異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

文字の大きさ
9 / 29
第1章・旅立ち

8.葛藤

しおりを挟む

  そういえばふと思ったことだが、昨日の夜、スティアの力を借りて魔法を発動させて村を助けた時は、称号とかは手に入らなかった。ひょっとするとまた貰えるかと期待したが、あの効果音も聞こえなかった。
  もしかすると『村を助ける』っていう称号は存在してなくて『村人を助ける』って称号はもう取得済みだから何も起こらなかったのかもしれない。今では称号なんてポイントを稼ぐための隠しクエストみたいにしか思っていないが、いつかこれも役に立つ時が来るのだろうか。自分のステータスにも映らないし、そのうち何を取得してるかなんて忘れてしまいそうだ。

ーーーそういえば、今何ポイント貯まってるんだっけ。

  不意に思い出しスマホを取り出す。そこそこ賑わう村の中、歩きスマホは気が引けるので近くのベンチに腰を下ろしyamazonを開く。所持ポイントは3200ポイント。そういえばティナたちを助けた時に3000ポイント貰ったんだった。
  現状必要なものと言えば雨具や化粧品、それと追加の武器などだろうか。一人暮らしで必要なものならイメージできるが、旅となると難しい。

「えーと、武器か……」

  ただの剣や弓ならば換金した後に武器屋で買えばいい。yamazonじゃなきゃ買えない武器をよく吟味する必要がある。
  スタンガンとサバイバルナイフはたぶんyamazonでしか買えない。あとは催涙スプレーや警棒、さすまた……。

ーーーいや要らないな。

  催涙スプレーはともかく、警棒やさすまたをわざわざポイントで買うことはないだろう。特別な技術や材料が必要になるもの以外はこちらのものでいくらでも代用できる。だとしたら……。

ーーーyamazonに銃なんて売ってるか……?

  こちらの世界は魔法が発達している分科学技術の発達はかなり遅れている。見たところ、灯りも火元もそのほとんどか魔法で賄われているようだった。
  銃は理解さえしてしまえば機構は単純だ。しかしそれを思い付き、実用レベルまで開発するのはかなりの時間がかかる。前の世界だって、戦国時代から銃自体は存在していたんだから。
  ダメで元々だ、とりあえず調べてみる。

  『銃』で検索。当然ながら実銃なんて出てこない。銃に関する本とかエアガンとかばかりだ。
  ならば次は『実銃』で検索。やはり出てこない。というかよくよく考えればyamazonにあるってことは本家にもある、つまり誰でも買えるってこと。そんなんだったら日本もとっくにアメリカチックになってるはずだ。
  それよりももっと、安全性と実用性のバランスが取れたものはないか……。

ーーーあ。思い付いた。

  あるかもしれない。この世界にはおそらく存在せず、yamazonにラインナップがあり、なおかつ俺が扱える武器として成立するもの。

「お、やっぱりあるな」

  『クロスボウ』だ。『ボウガン』でも同じような商品が検索結果で出てきた。競技用や狩猟用という注意書きがあるあたり実用性は十分にあるはず。80ポンドとか言われてもよく分からないが、まあそこそこ威力ありますよってことだろう。
  その中でもデザインが良さそうなひとつをタップしてみる。値段は2500ポイント。今まで買ったものと比べればなかなかする。

  思ったことがある。このポイントは極力yamazonでの買い物に使って、換金は避けた方がいいということだ。最初は1ポイントあたり1円くらいの感覚の認識だったが、yamazonの商品を見るとこの世界の通貨との換金はあまり効率的ではない。だったらyamazonで役に立つ物を購入し、ギルドの依頼をこなして金を稼ぐ方が良さそうだ。

  さて、とりあえず今はクロスボウを買うかどうかだ。何か起きてからでは遅いという俺と、無駄遣いは避けるべきだという俺が頭の中で戦っている。
  魔法を使えるのだから戦闘で攻撃手段に困ることはない、たとえ攻撃が通じなくとも防御力が振り切れているのだから死ぬことは無い。買うこと否定派の俺が言う。
  遠距離での攻撃手段が魔法では不安定で、そもそも魔法を上手く扱える保証はまだない。それよりは殺傷性の有無も調整出来る武器を買っておいた方が安全だ。買うこと賛成派の俺が言う。

「うぬぬ……」

  迷う。賛成派と否定派の力は拮抗している。どちらにも同じようにメリットがある。
  そんな時、新たな俺が現れた。

『クロスボウなんて男のロマンに溢れてるもの、買う一択だろ』

  気付いた時には否定派の俺は砕け散り、指は購入ボタンを押していた。所持ポイントは700ポイントに減り、アイテムボックスの中には『クロスボウ』の文字。
  瞬間、様々な思いが押し寄せる。爽快感、後悔、ワクワク、不安、その他もろもろ。しかしこの後どうなるかなどまだ分からない。とにかく今は次のことに目を向けよう。

「何か昔もこんなことしてたな……」

  葛藤した挙句購入ボタンを押す。見に覚えがありすぎて苦笑いが出る。
  立ち上がり、再び村を歩く。

  ある程度の生活必需品、思い付く限りの異世界生活必需品は揃った。後は資金稼ぎだ。ギルドとの条件を満たすためにいずれはもっと大きな街へ行く必要がある。そのための資金集めだ。この村の魔力を取り戻したのは俺だが、俺がやったことはフィザさんとエリューシャさんの2人、それとティナたちしか知らない。この村での俺の扱いが特別変わったりもしない。
  となればギルドで仕事を探す必要がある。依頼を達成し、ある程度冒険者という職業に慣れつつ資金を集めていけばいい。一度ギルドを出たあと、同じ日にもう一度訪ねるのは些か気が引けるがしょうがない。
  俺はギルドに歩を進めた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...