアン、ザカリーの4人になった。
 何というか展開が速すぎて若干置いて行かれている気がしないでもないが、主導権は完全にカナデに握られている。ツクヨはどう転んでもリーダータイプではないのでありがたいと言えばありがたいのだが。

「はあ・・・」
 いったん解散して各自準備を整えて昼にまた集まることになったツクヨはとりあえず自室に戻っていた。
「盛大なため息だな」
 若干楽しそうに言うフラウ。
「考えてもみなよ。つい昨日知り合ったばかりの女の子と今日会ったばっかりの男の人2人と依頼に行くんだよ?」
「それのどこに鬱になる要素があるんだ?初の依頼で緊張でもしてるのか」
「いや、まあそれもあるけどさ・・・」
 コミュ障にこの状況を辛いぜ、と心中で愚痴る。
 まあ決まってしまったのだから仕方ない。どうにか3人の足手まといにならないように頑張るしかない。
「依頼に行ったらまたフラウと話せなくなるね」
「仕方ないさ。まあ心配すんなよ。ちゃんと近くにはいるし。それとも何だ、寂しいのか?」
「い、いや、別にそんなことは」
「ちゃんと俺以外とも話せよー」
 からかうように言うフラウに、ツクヨは若干恨みがましい視線を向ける。
 普通に話せたら苦労はしないっての。
「あ、そういえば。魔法に何系とかあるの?」
 ツクヨは思い出したようにそう聞いてみる。
「ああ、さっきのか。まあ常識的に考えられる程度の区分がされてるだけだ」
 魔法は大きく分けて攻撃系と補助系が存在する。攻撃系は己の魔力を使って自然に干渉し、その力を操る。補助系は自身の魔力をそのまま違うものに返還させるもの。たとえばそれは一定回数攻撃を無効化する障壁だったり、索敵のための網だったりする。そしてもう一つ、この世界には治癒系の魔法は存在しない。ゲームのように一気に回復なんて芸当ができないところは妙に現実味があって純粋に恐怖を感じる。
「そういえばお前、まだ武器の扱いが中途半端だったよな」
 今度はフラウが思い出したように言う。
「武器の扱い?」
「ああ。あのでっかい大鎌をずっと持ち歩いてるわけにはいかないだろ?」
「アイテムボックスに入れとけばいいんじゃ・・・?」
「馬鹿か。咄嗟の時にいちいちアイテムボックスから取り出すのかよ。普通は装備しとくもんだろ」
 そう言われればその通りだ。
「武器は魔力を与えことによってその大きさから形や能力まで変えることができるんだ。能力変化はそれこそ結構な年数をかけなきゃできないが大きさを変えるくらいならすぐにできるだろ、たぶん。とりあえず鎌出してやってみろ」
 たぶんって聞こえた気がするがツクヨは聞かなかったふりをして自分のメイン武器である大鎌を出す。魔力を与えるってことは自分の魔力をこの武器に注ぎ込む感じでイメージすればいいのだろうかと思い、鎌を握った状態で少し集中してみる。
 小さく・・・小さく・・・
「おーい眉間にシワ寄ってるぞ」
「う・・・いや、そんな事言われてもこれ実際そんな簡単にできるもんなんですか?」
「・・・お前ならできるだろ、たぶん」
「そのたぶんっていうのが付くところに大いに不安があるんですけど?」
「口答えしてる暇があったら集中しろ」
「そっちがちょっかい出してきたんじゃなかったっけ!?」
「細かいところは気にするな。というか、お前は異常と言ってもいいほど魔力の回復速度が速いんだ。その点を考慮して不可能ではないと思うぞ」
 なんとなくとってつけた様に感じるが確かに持ち歩くには不便だという自覚はあるので大人しく集中しなおした。
 イメージとしては今手の中にある鎌のミニバージョン、手のひらサイズくらいだろうか。でもただ小さくしただけじゃ逆に失くしそうな気がする。いい感じに鎖とか付けれたらいいのに。
 しばらくそんな感じに脳内で妄想を繰り広げながら鎌に魔力を送り続ける。
 そして変化は起こった。
 パッと鎌が光に包まれたかと思うと、ツクヨが想像したような鎌のミニバージョンに鎖をつけたペンダントのような形になった。
「おーすげえ・・・」
 自分で願った形とはいえその通りになったらさすがに驚く。ツクヨは手のひらのそれをまじまじと見つめた。
「おお、本当にできたな」
 隣で感嘆の声をもらすフラウ。
 おい、それはどういう意味だと突っ込みたくなったが何とか抑える。
 とりあえずペンダントになった武器を首から下げてみる。
 うん、なかなか。
「さて、そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
 フラウにそう言われ、ツクヨは初の依頼に緊張と不安を胸に部屋を出た。
 ギルドの入り口前に行くと、すでにカナデが準備を済ませて待っていた。未だテオが行きたそうにしているが駄々をこねてはいないようだ。代わりに少し頬をふくらましている。
「すいません、遅くなりました」
 そう声をかけて近づく。
「いや、大丈夫よ。まだリアンとザカリ―も来ていないし」
 カナデはそう言ってほほ笑んだ。
「まったく、男が女の子を待たせるなんて!」
 いつの間にいたのかリンカが腰に手を当てて少し怒り気味で言う。
「おお、二人とも早いなー」
「お待たせー」
 とは言いながら二人はその後すぐに来たので特に問題はなく、リンカやテオといったその場にいたギルドの面々に見送られて4人は依頼人である商人ギルドの元へと向かった。
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