異世界転生したけど神様のスマホを駆使して生きていきます

颯来千亜紀

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第2章・新たな拠点

18.戦闘訓練

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  ギルドの地下に設けられた戦闘訓練用の闘技場は予想外に広く、バスケットボールのコート3面分ほどの面積があった。高さは15メートルほどだろうか。

「それではユウスケ様とオウガ様の試合を始めます。命に関わるやり取りの場合のみ我々は止めに入ります」

  ギルドの職員が静かに告げる。

ーーー止めに入るってことはこの人たちは強いのか……?

  武器を持っているようには見えないし、セリーナさんのような溢れ出る魔力も感じない。ヤツはともかく、俺を止められるとは思えないが……。

「それでは始めてください」

  そんな俺の心配をよそに、淡々と試合開始を告げた。それと同時にオウガと呼ばれた相手が剣を抜きながら間合いを詰めてくる。その動きは確かに素早い。

  それに対して俺はステータスこそ規格外だが身体能力が上がっているわけじゃない。動きが早くなったりもしない。

「スラッシュ!」

「おお」

  オウガが叫ぶ。すると剣閃から突如として斬撃が飛んできた。
  軽く感心し、そのまま斬撃を受ける。服はボロボロになったが、もちろん俺にダメージはない。

「なっ……!?」

  続く第2、第3撃をダメージなく受け続けながら、俺は考えた。

  大きな戦いに参加する前にこの世界の平均的な強さ、詰まるところステータスを調べておく必要がありそうだ。避ける必要がある攻撃をしてくる相手がどれだけいるか、またそれを避ける手段もいずれは体得しなきゃいけないからな。

  さて、魔法の出力調整に使うと言ったはいいが、俺はまだ攻撃魔法は覚えてないんだよな。操作系の魔法は定型があるって書いてあったし、とりあえずはイメージでなんとかできそうな創造魔法を使ってみよう。

  呆然とするオウガに1度蹴りを入れ、距離を取る。

「ファイア」

  右手を鉄砲の形にしながら人差し指をオウガに向ける。ゆっくり魔力を集めながら、指先に集中した魔力に着火するイメージで。
  すると、指先から人の頭ほどの大きさの火の玉が現れた。火の玉はとてつもないスピードでオウガの横を掠め、そのまま闘技場の外壁を大きく抉った。

「は……?」

  冷や汗をだらだらと垂らしながらオウガはその場に膝を着いた。

ーーーふむ、やっぱり課題はコントロールか。

  魔力量も狙いも、両方の意味で、だ。多すぎる魔力量では余計な被害が出てしまうし、狙いが下手ではどれだけ攻撃しても相手を倒せない。どちらも練習を重ねるしかない。

  次の攻撃動作に入る。
  指の形はそのままに、込める魔力のイメージを反転させる。集めた魔力をそのまま凍結させるイメージで。つららのような形で、相手を射抜け。

「アイスニードル」

  氷の弾丸は火の玉よりも早いスピードで飛び、オウガの左肩に突き刺さる。魔力調整が上手くいったらしい、貫通するほどのダメージではなかったようだ。

「ぐああっ……!」

  オウガは左肩を抑え、呻きながら蹲る。そして剣を離し、右手を上げた。

「分かった、降参する……! もうやめてくれ……!」

「そこまで! 勝者、ユウスケ様!」

  オウガの言葉を合図に、ギルド職員たちが俺とオウガの間に割って入る。
  肩を組み、職員に連れて行かれるオウガをもう1人の男が殴り飛ばした。

「ぐあぅ……!」

「情けねぇ……何のダメージもなく降参だと!?」

  何度もオウガを殴り付けている。職員たちもたじろいで止めようとしない。レイアスはそんな様子をつまらなさそうに眺めている。

「やめろ」

  仕方がない。アイツがどうなろうと知ったことではないが、これで変な風評被害を被るのも困る。
  男の手が止まる。

「そいつに文句付けるんだったら俺に怪我させてみろよ。口ばっか達者にしやがって」

「上等だ……!」

  怒りを顔面に表しながら男は剣を抜く。

「ゆ、ユウスケ様とジーン様の試合を始めます!」

  職員が逃げながら言う。これでこっちも反撃できる。魔法での攻撃はほんの少しだが試すことが出来た。次はこっちだ。

  背中の剣をゆっくりと引き抜く。戦闘の雰囲気を察しているのか、魔剣は店で受け取った時よりも魔力を垂れ流している。手から伝わるその感覚は『興奮』に近い。

「おおおおおっ!」

  縦に振りかぶるジーンの剣戟を斜めに構えたグラムで受け流す。大剣はそのまま地面を大きく抉る。感覚でも意外と戦えるもんだ。それともこの剣のお陰か。

「ぐ、おらあっ!」

  反時計回りの横薙ぎを左腕で受け止める。ドガン、と轟音が鳴り響く。
  少し痺れたが痛みは無い。このレベルの攻撃も問題は無いようだ。

「クソが……!」

  本能的に危険を察知したのか、ジーンが無意識のうちに少し距離を取る。すかさずそこに走り、剣を振るう。縦に、横に、斜めに。かつて憧れていた画面の中の英雄達の見様見真似で、手に馴染む魔剣を力の限り振るう。

  ジーンの大剣にも、ジーン本体にも、次々と傷が増えていく。剣戟を止めると、ジーンは息を切らしながら魔力を込め始めた。
  魔力は段々と傷だらけの大剣に吸い込まれていく。大剣が鈍く光り出し、地下空間がビリビリと震え始める。

「ジーン様、その魔法はダメです!」

「闘技場が持ちません!」

  職員たちが血相を変えて止めようと声を掛ける。確かに魔力の感じが今までとは違うが、ジーンには止めようとする気配はない。
  ぐぐぐ、と一気に飛びかかってきそうな姿勢だ。仕方がないのでこちらも剣に魔力を込める。

  さっきオウガが使ってたスラッシュくらいなら、ぶっつけ本番でも使えるかもしれない。刀身にグラムの魔力と俺の魔力を、半分くらいの比率で満たしていく。グラムの魔力を破壊力に、俺の魔力をコントロールに。

  ジーンが飛びかかってきた。

「重・クレイスラッシュ!」

  オウガが放ったスラッシュとは比べ物にならないほどの大きさの斬撃が飛んでくる。それに合わせ、こちらもスラッシュを放とうとした。

  そしてその時、明確なイメージが見えた。

「ダメだッ!」

  放出寸前になっていたグラムの魔力を急遽俺の魔力で押さえ付ける。ジーンのスラッシュが目の前まで迫っているが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

  轟音と共に体に衝撃が走る。砂煙が舞い上がる。

「はあ、はあ……」

  頭に軽い痛み。それと何かが額を伝う感覚。地面に落ちたそれは、俺の血だった。額がほんの少し切れている。
  ふと持っている剣を見ると、溢れかけていた魔力は落ち着きを取り戻していた。そのことに安堵すると、そのままジーンに向き直る。

「あ、ありえねぇ……」

  呆然と立ち尽くすジーン。1発腹パンでもしてやろうかと思ったが、その必要も無かった。

「鉄の茨」

  聞き覚えのある声とともに、銀色の植物の蔓のようなものがジーンを縛り上げていく。その先にはセリーナさんが立っていた。

「セリーナさん……」

「事情はエマから聞いてる。うちのバカが迷惑かけたね」

  表情は至って真面目だが、怒っているのは俺にも分かった。そのままもう何度か謝った後、職員たちを連れてセリーナさんは戻っていった。
  静かになった闘技場のなか、レイアスが歩み寄ってくる。

「主、怪我を……」

「ああ、大した怪我じゃないよ」

  血はすぐに止まった。ダメージと呼ぶほどのものでもなかったが、こうも早い段階で血を流すことになるとは思わなかった。予定よりも早く、回避手段を身につける必要がありそうだ。
  
「さっきの主の魔法は……」

「止めなきゃヤバかった。あのままじゃアイツをぶった斬ってるとこだった」

  明確に見えたイメージは、ジーンの体を真っ二つに切断している様子だった。俺の魔力と共鳴したグラムの魔力が俺に見せた予知だったのかもしれない。
  この剣も含めて、まだまだ訓練が足りないようだ。力の使い方も使い所も、よく考えて行動する必要がある。

  2人に灸を据えることは出来たが、精神的な疲労は甚大だ。俺はウンザリしながらレイアスを連れて宿に戻った。
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